宇多田ヒカルの深遠なクリエイティビティに迫る デビュー25周年に伴うメディア出演を徹底総括

宇多田ヒカル、メディア出演を徹底総括

作詞作曲に関する多角的な質問に回答

 『NHK MUSIC SPECIAL』(4月18日)にも初めて出演。パフォーマンスだけではなく、ファンからの対話を交えた多角的な内容となった。

 「教えて!ヒカルさん」と題されたコーナーでは「生まれ変わるなら何になりたいですか?」(答え「猫。鳥もアリ」)、「自分のここが好きだなっていう部分はどこですか?」(答え「全体的にありだなと思ってます」)など全国から寄せられた質問に答えた。また収録中にNHKのスタジオに招かれた20代から60代のファンからの質問に直接答えるコーナーも。「人生の大きな決断をするときに大事にしていることは?」という問いかけに対して、「何が自分にとっていいことだったのかは、後にならないとわからない。最後は自分の腹の感覚で行ってみるしかないんじゃないでしょうか」と自分自身の経験に照らし合わせながら真摯に言葉を届けた。また、「子育てと仕事の両立」というテーマにおける「“今、こんなことを頑張ってるんだ”と子供と共有できたらいいんじゃないかな」というコメントも心に残った。

【特別公開】宇多田ヒカルに迫る一問一答「SPセレクション」|NHK MUSIC SPECIAL

 ライブパフォーマンスも充実。まずはベストアルバムのためにリレコーディングされた2曲。「traveling (Re-Recording)」では白い階段をモチーフにした近未来的なセットの上で歌唱し、煌びやかな手触りとシックな佇まいを共存させたボーカルを響かせた。「光 (Re-Recording)」では、衣装、照明を含め、モノトーンを基調にしたステージングに。凛としたファルセットを活かしたボーカリゼーションによって鮮やかなインパクトを残した。さらに新曲「Electricity」では国内外で活躍するダンサー・俳優のアオイヤマダとのコラボレーションが実現。サックスプレイヤーのMELRAWをゲストミュージシャンに迎え、この日限りのセッションを繰り広げた。

 ライブ直前には宇多田ヒカル×アオイヤマダの初対談も。アオイの振り付けについて、宇多田は「妖精か宇宙人みたいに現れて、最後、光の中に導いてくれて。愛そのものという感じですごく気持ちよかったです」とその印象を語った。それに対してアオイは「振り付けというより、動きの脚本をつける方が好き。宇宙人なのか未来人なのかわからないけど、上陸して、出会って。住んでる星が違うと孤立するから、止まってしまった時間をヒカルさんが動かして、共鳴して、また別の世界に行くというイメージで作らせてもらいました」とパフォーマンスの意図を明かした。

 さらに『EIGHT-JAM』(テレビ朝日系)では2週にわたって「宇多田ヒカル特集」が放送された(4月21日/28日)。宇多田本人へ70分超えのロングインタビューを行ったほか、スタジオには作詞家/プロデューサーのいしわたり淳治、「traveling」の再レコーディングを共同プロデュースした☆Taku Takahashi(m-flo)、ソングカバーアルバム『宇多田ヒカルのうた -13組の音楽家による13の解釈について-』(2014年)に参加したtofubeats、小学生の頃から大ファンだという吉澤嘉代子が登場し、宇多田の音楽的な魅力を解説。このほか、水野良樹(いきものがかり)、Yaffle、中村佳穂、佐藤千亜妃らのコメントも紹介された。

 4月21日の放送では、『SCIENCE FICTION』収録の「traveling (Re-Recording)」の共同プロデュースを☆Taku Takahashiに依頼した経緯について、「曲のコンテクストとして『平家物語』の引用もあるし、日本人の歌詞の感じとかを全部わかってくれて、思い入れも持ってくれる人だったら素敵なことができるかなと思って」と歌詞を重視していたことを明かした。

 続いてはゲストがお勧めする楽曲を紹介。☆Taku Takahashiは「光」のメロディの美しさを絶賛。同じ曲をセレクトしたtofubeatsは「〈光を撃て〉〈運命の仮面をとれ〉みたいな劇場的な言葉の使い方など、歌詞のデリバリーによってめちゃくちゃドラマティックに聴かせている」と作詞家としての宇多田の才能を解説した。吉澤は「あなた」を“究極の愛の歌”と紹介。「どんなラブソングも、詰まるところこの歌に辿りつく……と思ってしまうほどに完璧」とレコメンドした。

宇多田ヒカル - 光
宇多田ヒカル 『あなた』

 ゲストからの質問に答えるコーナーもあり、「メロディと歌詞は同時でしょうか?」(☆Taku Takahashi)に対しては「ほぼ100%メロディが先。先に歌詞ということが今までに一度もなくて。メロディがないと言いたいことがわからない」「メロディは母音とか子音の結びつきから出てくる」と回答。「『あなた』の“ai”の母音の多用をどこまで意識して作詞を?」(いしわたり淳治)については「特にコーラス(サビ)やヴァース(Aメロ)で同じメロディが繰り返されるときに、同じ母音でできるだけ(揃えた)」「セカンドヴァース(2A)の(韻)も揃えたり、結構頑張った記憶があります」と作詞メソッドの一端を明かした。さらに作詞に関する生みの苦しみにも言及。「諦めないで考えた挙句に『わっ、そうか!』という、自分にとって発見のある考え方・発想の転換が出てきて、そこで『これで曲が完成だ』と思えます」「作詞は釣りみたい。いくら待っても釣れないこともあるし、何をしててもそれを考えている自分がいて、オンとかオフはない」と語った。

 4月28日放送の冒頭では、いしわたりが「初恋」を取り上げ、「“あなたが好き”という思いを伝えるフレーズの引き出しの多さ、表現の角度の多様さがスゴい」と分析。いしわたりからの「日本語で書くことのこだわりは?」という問いに対して「日本語で書くほうが好き。遊べるというか自由度が高い」とコメントした。

宇多田ヒカル 『初恋』

 また、2016年の活動再開後の作風として、「日本語への意識の変化はなぜ生まれたのか?」という質問には「ロンドンに引っ越してからですね」「息子には日本の童謡を聴いててほしいなと思って、私も聴いて覚えて一緒に歌ったりして」「リセットして、雑な日本語がない環境にいたのがよかったのかなと」と日本語のよさを再認識したことを明かした。また「アルバム『Fantôme』は母の弔い的な作品。母とは日本語で話していたので、それも大きかった」と言葉を重ねた。

 その後も、「『One Last Kiss』のセカンドヴァースのベースの入り方」(Yaffle)、「『道』におけるソカ、カリプソのリズム」(tofubeats)など“曲の中の違和感”の取り入れ方、「(『Can You Keep A Secret?』『Flavor Of Life-Ballad Version-』など)声から始まる曲が多い」(水野良樹)、「新曲『Electricity』は“宇宙人同士の恋”から始まり人間的な核心に向かっている」(いしわたり)、「『何色でもない花』は宇多田ヒカルさんの最高傑作。音楽って自由だよねという楽しさが伝わってくる」(☆Taku Takahashi)など、ゲストが選んだ幅広いテーマでトークを展開。「結局は自分がずっと対象。独り言みたいな歌詞が基本」「自分を突き詰めたら、人間はみんな同じというイメージがある」「最近よく聴いてるのはバッハ」といったコメントもそうだが、宇多田ヒカルのクリエイティビティをより深く知ることができる貴重なプログラムとなった。

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