Nirvana カート・コバーン 30回目の命日 知られざる“野心”や現行アーティストへの多大な影響

カート・コバーン 30回目の命日

“空虚”の傍ら、カートが燃やし続けた野心

 グランジの魅力として、“空虚”というワードがよく挙がる。しかし、カートの美しさが退廃美であるかと言えばそれはきっと違う。泥臭さの中にある美しさとは、決して朽ちていくことではない。もがき、叫ぶ姿の内側に宿る、命と野心が燃えるような美しさをカートに感じるからだ。

 そもそもカートには、秘めたる野心があった。身近な存在であった妻のコートニー・ラヴも娘のフランシス・ビーン・コバーンも、カートが野心家であることを認めており(※1、2)、元マネージャーのダニー・ゴールドバーグは、「野心を隠したのも彼のアートの一部だった」と語った(※3)。ドキュメンタリー映画『COBAIN モンタージュ・オブ・ヘック』(2015年)でも彼が野心家であったことが示唆されている。

 負けず嫌いで人の評価にも敏感だった。身近なデイヴ・グロールの歌声にも嫉妬した(※4)。常に一番でいたかった。そんな彼に野心がなかったとは思えない。カートが晩年、自分が作る音楽に何も感じなくなるほど不感症になり、空虚であったことは間違いないだろう。アコースティックスタイルで臨んだ伝説の『MTV Unplugged in New York』でのパフォーマンスもまた、空っぽだったからこそ、まるでゾーンに入ったようなあのプレイを成し得たかもしれない。しかし、作品を振り返っても、彼の生涯を思っても、「人生そんなもんだ」と虚になる裏側で、命からがら、心からがら「どうにかしてやる」という野心の炎が絶えずゆらめき続けているように思えて仕方がない。それが、世代を超えて多くの若者から焦がれ続けられる最たる理由なのではないだろうか。

Nirvana - The Man Who Sold The World (MTV Unplugged)

新世代へ受け継がれていくカート・コバーンの遺伝子

 カートとNirvanaが今日までミュージシャンへ与えた影響は計り知れない。今や独自の世界観を確立したRadioheadも「Creep」など初期の楽曲はNirvanaからの影響を強く感じさせたし、過去に追悼パフォーマンスも行ったMuse、セイント・ヴィンセントもNirvanaにリスペクトを掲げている。また、コートニー・バーネットはワイルドなギタープレイやソングライティングから、カートを引き合いに出されることも多く、初めて自分で買ったアルバムも『Nevermind』だという(※5)。

 “Z世代の代弁者”ともいわれるビリー・アイリッシュは、差別的思想への確固たる否定や若者を中心としたオーディエンスとの共振など、ミュージシャンとしての根本的な部分でカートと共鳴している。「What Was I Made For?」制作時にはカートの遺書を読み込んだといい、彼への共感とリスペクトを明らかにしていた(※6)。

Billie Eilish - What Was I Made For? (Official Music Video)

 Nirvanaからの影響を公言し、グランジを内包しながらHIPHOP界隈以外からも支持の高いXXXテンタシオンや、“HIPHOP界のカート・コバーン”とも称されるリル・ピープという、若くして亡くなった二人もまた、カートの遺伝子を強く感じざるを得ないアーティストだ。

 ロックとHIPHOPの融合に長けたヤングブラッドは、「fleabag」で「Smells Like Teen Spirit」を彷彿とさせる曲構築やメロディ、カートライクなギターリフなどを披露し、大胆にNirvanaの面影を感じさせた。ダウナーなグランジの影響を、ドラマチックでグラマラスな音像としてアウトプットするという現代的な趣向が凝らされているところに、“遺伝子が受け継がれる”という意義を感じさせる。

YUNGBLUD - fleabag (Official Video)

 日本のHIPHOPシーンで言えば、カートからの影響を大胆に感じさせるKOHHは、自身のライブで「Rape Me」を流したり、「Imma Do It」などのリリックにもカートやNirvanaの名前を用いている。初めて買ったバンドTシャツがNirvanaだという(sic)boyは(※7)、中学生で大きく形成されていった自身の音楽観にもダイレクトに影響を受けていることだろう。

KOHH「Imma Do It」

 そして、カートやNirvanaが筆頭となり築き上げたグランジという確固たるジャンルは、一部で“ネオ・グランジ”と呼ばれるような新しい形で現代に受け継がれており、圧倒的センスを持つw.o.d.や、Royal Bloodのマイク・カーも激推しするUKのTigercubなどにその系譜が垣間見える。やがてカート・コバーンという名前が忘れ去られる日が来るとしても、彼が残した偉業と魂は未来へ脈々と受け継がれていくのだ。

w.o.d. - 1994 [OFFICIAL MUSIC VIDEO]
SHOW ME MY MAKER [OFFICIAL VIDEO]

※1:https://bezzy.jp/2023/06/26656/
※2:https://news.livedoor.com/article/detail/14417397/?p=2
※3:https://courrier.jp/news/archives/159226/
※4:https://rockinon.com/news/detail/185280
※5:https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/6058
※6:https://98kupd.com/billie-eilish-describes-kurt-cobain-influence-on-what-was-i-made-for/
※7:https://fnmnl.tv/2020/10/30/109885

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