4s4ki=あさき、孤独な心に届ける切実な願い 国内外のリスナーを魅了する強力な個性に迫る

4s4ki=あさき、孤独な心に届ける願い

 〈聞いて〉〈笑って〉〈許して〉――いくつかの願いがシンプルな言葉になり、美しく幻想的な音の波間から浮かんでくる。そして、願いはいつしか伝えるべき想いに変わる。〈愛してる〉と。鎧を脱ぎ捨て、わからないことには口をつぐみ、それでも溢れる言葉だけが切実に、柔らかに、書き留められる。これは、自分自身を深く見つめ続ける人だから、生み出すことができた音楽だろう。4s4kiの新曲「ねえ聞いて」は、混沌を手なづけてきたひとりのアーティストが、その混沌の奥に携えてきた心を、ある意味では無防備とも言えるシンプルさで、この世界に開示した1曲である。もしかしたら、4s4kiにとってこの曲を本当に届けたい相手はたったひとりの誰か、なのかもしれない。それでも、この音楽は私にも、きっとあなたにも、伝わる。音楽とはそういうものである。

 「4s4ki」と書いて「あさき」と読む。一見まるで記号のような表記のアーティストネームを冠した4s4kiは、10代後半に活動を開始して以降、リアルとインターネットを、または日本と海外を、自由に横断し、越境し、様々なジャンルや価値観を彼女の中で混ぜ合わせるようにして活動を繰り広げてきた。中学生の頃からニコニコ動画を通してネットラップなどに触れ、高校生の頃にはアヴリル・ラヴィーンやParamoreなどのパンクロックを聴きながら自分を鼓舞して学校に通っていたという内気な少女が初めて音楽作品を世に放ったのは2018年のこと。DTMでひとり音楽を作り、路上ライブや舞台への楽曲提供などを行っていた4s4kiの音楽を、さらに広い世界に問う最初の媒介となったのはDOTAMAや泉まくらといったアーティストの作品を発表してきた音楽レーベル「術ノ穴」だった。術ノ穴からリリースされた4s4kiの初作となるミニアルバム『ぼくはバカだよ。』には、触れたら壊れそうなほどに繊細で、しかし時を経ても色褪せることのない輝きを放つメランコリックなベッドルームポップが6曲、収められている。

アサキ 『Gender』 (Official Music Video)

 2020年には同世代アーティストたちとのコラボアルバム『おまえのドリームランド』をリリース。本作の存在は“個”としてだけでなく、“場”や“現象”として様々な他者と繋がり、シーンに影響を与えていく4s4kiの柔軟な存在感を知らしめた。2020年には初のオリジナルフルアルバム『超怒猫仔/Hyper Angry Cat』を発表。既発曲をこれでもかと詰め込んだ全24曲収録の大作となったこのアルバムからは“過剰”とも言えるほどのエネルギーを感じるが、この“過剰さ”を巧みに操ってしまえるという点こそが、4s4kiが極めて現代的なアーティストであることの証でもあった。

4s4ki - おまえのドリームランド(Official Music Video)
4s4ki - 35.5(Official Music Video)

 その後、2021年にはビクターエンタテインメントのスピードスターレコーズからメジャーデビュー。それ以降、現時点でオリジナルフルアルバムとしては『Castle in Madness』(2021年)と『Killer in Neverland』(2022年)という2作をリリースしているが、どちらも国内外のアーティストとのコラボレーションを含む多面的な魅力に溢れながら、4s4kiの強烈な存在感を聴く者に刻みつける作品たちである。『Killer in Neverland』はアメリカの大手音楽メディア Pitchforkにも取り上げられている。そして、2023年は4s4kiに大きな影響を与えたというアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』とタッグを組み、同アニメからのインスパイアド・アルバム『CODE GE4SS』を発表。様々な他者と繋がりながらその表現領域を拡張していく姿を私たちに見せつけた。

4s4ki - LOG OUT (Official Music Video)
4s4ki - CODE GE4SS (Official Music Video)

 根底にある内省的な詩情。そして、アニメやゲームなどからの影響も自由に咀嚼しながら、雑食的に生み出される4s4kiのカオティックな音楽世界。ド派手で奇抜なアートワークやエキセントリックなアーティスト写真、タトゥーが目を引く何かのキャラクターのような彼女自身のカラフルなビジュアルも含めて、どこか“非現実的”で“トリッキー”な存在として4s4kiを見る人もいるかもしれないが、彼女の表現の本質にあり続けているのは、世界を、自分自身を、“問う”眼差しなのだと思う。私たちが簡単に口にする“普通”や“常識”とは本当にその通りのものなのか? 目に見えるものだけが本当にこの世界を形作っているのだろうか? 自分自身の本当の形とは、一体どんなものなのだろうか?――決壊した心から溢れる感情の洪水のようなメロディも、人間の肉体性を飛び越えながらも、どうしようもなく“肉体的”としか言いようがないダイレクトなビートやサウンドも、4s4kiが生み出す音楽はこの世界から目を背けるためではなく、“本当のこと”を探すために生み出されているのではないか。

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