Lymが本当の意味で“バンド”になるまで EP『torch』で開いた新たな引き出し
「トラックが言葉の後押しをする」こともある
――これだけたくさん曲を作っていると自分たちが一番うまくやれるやり方が見つかってくるものだと思うんですけど、そのあたりはどうですか?
たかぎ:やっぱり最終的には「俺、歌持ってきた」ってやつがよくない?
悠理:Lymの中で満場一致で「いい」ってなるのはそうなんですよ。れおがゼロからポーンって出してきたものをみんなで広げていくっていうのが今のところベストな感じはする。でもそれだけだとずっと同じようなサウンドになっちゃうこともあるので。今回みたいな逆バージョンだったり、れおにこっちからぶつけてみて、そこからビヨーンって跳ね返ってきたものから広げてみるみたいな作り方をして、また別の山の「いい」をたくさん作っていくみたいな感じですね。
――「逆バージョン」というのはつまり、歌から作っていくんじゃなくて、リズムやオケから作っていくということですね。今作でいうと、そのやり方でできたのはどの曲ですか?
たかぎ:俺は「Pupa」だと思う。
悠理:圧倒的に。「Pupa」も、最初に僕がコードを弾いて、れおが歌メロをつけたところから伸ばしていってはいるんですけど、結果的に全然別物になったので。
――いつものLymの曲は歌が楽器隊を引っ張ってるような印象があるんですけど、「Pupa」に関しては、歌が逆に翻弄されてる感じがします。
たかぎ:本当に、「ついていけんのか」って(笑)。あとリード曲の「灯し、君へ」も同時並行で作ってるんですよ、トラックとメロディと歌詞を。なのでこれも新しいアプローチをしてみた楽曲ですね。
――「灯し、君へ」は本当にメロディのドラマ性やダイナミズムもあるんだけど、それと同時に演奏のダイナミズムみたいなのもあって、それが合わさった時によりデカくなるみたいな曲ですよね。おっしゃったように、そうやって作り方が変わっていくことによって出てくる言葉も変わっている気がする。
たかぎ:本当に変わってます。僕が個人的に作ってたら、こんなに前向きな言葉は書けない。「Pupa」とかもそういう部分がありますね。でも今回の曲全部がそうかといったらそんなことはなくて、「選ばれない恋」のような、原点回帰的なバラードもあるので。本当にいろんな楽曲が詰まっていて。「ペトリコール」とか「period。」は僕がメロディを持ってきたものなんで、そういったもともとLymが持っていたやり方と新しいやり方がうまく混ざっていると思います。
――1曲目の「シリウス」は?
玉野:「シリウス」は情景から始まった。
たかぎ:これは新しかったのが、りんとが――。
玉野:『ストレンジャー・シングス』(Netflix)っていうドラマがあるじゃないですか。あれで好きなシーンがあって、そのシーンをイメージして伝えたんですけど、全然違う伝わり方をした結果、この曲ができました(笑)。
悠理:れおはストーリーを作るのが得意だと思うんです。何かのテーマで起承転結の端々まで書いて、それをどれだけ歌詞の中に詰め込めるか、そんな感じで作詞しているイメージなんです。
たかぎ:作詞は、今まで書いてきたものもそうですけど、全曲ドラマが作れるぐらいには脳内にストーリーがあって。今回の作品も僕の中では全曲ドラマが流れてるんですよね。
――「シリウス」なんてまさにドラマの一場面みたいな歌詞ですけど、これを聴いていて不思議な感じになったのは、最後までハッピーなのかそうじゃないのかがわからないところで。たかぎさんの中ではどうなんですか?
たかぎ:最後にハッピーエンドにしようかと思ったんですけど、「おもんないわ」と思って。そこは委ねます、と。僕はハッピーエンドがよかったんですけどね、本当は(笑)。でも案外「どっちなんだい」っていう人もいたから「ああ、よかった」と思って。
悠理:結構言い切り型なんで、これまでは「正解はこれです」っていう解釈をわりと決めちゃう曲が多かったんです。その中で「シリウス」は正解が分からないっていうのが新しいのかなって。
たかぎ:でも歌詞の中で前向きさは失いたくなくて。今回全曲が、幸せなのか不幸なのかは分からないですけど、どこか主人公の中に光があるんですよ。明かりみたいなものが一点あって、それに向かってるようなお話が6曲って感じですね。
――その感じって、今までそんなに出してなかったんじゃないですか?
悠理:だいたい暗いワンルームでスタートしてた(笑)。でもこの先を見据えた上で、どんどん解釈というかテーマの場所が広くなっていってるなっていうのは感覚的にありますし、広くなることによっていいなって思うことがたくさんあるので、これからももっともっと広げていってほしいです。
――本当に開けていく感覚があって、しかもそれはきっと、サウンドとの相互作用で生まれたものだと思うんです。「シリウス」だってすごくギターロック感の強い曲になっていて、それが新鮮でしたし。だからこそ強い歌詞を描けるようになったという側面もあるんだろうなって。
たかぎ:最初はバンドを知らなかったんですけど、いろんなバンドを聴く中で「トラックが言葉の後押しをする」っていうこともあるんだと思って。歌だけじゃバンドとして成り立たない部分があったんで、今回こういう曲がいっぱいできて、僕は嬉しいですね。よく「バンドは引き算」って言われるんですけど、僕は足し算がめっちゃ好きなんですよ。「period。」とかもいろんな音が入ってて楽しいなって思いますし、「Pupa」はドラムとかベースががんばってるんで、そういうのも聴いていて楽しいですし。やっぱり僕自身、歌以外にもおもしろさを生み出してる部分があるんですよね。
――「ペトリコール」から「_,」というインタールードが入って「period。」に繋がっていくのも、すごくバンド的じゃないですか。そういうことがやれるようになったっていうのも大きいのかもしれないですね。僕、「ペトリコール」も大好きなんですよ。すごくグルーヴを感じる曲で。
たかぎ:こういう曲やりたかったんですよ。なんていうの、ああいうドラム。
玉野:ちょっとシャッフルじゃないですけど、ハネてるリズムで。
たかぎ:好きなんですよね。歌ってて楽しい。かつ、後半は後半でLymらしくいく。そういうところがうまく混ざっているなという。今のところ、引き出しがまだ全部は開いていないなと自分でも思っているんですけど、今回「ペトリコール」でも新しい引き出しが開きましたし、これからもどんどん開いていきたいなって。
――今回みたいな曲ができていくと、ライブもどんどん変わっていきそうですしね。
たかぎ:そうですね。『Current』ができたころから結構ライブの作り方が変わってきていて。今まで僕ら、本当にそれこそ「スンッ」ってライブをしてたんですけど(笑)。
悠理:お客さんにはどっちかっていうと浸ってもらうというか、聴かせにいくというか。
たかぎ:でも去年いろいろなライブに出させてもらって、いろんなバンドを観せてもらって、「それだけじゃ楽しませられないな」っていうのがあったんで。みんなで一緒に作り上げられるようなライブを心がけようと思ってやってます。
――演奏していても楽しくなってきたんじゃないですか?
悠理:めちゃくちゃ楽しくなってきましたね。本当に動かなかったんですよ。音を綿密に作りたいっていうのが最初にあったんで、どれだけいい音を出せるかみたいなところで勝手に勝負してたんですけど、お客さんだったりライブの一体感だったりを意識するようになりました。
――そういうことも、お客さんの前でライブを重ねることで発見していったことですよね。
たかぎ:そうですね。やっぱり今まで聴かせるだけじゃ見えなかった表情とかが見えたり、それこそ僕らコロナ禍でのライブを経験してたんで、マスクがなくなって見え方が変わりました。一緒に楽しんでるんだったら笑ってくれるし、悲しい曲を聴いてたら悲しい顔をしてくれますし。
――さっき“テーマの場所が広くなっている”というお話もありましたが、気持ち的には目線としては出てるというか、すでに外に向いてるんだなっていう感じがするんですよね。それこそ「灯し、君へ」で〈夜明けはもう近いよ〉って歌っていますけど、そういう意識になってきてるんだなって。
たかぎ:その曲こそ、僕的には聴いてくれる人、本当に目の前のお客さんに歌いたいと思って書いた曲なんで。今までそういう曲がなかなかなかったんですけど、ライブでしっかり目を見て歌いたいなって思いますね。
――3月から始まるツアー『Lym LIVEHOUSE TOUR 2024「torch」〜僕らの灯りを知る旅路〜』でどんな風景が生まれるのかが楽しみです。
たかぎ:「照らし照らされ」っていうのが今回のテーマなんで。出てくれるバンドもそうなんですけど、やっぱり観に来てくれる人にとってはバンドが光だったりして、小さくてもいいから、お客さんの光もバンドの光も集めて、大きい明かりになったらいいなって。どんどん灯していって、最後に大きく光れたらというイメージでツアーに行ってきます。
悠理:新しいところもたくさん行きますし、楽曲の中でも新しいことに挑戦してる部分もあって、『Current』を出した時とはまた違う見せ方になりそうだなって。また新しいアプローチとかギミックみたいなものをたくさんやっていきたいし、それをやった上でファイナルの時には、今まで出してきた他の楽曲も相まって、Lymの今後が見えるようなツアーにしていきたいなって思ってます。
たかぎ:全部巻き込んでいきたいです。出会う人全部を巻き込んで、大きくしてファイナルを迎えたいです。
■リリース情報
Digital EP『torch』
発売日:2024年2月16日(金)
リリース形態:ダウンロード & ストリーミング
レーベル:アジサイレコード
<収録曲>
シリウス
ペトリコール
_, (アンダーバーカンマ)
period。(ピリオド)
選ばれない恋
Pupa(ピューパ)
灯し、君へ
▼配信各社はこちら
https://Lym.lnk.to/TorchPR
■ツアー情報
『Lym LIVEHOUSE TOUR 2024「torch」〜僕らの灯りを知る旅路〜』
2024.03.09. (土) 「仙台公演 at 仙台ROCKATERIA」
2024.03.16. (土)「広島公演 at CAVE-BE」
2024.03.17. (日)「福岡公演 at Queblick」
2024.03.30. (土)「大阪公演 at 心斎橋BRONZE」
2024.03.31. (日)「名古屋公演 at CLUB ROCK'N ROLL」
2024.04.13. (土)「東京公演 at 代官山UNIT
チケット:前売 ¥2,500
▼各公演出演アーティスト詳細などチケット情報はこちら:
https://l-tike.com/lym2024
Lym MORE INFO:https://lit.link/lymband