Lymが本当の意味で“バンド”になるまで EP『torch』で開いた新たな引き出し

Lymが“バンド”になるまで

 2018年12月に活動開始、現在は3人組のバンドとしてライブを重ねじわじわとその名前を広めているLym。もともと弾き語り志向だったたかぎれお(Vo/Gt)の書く歌詞とメロディは強い吸引力をもち、一度聴けば忘れない魅力を放っている。昨年6月にリリースされた配信EP『Current』ではその歌の魅力が全開になり、Lymというバンドのひとつの「形」が決まったように感じていたが――それから8カ月、新たに産み落とされた新作EP『torch』は、それすらも彼らの一側面に過ぎなかったということを教えてくれる。真ん中にある歌を支えるように鳴っていたバンドのアンサンブルは一気に個性を爆発させ、バンドならではのグルーヴがたかぎの歌とせめぎ合う。新鮮なリズム、新鮮なアレンジ、そしてそれによって引き出された新鮮なメロディと言葉が、これまで以上に広い情景を描き出す。Lymが本当の意味で「バンド」になったような高揚感を感じられる今作はいかにして生まれたのか、Lymの歩みをたどりつつ、たかぎ、悠理(Gt)、玉野りんと(Dr)の3人に語ってもらった。(小川智宏)

アコースティックユニットからバンドへ 刺激し合うメンバーの相互関係

Lym 撮り下ろし写真

――バンドの成り立ちからお話しいただければと思うんですが、そもそもは大学のサークルで、たかぎさんと悠理さんが組んだユニットが始まりだったとか。

たかぎれお(以下、たかぎ):はい。(悠理は)後輩だったんですけど、サークルでギターをやってて。僕は本当に歌を歌いたかったので、最初はユニットみたいな感じで人の楽曲をカバーしてました。

悠理:アコースティックサークルだったので、バンド始まりではないんです。僕がアコースティックギターを弾いて、たかぎが歌を歌うだけっていうのでやり始めたのが最初。たかぎはLymを始めるまではバンドを一切やったことがなかったんです。

――そこからバンドになっていったのはどういう経緯だったんですか?

悠理:アコースティックで2人でやるのもいいんですけど、僕がバンドサークルにも同時に入っていたというのもあって、聴いている音楽が若干バンド寄りだったりしたので。だから「バンドをやろう」って思って始めたっていうよりは、せっかく曲も作ったし、映像でも音源でも、何かしらの形で残したいねっていうのが最初だったと思います。

――バンドになっていく中で、できる曲のテイストやニュアンスが変わってきた感じもしますか?

たかぎ:変わってきました。ずっと僕の歌メインで作っていて、そこから肉づけしていく上でなかなか鋭利なメロディとかは思いつかなかったんですけど、そういう部分がスタジオでのセッションで出てきたりしているので。バンドをやっていなかったら出てこなかったなみたいな曲が特に最近はいっぱいできてきて。今回の新しいEPもそういう曲が多いですね。

悠理:昔は勝手にバラードが強みだと思っていたんですよ。そこからだんだん、れおの歌とバンドらしさをどう表現していこうか、みたいなことを考えるようになって。去年はそれをめちゃくちゃ考えてた気がしますね。

――玉野さんが2020年に加入した時、Lymはどういう状態だったんですか?

玉野りんと(以下、玉野):ちょうどコロナが広がっていた時で、1回ライブを観に行ってバンドに誘ってもらったんですけど、すぐには参加できないっていう社会的な状況だったんです。その時ライブを観た印象は、歌がすごくうまい人だなっていう。その後、たまたま(たかぎと)家がめちゃくちゃ近いってことが発覚して、ぐっと仲よくなって、そこからですかね。とはいえ、すでに地盤があるところに入った感じだったんで、最初はとにかく歌を引き立てることを意識しながらドラムをやっていた感じでした。

――今作を聴くと、ドラムもギターもいい意味で主張が強いなって思ったんです。

悠理:これも変化っていうか、チャレンジというか。今作はそういった、今までやってこなかったようなことをやってみようみたいな潜在的な意識があって作った楽曲が多いので、ドラムを目立たせてみたり、ギターを目立たせてみたりした曲が盛りだくさんになったかなと。

――前作の『Current』と比べてもだいぶ飛距離がある感じがします。今作を含めてEPが4作、その合間に連続配信リリースも毎年やっていて。かなりコンスタントにリリースを重ねてきていますよね。

たかぎ:そう、計算したら月1くらいで曲を出してるんです。

悠理:去年は12曲くらい出してた。

――それはどんどん曲ができるタイプってことなんですか?

悠理:できるときはできるし、できないときはできない。

たかぎ:一昨年はあんまりできなくて、めちゃくちゃ悩んでました。それが明けてからババッと作りまくってましたね。

Lym たかぎれお 撮り下ろし写真
たかぎれお

――一昨年曲がなかなかできなかったというのは何が原因だったんですか?

たかぎ:僕のメンタルですかね。落ち込んでて、ずっと。何があったかは覚えてないんですけど(笑)、あまりかんばしくなかった記憶があります。

悠理:コロナ真っ只中でライブもなかなかできず、集まる機会もあまりなく、当時はセッションで曲を作ってたので、そういった面も含めて(曲が)できなかったんですよね。

――たかぎさんの書く歌詞は、どちらかというと陰な心情とかネガティブな部分をさらけ出すようなところが多いと思うんです。曲が生まれる時の感情はそういうものが多い?

たかぎ:そうですね。だいたい夜にひとりで、言葉を書いて消して、書いて消してってやってます。前向きな歌詞も最近は書けるんですけど、やっぱり根はめちゃくちゃ暗いところがあって。どちらかと言えばそういうところが本質っていうのはありますね。

悠理:長年付き合ってきたからこそわかるんですけど、細かい部分を気にするところとか、ちょっと繊細な考えとかセンサーがあって、そういうところも歌詞の中に出てくる。嫌なことを忘れたくないタイプだと思うんで、どちらかというと。そういうものを残していって、それが土台となって今の幸せがあるよねっていうのがLymの軸で。そういうところにはれおの性格がそのまま出てるかなと。

Lym 悠理 撮り下ろし写真
悠理

――バンドとしても彼の内面や思いをどう伝えられるかっていうことがいちばん重要だと思うんですが、それをやっていくために意識していることってどういうことですか?

悠理:ちょっと具体的なことを歌うことが多いので、ギタリストとしては、海だったら海っぽい音色、部屋だったら部屋っぽい音色にするとか、悲しみだったら悲しいギターを弾くとか、なるべくその情景とか生活している空間が見えるような曲作りをしたいなっていうのは常に意識しています。そこを土台にして感情が乗ってきて、より鮮明になったらいいなっていう。

玉野:僕もそれこそ当初入った時はもうとにかく、頭の中で鳴っているドラムの音をなんとか具現化しようっていう方向でした。でも最近は「もっとエゴを出せ」ってオーダーされることが多いので、「この人がやってるんだな」っていうのがわかりやすいようなドラムを叩こうと思っています。あと、やっぱりボーカルの精神状況は、日常でいっぱい喋ることがどこかで曲作りにつながってきたりするのかなって。

Lym 玉野りんと 撮り下ろし写真
玉野りんと

――「もっとエゴを出せ」というオーダーがあったということですけど、言った側としてはどういう心境だったんですか?

たかぎ:それこそ最初は、歌がバーンって出てくればいいと思ってたんです。でもバンドなんで、それぞれが歌を食うぐらいやらないと、たぶん人の記憶には残らないなって去年ぐらいから思うようになって。そのあたりから「エゴをどんどん出してくれ」って言うようになりました。ケンカもしますけど、それぐらいやっていかないと無理だなって思ったんで。それぞれがしっかり出した何かをうまく混ぜて作った方が、より一層バンドとしてかっこいいものが生まれるんじゃないかなって思って、そう言いましたね。

悠理:今思い返してみると、それがターニングポイントだった気がしますね。バンドっていうものを改めて考えた時期でした。

――たかぎさんからすると、歌を歌いたいと思って弾き語りを始めて、それがいつの間にかバンドになったわけじゃないですか。バンドであることの強みってどんな部分だと感じていますか?

たかぎ:やっぱり2人とも僕の中にない何かを持っている人たちなんで、それは1人で作ってたら絶対にたどり着けない部分なんです。ボーカルワンマンのバンドもありますけど、僕らは本当に均等な感じでやってるんで。僕にないものを持ってきてくれるからこそ、新しいものが生まれる。それで僕がまた刺激をもらって、もっと新しいものができていく。相互関係みたいな感じですね。

――今回の『torch』はまさにそういう作品になっていると思います。

たかぎ:そうなってますね。今までは僕が歌を持ってきて、それに音をつけていく感じだったんですけど、今回は曲によってはセッションで作って、メロも歌詞もない状態からトラックが先にできあがって、「じゃあ、歌メロをその場でつけてみよう」みたいな。それは絶対に僕だけじゃ作れなかったと思います。だから曲作りの時からバチバチというか、せめぎ合いでしたね。本当にスタジオでほぼケンカみたいになるんで(笑)。

悠理:ケンカしてるっていう感覚ではないんですけど(笑)、結構ぶつけ合ってるっていう。曲に対する考え方が完全に真逆なんで。別に相手に対してああだこうだ言ってるわけじゃなくて、曲に対して「どうしたらいいのかな」っていう意見をぶつけて、跳ね返ってきたものを観測して作り上げてる。

――意見をぶつけ合っていいものを作っていると。そのメカニズムは今のところうまくいってる?

たかぎ:そうですね、ギリギリうまくいってます(笑)。

Lym 撮り下ろし写真

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