森山直太朗、人間としての“初心”へ立ち帰る 100本越え20周年ツアーで迎えた変革の季節

森山直太朗、初心に立ち帰る

離別があってなお、その人のことをそばに感じる

ーーその、OLAibiさんの話もしないといけないんですけど、何と言うか、思い出に残る曲になってしまいました(※OLAibiは本作のレコーディング後、2023年10月10日に逝去)。何と表現していいのか、ちょっとわからないですけど。

森山:まさに僕も、同じ気持ちです。アイちゃんとは10代の頃から、ひょんな形で知り合いで、彼女は当時「風の人」という、打楽器の集団みたいなグループにいて、友達がそのグループと仲良かったから、恵比寿のMiLKとかでやっているのを見に行ったりしていて。その後はあまり接点がなかったんですけど、それこそズミくん、也哉子ちゃん、その界隈のみなさんと交流するようになって、ここ5年ぐらいでまたアイちゃんともよく話すようになって、「何かやりたいよね」という話をしていたんだけど、彼女は僕からすると、シャーマンみたいな人だったから、畏れ多いなと思っていて。でも今回、ズミくんと也哉子ちゃんが参加してくれる中に、この曲のループの中で、自由に散歩するような感覚で、アイちゃんに「参加してくれないかな」と言ったら、当時もきっと体調は良くなかったと思うんだけど、「いいよ」と言ってくれて。

ーー素晴らしいプレーです。まさに自由に歩いて踊っているように聴こえます。

森山:さっき「同じ気持ち」と言ったのは、まったく現実味がないというか、どういう気持ちなんだろう? って、まだ解釈できていないというのが本当のところです。ただ、彼女のサウンドはここにあるし、それを作る過程の中で彼女と過ごした濃密な時間は、今もなお息づいているから、物理的に会えなくなった今でも、むしろ距離が近づいているというか、身近に感じながら生きているし、離別があってなお、その人のことをそばに感じるという感覚なんですよね。ただ、初めにそれを知った時の感覚で言うと、もちろんとても驚いたし、拒絶したし、だけど、その後の感情がうまく表現できないというのが率直なところです。

ーー同感です。この話を、あまりリスナーに向けて強調するのもどうかと思ったんですけど、やはり触れておかなければいけないと思って、話させてもらいました。その上で、あえて言わせてもらうと、也哉子さんの書かれた美しい日本語の響きと、四季が巡って移ろいゆく世界観が、生と死をそのまま象徴しているようで、すべてはここに描かれていたんだなという、そういう気持ちにもなってしまいました。はからずも、ですけど。

森山:ね。やっぱり、也哉子ちゃんの持っている言霊みたいなものが、いろんな現実とリンクしていくんだろうなと思うぐらい、すごい言葉だなと思います。その言葉に触れられて、メロディを乗せられて、とても光栄に思っています。今、MVを作っているところなんですけど、監督がかなり独特な審美眼を持っていて、「ロマンティーク」という作品を色彩豊かに、僕と内田也哉子とOLAibiとハナレグミと、一人一人のカラーみたいなものを、とても繊細に愛情深く描いてくれていて。その映像も含めて、この歌詞が呼び込んでいると思うし、その言葉が呼び込んだ映像の中に、アイちゃんの魂みたいなものが、きっと流れているんじゃないかな? と。作品をもって、我々はたぶん会話をしているし、音の響きを介してお互いを鼓舞しているので、この曲は、言葉では本当に表現しきれないゾーンにあるなということを、あらためて思います。

ーージャケットの絵も、そうですよね。ニューヨークを拠点に活躍されている、画家の山崎雅未さんの描かれた絵。

森山:山崎さんは、「ロマンティーク」を聴いて、この絵を描いてくれました。何枚か出してくれたうちの一枚なんですけど、いろんな色彩でこの曲のイメージを表現してくれて、どれもすごくいいんですよ。だからみんな、この絵のように自由に、それぞれを表現してくれた先にあるものが「ロマンティーク」という曲なんだと思います。僕にとって、こういう作り方をするのは初めてで、自分のテリトリーを飛び出してみんなと一緒に作れたのは、すごくいい思い出になりました。って、過去形になっちゃいましたけど。これからリリースなんだけど(笑)。

ーー直太朗さんの新しい一歩として、とても新鮮に聴かせてもらいました。しかも贅沢に、12インチのアナログ盤も作ってしまうという。

森山:アナログを出すのは初めてなので、初めてづくしですね。

ーーこのジャケットは、アナログのサイズ感でぜひ欲しいなと思います。そして「ロマンティーク」は、今後のライブで歌ってくれますか。両国でも?

森山:歌いたいですけど、これはとても大事な曲だなと思っていて、歌い急ぎたくないんですよ。「新曲出ました、聴いてください、イェイ!」という感じでもないから。そのうちどこかで、絶対出てくると思うんですよね、「この曲の歌うのはここだな」というタイミングが。それまでちょっと、いろいろ考えている感じです。でも、いつかきっと、どこかに忍び込むと思います。

ーー楽しみです。そしてここからの2024年は、どんなテーマで、どんなモチベーションで臨んでいきますか。

森山:活動の面では、やりたいなと思うことはあるんですよ。ツアーが終わって、感じたことをそのまま、楽曲や舞台表現に落とし込んでいけたらなというのはあるんだけど、その前に、生きている実感みたいなものを、日常の中でどれだけ自分が握りしめて、生活していけるかだなと思っていて。活動においては経験もあるし、それなりのスキルもあるし、助けてくれるブレーンもいるけど、自分が人間として、生き物として、たった今の気持ちをないがしろにしてまで、この活動を成り立たせてもしょうがないと思うから。生活というものに立ち返って、そこから生まれる好奇心や、あるいは違和感みたいなものを、舞台化したり、曲に落とし込んでいくということを、あらためて一からやろうかなと思っているんですよね。

 そのために何するんですか? 言われたら、「まあ早寝早起きですね」とか、そういうつまんない話になっていくんですけど(笑)。でも、生きている実感って、そういうとても基本的なことだったりするし、まず自分の軸をしっかり作って、「そこからどこまで遠くに旅できるかな」みたいなことにチャレンジしていく。で、またつまんない返しになるけど、「今年の目標は」とか、1年で区切るんじゃなくてこの3年が勝負だなと思っているんですよね。50歳になるんですよ、3年後に。ヤバっ。怖っ(笑)。

ーーそれは、大きな節目ですね。間違いなく。

森山:そうなんですよ。だからこの3年、じっくりと日常を送りながら、活動にどれぐらい落とし込めるんだろう? という、そのギャップを楽しんでいきたいなという1年であり、2年であり、3年であると思っています。そもそも、365日で何かを変えようって無理じゃないですか。小さなことでもいいから毎日コツコツ続けていく、それで3年経った時に、どういうふうに実を結ぶかというぐらいの、長い目で見ていかないと。

ーーそれですね。僕も年始に、定型文みたいに、「今年の目標は?」という質問を、アーティストに対してしないことにします。

森山:いやいや(笑)。いい問題提起だと思うんですけどね。でもだいたい年末になると「あー結局できてなかった」ということが多いから。人によってペースがあるけど、僕はやっぱり、1年でどうこうできる人間じゃないので、3年ぐらいかけてやらなきゃな、と思っています。

■リリース情報
森山直太朗「ロマンティーク feat. 内田也哉子, ハナレグミ, OLAibi」
作詞:内田也哉子
作曲・編曲:森山直太朗
参加アーティスト:内田也哉子、ハナレグミ、OLAibi

配信日:2024年1月31日(水)
・iTunes、レコチョクほか主要音楽配信サイトや各種サブスクリプションサービスなどで配信。
https://umj.lnk.to/Romantique

12インチ・アナログ・レコード盤『ロマンティーク』
発売日:2024年2月28日(水)
品番:UIJZ-9002
価格:¥2,970(税込)
予約:https://umj.lnk.to/romantic_analog

【収録内容】
・SIDE A
「ロマンティーク feat. 内田也哉子, ハナレグミ, OLAibi」
・SIDE B
1.「ロマンティーク(Takuro Okada Remix)」
2.「ロマンティーク(弾き語り)」

■ライブ情報
森山直太朗20thアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』(番外篇)in 両国国技館
日時:2024年3月16日(土)
17:00開場/18:00開演
会場:両国国技館

<森山直太朗20thアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』特設サイト>
https://naotaro.com/subarashiisekai/

■アニメ情報
アニメ『オチビサン』
NHK総合 土曜深夜に随時放送中
公式サイト:https://sh-anime.shochiku.co.jp/ochibisan/

■関連リンク
オフィシャルサイト:https://naotaro.com/
YouTube:https://www.youtube.com/@user-si6wf2ml9g
にっぽん百歌:https://www.youtube.com/channel/UC9c7vb0MeSSnj7keLv1WZuw
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