岡村和義、井上陽水奥田民生、Chara+YUKI……個性的なボーカリスト同士が生み出す化学反応
去年のクリスマス、意外な発表が音楽シーンを賑わせた。岡村靖幸と斉藤和義による新ユニット 岡村和義が結成されたのだ。ソロアーティストとして30年以上活動してきたふたりのコラボレーションに期待が集まるなか、全国8都市12公演のツアー開催を前に、5カ月連続リリースの第一弾として「I miss your fire」が配信開始された。ソウルやファンクからの影響を感じさせる岡村靖幸とフォークやブルースの色が強い斉藤和義ーーシンガーソングライターという共通点はあるものの、その音楽性には異なる部分も多いふたりが「I miss your fire」で聴かせてくれたのは、オールドスクールなロックサウンド。カラッと陽気なギターと哀愁漂う歌詞の取り合わせは、ふたりの燻銀な魅力を最大限に引き出している。
新曲がリリースされ、いよいよ全貌が見えてきた岡村和義に思いを馳せながら、素晴らしい化学反応を見せてくれた個性的なシンガー同士によるスペシャルユニットを振り返ってみよう。
まず最初に思い浮かんだのが、井上陽水と奥田民生によるユニット 井上陽水奥田民生だ。PUFFYの「アジアの純真」や「渚にまつわるエトセトラ」などでの共作を経て結成されたこのユニットは、ヒット曲「ありがとう」を含むシングル2枚とアルバム2枚をリリースし、2007年以降活動を休止している。レイドバックしたボーカルのなかに時折シニカルで鋭い視線を覗かせる井上陽水と奥田民生の共通するアーティスト性を反映させた井上陽水奥田民生。ロックやブルースを基調としたサウンドに、詩的で遊び心のある歌詞を乗せた作風は、このふたりならではだろう。井上陽水奥田民生こそ、軌を一にする個性が相乗効果を生み出したユニットである。
対して、続いて紹介したいユニット Chara+YUKIは、異なるボーカリスト同士の個性がかけ合わさり、新たな個性を生み出した例ではないだろうか。1999年当時、JUDY AND MARYのボーカルだったYUKIとシンガーソングライターのCharaによるユニットとして結成。1stシングル『愛の火 3つ オレンジ』を1999年にリリースしてから活動を中断していた彼女たちだが、ちょうど20年後の2019年に活動再開を発表すると、翌年に2ndシングル『楽しい蹴伸び』と1stミニアルバム『echo』をリリースした。ドリーミーな打ち込みサウンドをポップに落とし込んだ作風が特徴的だが、注目したいのはCharaとYUKIのボーカルのコントラストだ。ウィスパーボイスで霧のようなCharaのボーカルと、力強い灯台の光のようなYUKIのボーカル。異なる個性を持つふたりのボーカルがひとつになることで、互いのソロ作品にはない新しい景色を見せてくれる。
提供楽曲を共作したことから発展した井上陽水奥田民生、長年の友人関係が音楽活動に発展したChara+YUKI。この2組のユニットは、じっくり温めてきた関係性が結晶化することで生まれたユニットであることがわかる。ところが、インスピレーションに駆動され電撃的に結成されたユニットも存在する。元NUMBER GIRLでZAZEN BOYSの向井秀徳とシンガーソングライターのLEO今井によって結成されたKimonosだ。2007年に今井が主催したライブイベントに向井を招いたことが結成のきっかけとなったこのユニット。当時ロンドンから日本に移り住んだばかりの今井が、ZAZEN BOYSの実験的でありながらストレートなかっこよさに触れ、向井とのセッションを望んだのだという(※1)。カバーセッションを重ね、2010年に正式にユニットを結成すると先行シングル『Almost Human』を皮切りに、すぐさまセルフタイトルの1stアルバム『Kimonos』をリリース。そのサウンドはヴィンテージシンセのループと鋭いギターリフによるミニマルな質感で、英語と日本語のフロウをリニアに乗りこなす今井と、どこかおどろおどろしい向井のボーカルからは、幻想の“TOKYO”が立ち上がってくる。