HEY-SMITH、w.o.d.、SIX LOUNGE……初のアニメタイアップで躍進するライブハウスバンド
近年の日本のポップミュージックシーンの潮流を定点観測していると、ヒットチャートを席巻するトップアーティストたちが次々とアニメの主題歌を手掛けている流れが見えてくる。例えば、昨年から今年にかけてヒットした米津玄師の「KICK BACK」やanoの「ちゅ、多様性。」(いずれも『チェンソーマン』関連楽曲)、Official髭男dismの「ミックスナッツ」(『SPY×FAMILY』オープニング主題歌)やウタ(Ado)の「新時代」「私は最強」(いずれも映画『ONE PIECE FILM RED』関連楽曲)などが象徴的なように、それぞれのアニメ関連楽曲は、各作品への誠実な愛と深い理解に基づいて制作されていることは大前提としつつ、果敢に攻め込んだ野心的なロックチューンに仕上がっているものばかり。それ故に、アニメ作品との出会いをきっかけとしてロックの世界に魅了され、足を踏み入れていく人もきっと多いのではないかと思う。また、世界各国で人気に火がつくアニメ作品とのタイアップを一つの足がかりとして、本格的な世界進出を果たすアーティストも多い。今年1月に公開した連載「lit!」でも触れたように(※1)、改めて、日本の音楽シーンにおけるロックとアニメの関係性の深さを感じる。
上述した流れと並行して、主にライブハウスを主戦場として活動するロックバンドが手掛けるアニメタイアップ曲も次々と生まれ続けている。そうした流れは、2000年代、2010年代から脈々と続いているものであり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONやKANA-BOONをはじめ、それぞれの年代ごとに、アニメとの幸福な関係性の中で活躍のフィールドを拡大してきたバンドは非常に多い。この記事では、ロックバンドが今年に入って初めて書き下ろしたアニメタイアップ曲を紹介していく。
HEY-SMITH×『東京リベンジャーズ』
はじめに紹介するバンドは、HEY-SMITH。結成から約17年間にわたりインディーズで活動を続ける中で、パンクロックとスカを掛け合わせたスタイルで独自のロック観をシーンに提示し、長年にわたりロックシーン/パンクシーンにおいて絶大な存在感を誇るバンドである。また、全国各地のフェスやイベントに積極的に出演するのみならず、ロックフェス『HAZIKETEMAZARE FESTIVAL』(通称:ハジマザ)を主催することで、バンドとリスナー、また、バンド同士の繋がり合いの輪を自身の手で拡大し続けている。
結成以降、インディペンデント精神を貫き続けてきた彼らは、今年、満を持してメジャーデビューを果たした。それはとても大きな驚きであったが、そうした環境の変化の中で手にした新たな機会の一つが、アニメ『東京リベンジャーズ』天竺編のエンディング主題歌である。これまでOfficial髭男dismなどのアーティストが同アニメシリーズの主題歌を手掛けてきた熱い流れに続くことで、彼らと新しいリスナーとの出会いは飛躍的に増えていくはず。そしてその中から、ライブハウスやフェスに足を運び始めるリスナーも出てくるはずで、おそらく彼らは、そこに一つの大きな可能性を見出したのではないかと想像する。
そして何より、現在、『東リベ』のエンディング主題歌として起用されている「Say My Name」が素晴らしい。冒頭から一気に爆走するビート。YUJI(Ba/Vo)が歌い届けるハイトーン&ロングトーンの美麗なメロディ。熾烈な高揚感とドラマチックな彩りをもたらすホーンセクション。まさに同曲は、これまで彼らが懸命に磨き込み続けてきたHEY-SMITHの真髄を凝縮したナンバーである。また、〈Fight with you forever〉〈We defeat everything〉といった言葉たちは、『東リベ』に込められた信念とも深く呼応している。アニメを観て心を動かされた方は、ぜひこの曲をフルで聴いてみてほしい。ラストに轟く、言葉にならない激情を託した渾身のギターソロは圧巻であり、彼らのライブバンドとしての熱き気概を確かに感じ取ることができるはずだ。
w.o.d.×『BLEACH』
続いて紹介するのは、7月に配信リリースされた楽曲「STARS」が、アニメ『BLEACH 千年血戦篇-訣別譚-』のオープニングテーマに起用されたw.o.d.。結成は2009年。ネオグランジバンドを標榜する3ピースロックバンドである。2022年には、タワーレコードが主催する「タワレコメンアワード2022」に入賞。また、音楽番組『バズリズム02』(日本テレビ系)の年始恒例企画「コレがバズるぞ!」の2023年版で4位にランクインを果たした。そうした受賞やランクインは、彼らが音楽シーンの最前線に精通する人たちから熱い支持を受けていることの証明であり、何より、ライブハウスを中心に広がるリスナーの熱狂の輪は、この数年間で大きく拡大しつつある。筆者は、今年5月のフェス『METROCK 2023』で彼らのアクトを観て、まるでライブハウスの熱気と高揚感をそのまま野外ステージへと持ち込んだかのようなライブパフォーマンスに改めて圧倒された。当時すでに勢いに乗っていた彼らだが、そこにこの夏のビッグタイアップが重なり、バンドの快進撃がさらに加速する流れとなった。
「STARS」は、彼らの代名詞である重厚にして鋭利なグランジサウンドを全面に押し出したナンバーである。触れたら火傷してしまいそうなほどヒリヒリとした手触りと温度感を持つバンドサウンドは、普段あまりロックに触れない人にとっては新鮮な驚きをもって受け入れられるはずだ。
サイトウタクヤ(Vo/Gt)は、同曲の制作について、「過去と向き合って、傷を背負いながらも道を切り拓いていく一護や雨竜たちと、 自分を重ね合わせて作曲しました」(※2)とコメントしている。実際、この曲のサビで歌い放たれる〈振り絞ったその声で 夜を切り裂いて/形の無いこの恐怖ごと 胸を焦がして〉〈あの日みたいに 笑えなくていい/哀しみも傷も全部 連れていきたい〉という鮮烈な意志を宿した言葉は、『BLEACH』の物語の切実な展開と激しく呼応している。まさに同曲は、バンドが自分たちのロック観を貫いたまま、アニメ作品と深く共鳴し合う楽曲を生み出すことができたケースであり、両者にとって幸福なコラボレーションが実現していると言える。