キャロライン・ポラチェック、“魅せる”ステージの追求 パワーに圧倒された初の単独来日公演

キャロライン・ポラチェック豊洲PITレポ

 今年のフジロックでの来日から約4カ月、早くもキャロライン・ポラチェックの単独来日公演が叶った。先日のコラム(※1)では、筆者は彼女の表現のパフォーミングアート的な側面を考察してみたが、やはり期待に違わず、シンガーという枠に留まらない“魅せる”ステージが繰り広げられ、今乗りに乗っている彼女の勢いを体感できたアクトだった。

 11月30日東京・豊洲PIT。オープニングアクトとして登場したのはTrue Blue。彼女はポラチェックの今回のバンドのベーシストでもあるのだが、True Blueとしてはソロシンガーとしてのパフォーマンスだ。ポラチェックと背格好が似ており一瞬本人と見間違えるほどであったが、実際そのパフォーマンス自体も浮遊感と前衛を忍ばせた翳りのあるエレクトロニックトラックに、囁くような歌声……と、本名名義以前のソロ活動時代のポラチェックを彷彿とさせるところも。過去のポラチェックの面影が重なるTrue Blueのアクトは、これから登場する現在の彼女のアクトへの架け橋としても最適だった。

 ところでそのTrue Blueのアクト中、ステージの照明は薄暗いまま。奥に大きな山のようなセットが確認できるが、ポラチェックが登場するまでははっきりとは見せない、という演出だろうか。しばしの転換時間にあたりを見渡すと定刻には半分ほどであった観客も気づけば満員近くになっている。やがておもむろに再び客電が消えると今度はステージの背景にカウントダウンが映し出され、自ずと会場の高揚感もピークに。カウントがゼロになるとともに、最新作『Desire, I Want To Turn Into You』の1曲目「Welcome to My Island」が鳴り響き、レオタードのような衣装に身を包んだポラチェックが拳を突き上げながら登場。まず何より、彼女自身が初っ端からその全身にみなぎるパワーを観客に惜しげもなく開放していたことに、自然と込み上げ感極まるものがあった。

 2曲目には前作『Pang』の「Hit Me Where It Hurts」から再び最新作の「Pretty In Possible」と続けたところで「今日は『Desire, I Want To Turn Into You』のすべてを演奏する」と宣言、「Bunny Is A Rider」「Sunset」とアルバムの曲順通りにアップテンポな人気ナンバーを投下。打ち込みのトラックの上にダイナミックな肉感を加えるようなバックバンドのギター、ベース、ドラムの演奏も相まって、より筋肉質に仕上がったライブならではの音像も面白い。「Sunset」では観客に手拍子を求めたりと、観客の積極的な参加も大歓迎というようなフィジカルなやりとりも発生。一方で、ハイパーポップを洗練させたソリッドなサウンドや佇まいから伝わってくる媚びのなさとは裏腹に、端々に観客に対する温かな感謝を滲ませてもいて、その人間らしさにもグッと惹きつけられたのだった。

 ナンバーの流れに合わせた照明のアクセントの付け方も抜群。そういえば「Sunset」で赤い照明が前述したステージセットに当たって気づいたのだが、大きな山のようなオブジェの急角度の稜線の角度にはどうも既視感が。これはおそらく、葛飾北斎の「赤富士」だ。ということは、この日本公演のために用意したのだろうか。アニメ、ゲーム、カワイイ、といった日本らしさとは異なるモチーフを選択するあたりはやはり、日本への在住経験もあり造詣の深いポラチェックらしい。なお「Sunset」ではこの赤富士の奥にマカロニ・ウエスタン風の映像を投影、他にも曲によってそのイメージとリンクした映像を用いており(枯山水のようなモチーフも!)、ビジュアルの世界観にも気づけばすっかり没入させられていた。

 そして、前半から中盤にかけてのハイライトは「I Believe」だろう。「(亡き)ソフィーへ」と語り歌い始めたそれは、友人の死への真摯な祈りが込められながらも、ポラチェック自身はその先の光を見据えているようなタフな明るさを放っており、ともにシンガソングした我々観客にも、何か希望のようなものを手渡されたように感じられた。とても不思議で、特に胸打たれた瞬間でもあった。それにしても、ポラチェックのボーカルは強靭だ。低音からオペラチックなファルセットまで滑らかに行き来し、音源そのものに近い歌唱を難なくこなす。特にこの「I Believe」の祈りと希望の感触はそのとりわけ澄んだロングトーンがあればこそ、だったとも言えるかもしれない。

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