日向坂46、アルバム『脈打つ感情』でチャート首位 小さいけれど重大な“あと一歩”
CD Chart Focus
参照:https://www.oricon.co.jp/rank/ja/w/2023-11-20/
2023年11月20日付(11月14日発表)のオリコン週間アルバムランキングで首位を獲得したのは日向坂46のアルバム『脈打つ感情』で、推定売上枚数は148,008枚だった。続いて2位にはZEROBASEONE『MELTING POINT』が43,718枚でランクイン。そのほか、トップ10圏内の初登場作品としては、5位 Valkyrie(斎宮宗(高橋広樹),影片みか(大須賀純))『あんさんぶるスターズ!!アルバムシリーズ 「TRIP」 Valkyrie』(18,558枚)、6位 The Beatles『ザ・ビートルズ 1967年~1970年 2023エディション』(17,294枚)、7位 The Beatles『ザ・ビートルズ 1962年~1966年 2023エディション』(15,598枚)、9位 岡田奈々『Asymmetry』(9,508枚)があった。
本題に入る前に少し寄り道。The Beatlesのいわゆる赤盤・青盤が2023エディションとして再リリースされた。耳目をひくのはおもに赤盤の、音源分離技術を用いて再ミックスが施された初期作品だろう。その技術自体は2022年の『Revolver』の再ミックスですでに用いられていたが、さらに初期まで遡って同じことが行われたわけだ。技術的な問題から不可能と思われてきた再ミックスがThe Beatlesというビッグネームでいよいよ実現したことで、今後過去の作品の再解釈が次々進んでいきそうだ。もっとも、リマスターよりもサウンドへの介入度が高いだけに、過去の作品を改変するにあたっての意識というか、強めの言葉を使えば倫理がいっそう作り手に問われるようになるだろう。
さて今回取り上げるのは首位の日向坂46『脈打つ感情』。2020年の『ひなたざか』以来3年ぶりとなるアルバムで、同作以降のシングル(『君しか勝たん』から『Am I ready?』まで)からの楽曲を収録しているほか、リード曲「君は0から1になれ」をはじめアルバムにあわせた新曲が全5曲収録されている(タイプ別に異同あり)。
前述の通り基本的にこのアルバムはシングル曲の取捨選択であり、あらかじめ語るべきストーリーやクリエイティブなコンセプトがあり、それにあわせて「作品」としてのアルバムをつくる……というようなものではない。それ自体はよくある話で、コンセプトアルバムに代表されるような、「作品」としてのアルバムという考えに厳密に沿ったアルバムは実はそれほど多くない。しかし、楽曲ごとにメンバーの多彩な魅力を見せようとする大人数のアイドルグループにあって、アルバムという単位に説得力をもたせるのはいっそう難しそうに思える(そもそも、アルバムにはグループの活動の区切りとしての役割さえあれば十分、と済ませてもいい話ではあるのだが)。
そこで今回の『脈打つ感情』で日向坂が打ちだしたのが「ライブ」というコンセプトで、特設サイトによれば「日向坂46のライブのセットリストをイメージした曲順で構成」したという(※1)。理屈としてはわかるし、グループとしてはライブが本懐なのだというメッセージもわかるけれども、レコーディングされた曲の並びからライブを想像するというのは、リスナーに求められる参加の度合いがちょっと高すぎるように思う。そのコンセプトを活かすだけの仕掛け(たとえばイントロダクションやインタールードをそれらしくつくるとか)があるわけでもない。ライブ音源を入れたというだけでは、そのコンセプトを引き立たせることはできないだろう。リスナーが物語を補ってくれることに頼りすぎているのでは、と思ってしまう。
とはいえ、アルバムのコンセプトなどという些末なことにこれほどこだわってしまうのは、結局のところリード曲がいまひとつインパクトに欠けるのが大きいのかもしれない。「君は0から1になれ」は熱血系応援ソングとしての「誰よりも高く跳べ!」の継承ではなく反復になってしまっていないだろうか。成功したかどうかは別として、「Am I ready?」でシングルのリード曲としてもMVとしても新しいチャレンジをしようとしたあとだけに、なおさらどうなの? という気持ちになる。グループの歴史やメンバーの魅力やファンの献身では埋められない、小さいけれど重大なあと一歩の存在に思いを馳せてしまう。
※1:https://www.hinatazaka46.com/s/official/page/2nd_album
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