SARMが語る、アーティストとしての目覚め 「Ai ga shitaino」に込めた祈りのようなメッセージ

SARM、アーティストとしての目覚め

“自分”を確立することが、第二の“生まれる”ということ

SARMインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

──「AI ga shitaino」で〈幸せになる為に 不幸せにならないで良い 愛があれば 直ぐに 黄泉から還る蘇る〉という歌詞がありますけど、これは「私は亡くなったけど、あなたは私を追いかけようと命を絶たなくていい」ということなのかなと思ったんですけど、合ってますか?

SARM:難しいな……なんて言うんだろう? 生まれた瞬間とか生まれる前には“自分”という確固たるものを理解していたんじゃないかなと思うんですけど、生まれてからいろんな影響を受けて、“自分”のことを忘れてしまっているんじゃないかなと。お母さんから産まれた時に肉体は生まれたと思うんですけど、その“自分”を確立することが、第二の“生まれる”ということじゃないかなって。まだ精神が生まれていない(確立されていない)時が、例えばお母さんから産まれる前と同じような死の空間だったとしたら、そこから蘇ってまた自分の精神という生命の本質を得るために、「何で生まれてきたのか?」と問いかける。そういう感覚で書きました。

──生まれて間もない瞬間、赤ちゃんはいろんなことを悟っているというのは僕も聞いたことがあります。

SARM:最初の方が分かってるはずなんですよね。でもいろんな影響で忘れて、今度は生きるために人に合わせようとする。それも共存していくために大事だけど、でも本来の自分を忘れて、そのまま自分の人生を終えてしまう人も多い。また精神が生まれることによって、本来産まれる前に持っていた「自分は何のために生まれてきたか?」という本質を心得ることで、より人生を全うできるんじゃないかなと思っています。

──いつから曲にしようと考えていたんですか?

SARM:去年ぐらいに、自分はどう生きたいのかをすごく考える機会があって。自分として生きてきたはずだったけど、自分が誰なのか分かっていなかったんだ、と気づいた時に、怖いけれどその孤独から踏み出して進んだら、その先に光があったという感覚になって。さらに新しい人と出会うことによって、ガラッと人間関係が変わったんです。自分がどう生きたいかを考え始めたからそうなった。そういう去年の大きな体験を元に書きました。

──願いというよりかは、実際に感じたことが曲の元になっている。

SARM:それもありますし、願いもありますね。みんなも生きる方法や自分が体感したこと、光を感じて生きられたらもっと人生はラクなんじゃないかなと思って、そういう祈りも込めました。

──サウンド的には明るくもなく暗くもなく、かと言って平熱な感じでもなくて。どこか掴めそうで掴めない霧がかかった感じがしたんですよね。歌っている内容に呼応させるために、この音作りだったんじゃないのかなと思って。

SARM:そうです。今までの曲は強くて、形で言うと四角みたいなハッキリした感じだったけど、この「AI ga shitaino」は包み込まれた時の温かくて丸い感じを表現しました。自分の感じ取った感覚や感情の状態を音に表していて。共同で作曲し、編曲もしてもらったプロデューサーのJiNさんには「透明感」とか「水の感覚」とか、そういう話をした記憶がありますね。

──曲のアウトロで環境音が入っていますね。あれもSARMさんのアイデア?

SARM:そうです。ラストで〈世界は美しい それが 愛 と言いたいの〉と歌っているんですけど、その後に世界の音、みんなが毎朝聞いている音、鳥の声も入っていて。人間って寝て起きて、毎日自分が生まれたとは別に感じないじゃないですか。だけど朝方4時ぐらいの早朝の鳥の鳴き声が、今日も自分が生まれたという生命に驚いているように聴こえる。太陽が昇ってきたら「オギャーオギャー」みたいな感じで聴こえるんです。毎日、自分の生命というものに感動し驚いている。“今日も生きている”って人間は当たり前すぎて感じないけど、鳥や生き物達は毎日感じている。それがすごく素晴らしいなと思って〈世界は美しい それが 愛 と言いたいの〉とそういった音の切り取りを、最後に入れたっていう感じでしたね。

──ちなみにヘッセやダンテが好きなことも楽曲に活きている気がしたんですけど、いかがですか?

SARM:今回、“自分がどう生きるのか”っていうことに気づいた感覚と、幼少期にいろんな不思議な体験をしたことが、ダンテの本に全部書かれていて。そこで「こうやって精神的な部分を作品に出していいんだ」と勇気をもらえたんですよ。みんなが分かるように伝えることも絶対に大事だと思うんですけど、こういう表現をしていいんだという気づきを得た。ダンテやヘッセを読んでから、自分が感じ取った部分も曲にするようになりましたね。

──お話を聞くと、後から答え合わせができていくパターンが多いですよね。

SARM:いつもそうですね。人との出会いもそうです。

「BONBON GiRL」でみんなに勇気を与えられる方法が分かった気がした

SARMインタビュー写真(撮影=梁瀬玉実)

──今のフェーズに行き着いた背景をもう少し教えてください。「BONBON GiRL」がTikTokやYouTubeでバズりましたけど、曲がヒットしたとによってSARMさんの中で心境の変化はありました?

SARM:こんなことを言ったらアレですけど、最初は「BONBON GiRL」をあまり好きになれなかったんですよ。レコーディングの時も、何回も中断して、試行錯誤してどうにか完成したんです。そしてリリースしたら皆さんが踊ってくれたり歌ってくれたり、いろんな動画をあげてくれて。後から「BONBON GiRL」が好きになれて……みんなに勇気を与えられる方法、励ますことができる方法がなんとなく分かった気がした。この曲は自分じゃないって思ったとしても、できることがあるんだったら、やりたいなって思えたんですよね。

──「自分じゃない」っていうのは、曲の中に描かれてる人物が自分じゃないってこと?

SARM:いや、音ですね。描かれている人物が自分と違ったとしても、人にはペルソナがいっぱいあるじゃないですか。その感覚でいろんな顔ができるんですよ。だけど、なんか音が違う。自分が言いたいことと、そぐわない。それでちょっと迷ったんですけど、ずっと信頼をしている人が「これはみんなが聴きやすい音だと思うから」と言って選んでくれたからチャレンジしようと思って。それを信じてやってみたら、結果的にたくさんの人が聴いてくれたので良かったし嬉しかったです。

──レコーディングした時と、今ライブで歌うのでは気持ちの持ち方は違いますか?

SARM:全然違いますね、180度違います。すごくいい方に変われました。

──あと「BONBON GiRL」からの「Persona Ladies」は繋がってる感じがするんですよね。

SARM - Persona Ladies (Lyric Video)

SARM:その後の「D♡VE QUEEN」も同じ並びですよね。だんだん成長していってるなと自分でも思っていて、「BONBON GiRL」の1年後、2年後みたいな感じで書いていきました。自分自身でも成長を感じます。

──「AI ga shitaino」を作って、ここからご自身で何を書いていくのかは見えていますか?

SARM:もっと深く精神性っていうものを知って曲にしていくのかなって。例えば日本でもずっと受け継がれているものの核を知ったりして、そういったことで、また自分の中で光の何かが起こると思うんですよ。そういう光っている状態を書いていくんだろうと思います。でもそれは、影がある上での光じゃないと……ただポジティブなだけだと伝わらないので。日々いろいろ感じながら、精神の日記を書き続けるのかなと思います。

──映像や写真など、ビジュアル面でのクリエイティブについても聞きたいです。個人的には「BONBON GiRL」のMVが、演出も衣装も世界観も独創的で好きだったんですよね。

SARM - BONBON GiRL (Official Music Video)

SARM:「BONBON GiRL」のMVは、まさにダンテとヘッセですね。和風の場所で和服に着替えて、という提案は監督さんからいただいたんですけど、脚本は自分で書いていて。「ここのシーンはこうで、何分何秒に使いたい」みたいなことも全部そうですし、浄罪界から天道界へどんどん登っていくストーリーも自分で考えて書きました。

──監督にお任せするわけじゃなくて、SARMさん自身がかなりコミットされているんですね。

SARM:監督さんとは頻繁にお会いして、自分のやりたいことを伝える感じでした。現場に行った時も「この場所はこのシーンで使いたい」と話したり、下見の時にもイメージが湧いてきたので、Music Videoで最初の吊るされているシーンは、「ここに台を置いて、こうやって吊るされたいです」という提案をしたり。「池の真ん中でひらひら踊りたい」と言ったらボートを用意してくれて、池の真ん中まで連れてってくれたりとか。いろいろとわがままを聞いてもらいました(笑)。

──そういったセンスってどこで培われたものなんですか。

SARM:絵を描くのが好きだったんです。絵を見るのも好きですし、それが大きかったですね。シュールでポップな感じの絵とか、全部点で描いた絵とか、さっきお話しした太陽と月と神羅万象とか、いろいろ描いていましたね。

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