『プロセカ』25時、ナイトコードで。はなぜ若者の共感を呼ぶ? 求められる“負の感情”昇華した音楽性

 あなたは「ニーゴ」こと、25時、ナイトコードで。をご存じだろうか?

 SNSでたびたびトレンド入りしているこのニーゴは、10~20代を中心に支持を集めるスマートフォン向けゲーム『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』(以下、『プロセカ』)に登場するユニット。正体不明の音楽サークルとして活動しており、メンバーは、作曲担当の宵崎 奏(CV:楠木ともり)、作詞担当の朝比奈 まふゆ(CV:田辺留依)、イラスト担当の東雲 絵名(CV:鈴木みのり)、動画担当の暁山 瑞希(CV:佐藤日向)の4人。そのユニット名が示すように、深夜のような空気感を帯びた繊細な音楽性と、さまざまな“痛み”を抱えたキャラクターたちの心情を丁寧に描いたゲーム内のストーリーがユーザーの共感を呼び、SNSやサブスク系の音楽配信サービスなどでも大きな反響を得ている。

 『プロセカ』は、それぞれ思いを抱えた少年少女たちが、"初音ミク"をはじめとするバーチャル・シンガーと出会い、思いから生まれた不思議な場所“セカイ”と現実世界を行き来しながら、“本当の想い”と“自分の歌”を見つける物語。楽曲は有名ボカロクリエイターによる書き下ろし、もしくは既存のボーカロイド楽曲のカバーが中心で、全部で5つのユニットが登場。各ユニットごとに様々な音楽コンセプトを持っていることが特徴だ。

 その中でもニーゴは、怒りや悲しみ、諦念、閉塞感といった“負の感情”をテーマにした音楽性、激情感あるいはダークさや憂いを帯びたサウンドアプローチが軸になっている印象が強い。カンザキイオリ「命に嫌われている」(ゲーム実装表記に準ずる)、かいりきベア「ベノム」、ササノマリイ「自傷無色」といった収録楽曲の選曲からも、ニーゴの方向性が何となく掴めるはずだ。

 なぜニーゴの音楽には“負の感情”に根差したものが多いのか。その理由は彼女たち自身がそれぞれ心の内に抱えている“痛み”にある。自分の作った曲が原因で作曲家の父親から音楽を奪ってしまったと自らを苛む奏。母親から「いい子」であることを求められ続け自分自身の感情を見失ってしまったまふゆ。天才と呼ばれる画家を父に持つがゆえに自身の才能にコンプレックスを抱く絵名。ニーゴのメンバーに自分の秘密を明かせない現状に無気力感を覚える瑞希。それぞれの事情から悩みを抱えている4人だが、共通しているのは“消えたい”という願望を持っているということ。そんなニーゴだからこそ、“負の感情”に敏感な若者たちの共感を得るとともに、その心に寄り添う歌を歌うことができるのだ。

悔やむと書いてミライ / 25時、ナイトコードで。 × 初音ミク【3DMV】

 ニーゴ最初のオリジナル楽曲として、まふまふが書き下ろした「悔やむと書いてミライ」は、4人が共通して抱くセンシティブな感情を〈死にたい 消えたい以上ない こんな命に期待はしないさ〉という言葉でダイレクトに表現した衝撃的なナンバー。アップテンポで駆け抜けていくギターサウンドに乗せて、メンバー4人と初音ミクがその感情を発散させるように熱く激しく歌う様に心が震わされる。

ジャックポットサッドガール / 25時、ナイトコードで。 × 初音ミク
バグ / 25時、ナイトコードで。 × 鏡音レン

 他にも、ブラスに彩られた狂乱的なサウンドと攻撃的な歌詞が同調圧力に満ちた世の中への憤りに直結したsyudou提供の「ジャックポットサッドガール」、かいりきベアらしいハイテンションかつ偏執的な楽曲をキャスト陣が驚異的な歌唱力と表現力で中毒性高く仕上げた「バグ」(YouTubeの再生数は3,700万回以上を記録)など、強烈なインパクトを残す楽曲が多数並んでいる。

アイディスマイル / 25時、ナイトコードで。 × MEIKO

 その一方で、感傷にそっと寄り添うような、繊細なタッチの楽曲も多い。例えば、とあが提供した「アイディスマイル」は、瑞希が抱える秘密とそれをメンバーに明かせないがゆえに感じる距離感の悩みを、メルヘンチックなサウンドとコーラス成分多めの可憐なボーカルで優しく包み込むような楽曲。バルーンが書き下ろした「ノマド」は、才能の壁に対しての挫折感を味わってきた絵名の心情にフォーカスが当てられており、〈夢の底でもがくのなら この夜をいっそ喰らってしまいたい〉と、その苦しみや焦燥感をそのまま描くことで、聴き手の背中を押すのではなく、つらい気持ちを分かち合うような楽曲になっている。

ノマド / 25時、ナイトコードで。 × 鏡音リン【3DMV】

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