リアルサウンド連載「From Editors」第24回:『母という呪縛 娘という牢獄』と『Mother』、“母と娘”の無償の愛を考える
「From Editors」はリアルサウンド音楽の編集部員が、“最近心を動かされたもの”を取り上げる企画。音楽に限らず、幅広いカルチャーをピックアップしていく。
無償の愛に一生を捧げる脆い関係=“母と娘”を考える2作品
9月6日、愛知県大治町で40歳の母親が刺殺された状態で発見され、中学2年生14歳の娘が殺人未遂容疑で逮捕されるという事件があった。
そこで再度の注目を受けたのが、齊藤彩による『母という呪縛 娘という牢獄』。2018年に滋賀県で起こった娘(当時31歳)が母を殺害し、遺体をバラバラにして遺棄した事件の経緯を綴ったノンフィクションだ。
前者の愛知県の事件の経緯、状況、詳細はまだ詳しくはわからないけれど、このふたつの事件は、“娘が母を殺害する”という外郭は同じ。事件の報道後、昨年刊行されてすぐに読んだ『母という呪縛 娘という牢獄』をパラパラとめくってみた。やはりズシンとくるのは、医学部9浪を強いられた犯人である娘が、母親というモンスターを倒し、地獄から抜け出した最後の最後に母親に対して「申し訳ない」と思う、その心情だった。
あらためて“母と娘”の話に触れると、私のなかでひとつ思い出す言葉がある。「よく言うじゃないですか、親は子に無償の愛を捧げるって。私、あれ逆だと思うんです。小さな子が親に向ける愛が無償の愛だと思います」――。これは、坂元裕二脚本によるドラマ『Mother』(日本テレビ系/2010年)のなかで主人公が口にする台詞だ。
母に虐待され捨てられた7歳の少女・道木怜南(芦田愛菜)と、彼女を守るために誘拐した担任教師・鈴原奈緒(松雪泰子)の逃避行、そしてそれをとりまく女性たちと母性が描かれたこのドラマ。そのなかで、自身も母親に捨てられ、養護施設で育ち、養子として育てられた奈緒が、「子が親に向ける愛が無償の愛だと思う」と、先述の言葉を口にするのです。
たとえば、何を言われても、何をされても、「うん、そうだね!」と言っていた怜南は、継美という名前で生きてもなかなか本音を見せず、「嘘でしか本当のことが言えない」と奈緒が言うくらいだった。でも、彼女にとっての嘘は花束と同じで、簡単に言うことを変えて、本音でないことを言う、それこそが無償の愛だったのだと思う。これは『母という呪縛 娘という牢獄』に描かれる犯人である娘・あかり(仮名)にしても同じで、我慢すること、母親の言う通りにすることが、彼女にとっての無償の愛だった。しかし、あかりが最後に持ったのは花束ではなく、包丁だった。
その無償の愛に一生を捧げる関係のひとつが“親と子”、ひいては“母と娘”なのだと、この2作品を経て思う。まさに、抱きしめることと傷つけることのあいだに境界線はなくて、ちょっとしたことでバランスが崩れる脆い関係でもある。昨今の事件に触れ、『母という呪縛 娘という牢獄』、そして『Mother』を思い出したのでした。
『Mother』についてはドラマを久々に観返しているけれど、芦田愛菜(当時5歳!)の演技がすごすぎる。今9話まできたところですが、毎話ティッシュを握り締めながら観ています。『Mother』(と『Woman』)の脚本が単行本として9月27日に出版されるそうで、これも非常に楽しみです。
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