Chilli Beans. 『ONE PIECE』17年ぶりのEDテーマと重なるバンドの未来 日本武道館ワンマンへと突き進む勇猛果敢な姿
Chilli Beans.がその勢いをどんどん増している。この夏は全国のフェスに続々と出演、それと並行して8月12日の広島公演を皮切りにスタートしたツアーでもソールドアウトが続出。文字通り「今いちばん観たいバンド」のひとつとして、注目度は上昇しっぱなしだ。2月にリリースしたEP『mixtape』はVaundyとコラボした収録曲「rose feat. Vaundy」が牽引するかたちで彼女たちのキャリアで最大のヒットとなり、楽曲を街中やラジオで耳にする機会も格段に増えた。ライブ、作品の両面で、今のチリビには気持ちのよい追い風が吹いているといっていいだろう。
その追い風をさらに強く後押ししているのが、アニメ『ONE PIECE』のエンディングテーマ(同作品でエンディングテーマが採用されるのはなんと17年ぶりだという)として抜擢された「Raise」である。8月の放送回からテレビで流れ始めると、そのスケールの大きなサウンドと力強いメッセージが話題となり、Chilli Beans.の名前をますます拡散させている。それにしても、すばらしい曲である。何がすばらしいって、この千載一遇のチャンスに対して、どっしりと腰の据わった、地に足の着いた楽曲を生み出したことである。
コーラスワークなどには華やかさもあるが、全体としてこの「Raise」は決して派手な曲ではない。そしてだからこそ、経験を重ねバンドとしての強度を高め続けてきた今の彼女たちのタフな等身大を映し出す。これまでのチリビにはなかった重たいビート感、マイナーキーで抑制を効かせながらサビでは一気に景色を押し広げるメロディのダイナミズム、飛び道具に頼るのではなく3人のなかで生まれるムードとグルーヴにすべてを委ねるようなこの曲の世界観は、感触としては明らかに新鮮だが、同時にとてもチリビらしい。
実際、これは『ONE PIECE』の曲である以前に、今まさに新しい世界へと突き進もうとしているChilli Beans.のテーマソングだと思う。〈見えない先を照らして行く/自分の足でTry/世界の果てを共に見よう/一緒なら行けるFly〉……そんな歌詞には麦わらの一味の行く末とともにChilli Beans.の未来も重ねられている。〈掲げよう/この胸待ちわびた/憧れをただ追いかけ/約束、後戻りできない〉というサビ、あるいはコーラスで歌われる〈もうすぐ見える 僕たちの島が〉というフレーズに描かれているのは、それぞれの道を目指した末に出会い、個性をかけ合わせることで自分たちの居場所を作り上げてきたチリビの姿そのものだ。
ファンには今さら説明不要だと思うが、Moto(Vo)、Maika(Ba&Vo)、Lily(Gt&Vo)の3人は最初からバンドをやりたいと思って音楽の世界に飛び込んだ人たちではない。そこがこのバンドの魅力の根源で、ひとりひとりが自立したアーティストだからこそ、そこには足し算ではなくマジカルな掛け算が生まれる。「Raise」のサウンドに耳を傾ければわかるだろう。Lilyのギターがかき鳴らすコード、Maikaの骨太なベースライン、そしてMotoの聴きようによってはひとりごとのようなボーカル、どれもが主張しながら、すべてが合流して大きなうねりのようなグルーヴを生み出している。これまでの楽曲でも見え隠れしていたチリビのメカニズムが、この新しい音像のなかでは思いきり暴かれているのだ。しかしそれだけではない。そんな自分たちの姿を、ただ鏡に映してスケッチしただけではない、外向きのメッセージ性がこの曲をなおさら強いものにしているというのも重要な事実だ。『ONE PIECE』という最高の「舞台装置」も作用したのだろう、〈掲げよう〉というキーワードが物語るように、この曲は聴き手を鼓舞する応援歌ともいえる曲になっているのだ。