藤井 風、『バスケW杯』で塗り替えたスポーツテーマソングの常識 あえて“エキサイトさせない”「Workin' Hard」の面白さ

 そうしたメッセージを、彼特有の方言混じりの節回しや、詞乗りを意識した“藤井 風 節”とも言うべき特徴的な表現で綴っていく。特に、全体的に表拍に強いアクセントのあるなか、瞬間的にノリが複雑化する〈みんなほんまよーやるわ/めっちゃがんばっとるわ〉の箇所は、藤井のソングライティングのセンスの真骨頂と言えるだろう。平易な言葉選びでありながらも、“ん”や“っ”がリズムと絡み合い、語感が最大化されている。音の気持ちよさとメッセージ性とを両立させた、彼にしかできない天才的な表現だ。

 藤井 風自身としても大きな舵を切った作品と言える。プロデューサーにはこれまで二人三脚であったYaffleではなく、ドレイクやケンドリック・ラマー、SZAなどを手掛けるDahiを迎え、ミックスエンジニアにJeff Ellis、マスタリングエンジニアはDale Beckerと、各セクションがグラミー受賞経験者という布陣で制作したという。結果的にこの曲は、アリーヤの「Rock The Boat」を彷彿とさせるような2000年代USのコンテンポラリーなR&B直系のビート感とサウンドが展開され、国内のマーケットを度外視した完全海外仕様の一曲となっている。

 自身初となるアジアツアーを成功させ、今後の活動に期待が高まる藤井 風。サウンド面でもリリック面でも特筆すべき点の多いこの曲は、彼自身の作品史としても、スポーツアンセムのあり方としても、さらりと塗り替える楽曲になったと言えるだろう。

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