長瀬有花、エンタメ性溢れる怒涛のステージ バンドセットならではのアレンジで魅了した初の有観客ワンマンライブ『Eureka』

長瀬有花、初の有観客ワンマンレポ

 ライブも後半戦へと突入。サックスのアレンジが「やがてクラシック」をビターに変貌させる。楽曲の冒頭から、感情的な歌い出しが印象的で、優しくも切ない歌声が会場内に響き渡った。オーディエンスとのユニゾンも聞かれ、時間が経つにつれ、一体感も強固になっていく。ラスサビでは、この日初めて長瀬有花が宇宙船を飛び出し、オーディエンスの目の前に現れ、歓声が響き渡る。ライブ冒頭の演出もそうだが、この日は観客を唸らすような緻密な演出がライブを通して組み込まれており、楽曲のみならず容赦ないエンターテインメント性が時折顔を出していた。そして「異世界うぇあ」が始まったタイミングで、昂奮とは真逆の切望じみたような歓声があがった。ポップミュージックを軸に、心地よいトリップ感のある音の上を脱力した長瀬有花が闊歩する楽曲は、生ライブで聴くとまさに至高だった。

 個人的にこの日一番魅せられたライブは「微熱煙」。コントラバスの演奏から始まり、暗色をベースにわずかな光がステージを微かに照らす。アコースティックでこのまま完走するかと思いきや、壮大なバンドアレンジで、1曲のみでいくつもの表情を浮かべていた。まるで劇を見ているかのような感覚に飲み込まれる。そして、当たり前だが「微熱煙」の余韻に浸る時間は与えてはもらえない。本日3曲目の新曲「宇宙遊泳」が瞬く間に披露された。少し珍しいポストロックのような音色と、メロディックな長瀬有花の歌声が調和する楽曲。またシンガー長瀬有花の新たな顔を覗かせるような印象を受けた。続く「みずいろのきみ」で、再びしっとりとした空間が演出される。ここまで15曲、ほぼノンストップで繰り出されていく楽曲を淡々と歌いこなす姿はとにかく驚愕だった。定められた時間の中でとにかくたくさんの楽曲を届けたいという想いもあるのだろうが、これが初の有観客ライブとは思えないほどのパフォーマンス力。コンスタントに行われている配信や、連続コンセプトライブの全てが今この瞬間に繋がっているだろうし、何よりも歌うことに対する愛情の深さが一番の源なのだろうと感じ取った。

 もうすぐライブも終盤だろうと感覚的に頭によぎるタイミングで披露されたのが「今日とまだバイバイしたくないの」。全くもって粋なセットリストだ。まさに訴えかけるように、気持ちの乗った歌声と間奏のベースソロに合わせてリズムを刻む姿が印象的だった。しっかりと構築されたライブセットではあるが、ステージに立つ長瀬有花が醸し出す自由さは見ている側をワクワクさせる。オーディエンスも、音に合わせて体を動かす者から、とにかく動くことなくステージを見つめ続ける者など、それぞれが自由にライブを楽しむ姿が見られた。楽しむというその1点だけの一体感は心地がいい。この後、日常に帰らなければいけない寂しさを考える余裕はなかった。

 「バイバイしたくないの」の大合唱のさなか、Tシャツ姿に衣装チェンジした長瀬有花の登場を「オレンジスケール」が待ち受ける。オレンジのスポットライトがステージを包み込む中、リズムに合わせて盛大な手拍子が巻き起こる。浮遊感のあるAメロからサビのメロディアスさのギャップに合わせて、オーディエンスは手を挙げて飛び跳ねる。そのまま「プラネタリネア」で、再び熱気が加速。ラストスパートと言わんばかりに、長瀬有花の動きも激しくなっていく。「プラネタリネア」もライブ映えする楽曲だ。少し癖のあるメロディがライブではとにかくグルーヴィーで、体が自然と動いてしまう。虹色の光線が縦横無尽に暴れ回り、少し神妙な表情でオーディエンスを見つめる長瀬有花の姿も垣間見えた。

 ラストの直前で本日4曲目の新曲「ブランクルームは夢の中」が披露された。多彩な音が渋滞し、輪郭の見えない情緒の中で、長瀬有花の脱力感ある歌声がエモーションを伝達していく。初めて聴く曲であっても、楽しめてしまうくらいに、どの新曲もとにかく魅力的だった。そして最後の楽曲の前に少しだけ長瀬有花が語る時間があった。「長瀬有花はこれからもあなたの日常のそばにあり続けます」という言葉は、リアルとバーチャルという複雑な立ち位置でありながらも、どこか日常的で、等身大な振る舞いが最大の魅力でもある彼女だからこその言葉だろう。心地よい平凡さと、表現者として提供するワクワク感の塩梅が、楽曲により力を与え、そしてライブにも力を与えているのだろうとこの日実感した人は多いんじゃなかろうか。

 シンプルで深みのある言葉を単的に語り、いよいよ最後の楽曲「ほんの感想」が披露された。6カ月連続リリース楽曲の第6弾にリリースされた曲ということもあって、この日の最後に相応しい1曲だろう。満を持して開催された初の有観客ライブの最後ではあるが、内なる高揚感はあれど、感情を顕にさせることもなくいつも通り、ほぼノンストップで20曲歌い続けてきたとは思えないほど、いつも通りに歌い上げた。そして「気をつけて帰ってね」という言葉を残し、長瀬有花初の有観客ライブ『Eureka』は終了した。

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