藤田麻衣子、2部構成のステージで魅せた“揺るぎない色” 解放感あふれる歌が鳴り響いた『Live 2023「Color」』
2部、淡いラベンダーのワンピースで登場した藤田は、ステージ中央の白い椅子に座り、まずはキーボードとアコースティックギターのサポートで「鏡よ鏡」、そして、「美女と野獣」を届けた。藤田の大好きなディズニー映画(『白雪姫』と『美女と野獣』)のエッセンスを取り入れたシリーズ。前者は詞、曲ともwacciの橋口洋平が手がけ、後者では、歌詞を共作している。
ふたりはインディーズ時代から互いを知る同志的存在。「同い年でB型」の音楽仲間ということで、どんな曲にするかとことん話し合えたという。「デモテープを聴くときのワクワク感がすごかった」という藤田の表情でその手応えがわかる。ふたりの独自目線、既存の物語をどう着地させるかの粋が詰まった2曲。ちょっと低めのトーンでたゆたう歌声を包みこむ、シンプルなサウンドも魅力的だった。
さらに、作曲を人に委ねた曲が続いた。「シンプル」と「戻りたい、もう戻れない」だ。作曲はどちらも安室奈美恵やBTSなどへの提供曲で知られるSUNNY BOY。彼もまたインディーズ時代からの音楽仲間。だからこそ、藤田の個性を十分把握した上で新たな魅力を引き出すことができたのだろう。『Color』リリース時にこの曲について尋ねた際、藤田が「らしくないと思われることへの恐れから解放されてスッキリした」と、晴れやかに語っていたのが印象的だった(※1)。悠久の時間を思わせるリズムとメロディは、ワールドミュージックと言っていい趣。サウンドに反応する藤田の歌唱、コブシの新鮮さは、このライブでも白眉だった。
音数の少ない「戻りたい、もう戻れない」には、耳新しいコブシに加えて、ラップ風のアプローチもある。アルバムの中でも、この2曲は最もコンテンポラリーな仕上がりと言える。つまり、2部の頭からの4曲の流れは、ある意味今回のライブのへそなのだ。リスペクトする人たちとしのぎを削りながら共作したことで、藤田は自身の中の揺るぎない“色”を逆説的に見つけた。その喜びを、胸を張ってファンに伝える時間だったのではないだろうか。
「せっかくなので、立ちましょう! タオルでもなんでも危なくないものを回してください。飛んじゃいたくなっても、かかとは床から離れないように」とにこやかに始まったのは、密かに期待していたアップテンポのコーナー。インディーズ時代の「ベイブリッジ」が始まると、観客の反応に藤田も心底嬉しそうな表情を見せ歌いながらのボディランゲージも自然と飛び出した。
ポップな「1.2.3.」では、ステージを左右に動いて「タンタタン、いくよー!」と客席を煽っていく。〈lalalala〉と歌う観客をライトが照らし出すと、その声はどんどん大きくなっていった。本来の「飛ぶよ。1.2.3ジャンプ!」は、「飛ばないよ。1.2.3、イェイ!」に変更されたけど、それもまたこの日だけの“特別”として皆が楽しんでいる。その熱気は、ラテンビートの「Campfire」まで、途切れることなく続いた。藤田も踊る、踊る。そして、会場中でワイパー。サポート陣もエネルギッシュなソロで応えて一体感は最高潮に。藤田は全身からパワーを放射して、新時代の到来を謳歌した。2部ラストは「手錠」、そして、「漆黒」。「おーっ!」とどよめきが起こる。どちらも本人曰く「いけない恋の歌」。それを締めに持ってくるとは、ファン垂涎のおもてなしではないか。ダークでありながら艶と華のある、これぞ藤田麻衣子ワールド。キューッと一点にフォーカスしていく渾身の歌唱に、みんな身じろぎもせず聴き入った。高音のフェイクを響かせた「漆黒」のアウトロの高揚感、エンディングのカットアウトは、鳥肌が立つほどカッコよかった。
アンコール、「普通って幸せだなと思って」と近頃の心境を語って届けたのは「足音」。オレンジ色の光に包まれて歌詞を噛みしめていると、なんでもない日常って実は当たり前ではないんだなと思えて、鼻の奥がツンとしてしまった。ラストナンバーは「素敵なことがあなたを待っている」。〈よくがんばってきたね よくがんばってきたよ〉が、ここ数年の心と体の硬直を優しくほぐしてくれたのだった。
演奏を終え、メンバーと並ぶ笑顔が本当に柔らかい。最後の最後、ひとりきりのアカペラで再度「always」の一節を歌った藤田。心からの〈ありがとう〉を受け取った観客もまた、精一杯の拍手で〈ありがとう〉と心を響かせていた。
※1:https://realsound.jp/2023/05/post-1332807.html
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