2023.08.22 18:00

歌声を武器に自由度を広げる注目のシンガーソングライター SUKEROQUE　グルーヴに乗って発揮される“人懐っこさ”

文＝小川智宏

　一方、「蝸牛」についていえば、むしろSHOHEIの歌が描き出す情景が曲を引っ張っていく。抑えるところは抑え、出るところは出る。コントラストのはっきりしたアレンジもおそらく歌の力を十全に引き出すための工夫だろう。滑らかにつながるようにサビのファルセットへと聴き手を導いていく歌声は聴けば聴くほど、心にじんわりと響く。この2曲のクレジットを見ると、アレンジにはSUKEROQUEに加え、保本真吾、さらに言わずと知れた名ドラマーにしてプロデューサーである屋敷豪太の名前があり、彼ら手練れたちのアイデアによって、楽曲が整理・ブラッシュアップされたことが窺える。

　そうやって楽曲全体が磨かれることで、SHOHEIが歌う言葉もこれまでに比べてはっきりと耳に届く。アッパーでダンサブルな楽曲でありながら〈無数の幽霊ひしめくホームで今日も元気に病むJKが戦争中の人が可哀想と言う〉という1行目から、彼の世界の見方や感じ方がはっきりと伝わってくる「オリーヴの星」も、〈雨よ降り続け／愚かな僕を濡らして欲しい気がすむまで〉と雨がそぼ降る中どこまでも孤独に沈んでいく〈僕〉の心情を繊細に浮かび上がらせる「蝸牛」も、SHOHEIという人の根本的な心の在り方をとてもビビッドに描写している。

SUKEROQUE「蝸牛」

　彼は埼玉県南部、東京との都県境に位置するベッドタウン・朝霞市の出身で、公式サイトのプロフィールにも「埼玉・朝霞という都市の外側にある『郊外』で生まれ育ち、そこで感じ取った都市や街、そして田園風景をも内包した世界観や生き様を絵を描く様に昇華させる音楽が大きな特徴となっている」とある（※1）。それがすべてだとは思わないし、そう思うのは他ならぬ筆者自身が埼玉生まれだからかもしれないが、確かに彼の描き出す街の風景やそこに生きる人の描写には、それを“郊外”からやってきて捉えるような微妙な距離感がある気がする。そんな特徴も「オリーヴの星」や「蝸牛」にはっきりと示されていて、その意味でもこの2曲はSUKEROQUEというアーティストの本質を射抜くものになっているのである。

　そんな2曲を経て、8月16日にリリースされた最新曲「COOL CHINESE」はどんな曲か。昨今叫ばれる“COOL JAPAN”をサンプリングしたかのようで、何かをメッセージするような楽曲なのかと思いきや（いや、メッセージしているのは間違いないのだが）、なんとこれは冷やし中華の歌である。〈なんちゅうか少し寂しいくらい／冷やし中華が食べたりないみたい〉と華麗に韻を踏みながら冷やし中華への渇望をぶちまけ、〈甘く酸っぱい黒酢を舐めていたい／愛してるよ　愛してるよ意外と〉とまで歌うこの曲は一体何なのか。確かに、夏といえば冷やし中華だし、食べたいときにはもう夏が終わっていて食べられないという後悔も経験があるのでわかる。わかるが、それをホーンの鳴り響くリッチで華やかなファンキーチューンとして仕立ててしまう遊び心には本当に驚かされた（アレンジはアイドルからアニメ、ゲーム音楽までを幅広く手掛ける佐々木聡作）。この自由さもまた、SUKEROQUEというアーティストの一側面なのだろう。前述の通り、フロウを駆使しながら矢継ぎ早に言葉を紡ぐラップ調のボーカルも、前2曲では見せていなかった新たな顔だ。

【MV】COOL CHINESE / SUKEROQUE

　しかもより重要なのは、そういう歌詞の内容であっても、SHOHEIの声で歌われることによって、そこには単に「冷やし中華食べたい」を超えたものが生まれている感じがすることだ。ノリや語感を重視したであろう歌詞だが、そこには夏のアッパーなムードと裏腹に、切なさや寂しさがそこはかとなく内包されている。冷やし中華にあっという間に過ぎゆく夏を託しながら、ここで彼が歌っているのは、その裏側にある気持ちのほうなのだ。そのあたりも巧みだし、ここまで遊んでもOKというラインが引けたのは、それでも伝わるものに対する確信がより深まっていることの証明でもあるだろう。

　とにかく、この3曲でSUKEROQUEは一気に視野を広げ、真ん中に自身の歌があれば何だってOKになるということを誇示している。つまり、この先彼の表現はますます自由に広がっていくということだ。ここからまだまだSUKEROQUEの攻勢は続いていくだろう。それを楽しみにしたいし、その前に読者の皆さんにはしっかり「COOL CHINESE」を聴いて、今のうちに冷やし中華を食べに走ってもらいたい。

※1：https://www.sukeroque.com/profile/