宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」レビュー:『BADモード』期から一歩進んだA. G. Cookとのスリルあるコラボ

 「Gold ~また逢う日まで~」は、『BADモード』期に始まったコラボレーションから芽生えた1曲と言っていいかもしれない。最初に宇多田ヒカルとA. G. Cookがタッグを組んだのは、「One Last Kiss」。レゲトンのフィーリングを含んだ4つ打ちのバラードで、徐々にけばけばしく色彩をあらわにしていくシンセのサウンドが、A. G. Cookらしいシグネチャーをたしかに残している。つづく「君に夢中」は、冷ややかな残響をたたえたレゲトンのビートがクライマックスに向けて徐々に歪んでいく、クールでときにバイオレントな高ぶりも感じさせる。ほかにも、『BADモード』にはSkrillexとのコラボ曲「Face My Fears」のA. G. Cookによるリミックスも収録されている。

 『BADモード』期のサウンドではサム・シェパード(Floating Points)とのコラボレーションも話題を呼んだが、再びタッグを組んだのはA. G. Cookだった。これまでのコラボと並べて聴いても、A. G. Cookの作家性を特徴づけるケレン味あふれるサウンドはやや影を潜め、「A. G. Cookらしさ」を押し出した仕事というわけでは必ずしもないという印象がある。

 「Gold ~また逢う日まで~」に至っては、むしろそうした抑制の効いた「じらし」、アンチクライマックス的な展開が細かなサウンドのコントロールを通じて演出されている。もちろんA. G. Cookらしいテクスチャを感じさせつつも、宇多田ヒカルというアーティストの個性を伸びやかに発揮させているように思える。その点で、『BADモード』期のコラボレーションよりもある種有機的な、それでいてスリルのあるコラボレーションに仕上がっている。

 もし今後もこのふたりのタッグが聴けるのであれば、期待したくなる。軽やかながらそんな気持ちになる鮮やかな1曲だ。

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