ハチ、DECO*27らを超える速さで1000万回再生を達成した楽曲「寝起きヤシの木」 ボカロP・ゆこぴとは何者なのか?
そして、「強風オールバック」に続いて話題となっているのが、7月23日に投稿された「寝起きヤシの木」。今回も、‟髪”がテーマになっており、小津によるゆるくてかわいいコミカルなイラストと、リコーダー、トライアングル、カスタネットの伴奏があったり、「強風オールバック」に通じる要素もある。ネタ要素の強い作風から「歌ってみた」や替え歌などが次々と生み出されている現状だ。
なかでも、ゆこぴの発想が並ではないと感じるのは、歯ブラシを小刻みに動かす時のサウンドエフェクトが追加されていること。「強風オールバック」で炸裂していた、思わずクスッと笑える日記のようなリリックセンスは今回も健在だ。「寝起きヤシの木」では、〈起きました/笑ったわ/どうしよう〉〈水つけた/悪化した/まぁ 一旦 写真撮ろ〉と「強風オールバック」同様、気の抜けた独り言としての歌詞になっているのはもちろん、ゆこぴならではのユニークな感性が新たなハイブリッドサウンドに昇華され、暴走しているのがポイントだ。
冒頭で紹介したように、考察の余地を残した歌詞や洒脱で難解な歌詞が多く見られる傾向にある昨今のボカロシーンのなかで、その要素が無視されている「寝起きヤシの木」は、ニコニコ動画が台頭した初期に誕生したネタ要素の強いボカロ曲を彷彿とさせる空気感を持っているのも、リバイバル要素を秘めていて興味深い。また、歌詞はシンプルな一方で、絶妙な手拍子のタイミング、間の取り方、リズム感のよさ、現代のデジタルネイティブ世代が耳を傾けたくなるサビから始まる1分56分という短い尺であることなど、この1曲のなかに複数の戦略が練られている印象もある。ブレイクした要因は多岐にわたるが、突き詰めると、小学校で習うリコーダー、トライアングル、カスタネットの伴奏などから感じる子供の頃に帰る懐かしさや共感性の高い歌詞に共通する“思わず笑ってしまう”要素が、幅広い層を惹きつけているのではないだろうか。加えて、〈寝起きヤシの木/どうすべき/時間もないし/どうすんの これ〉と、口ずさみたくなるちょうどいいテンポ感で歌が進行することで、飲み込みやすいすべての言葉がパワーワードに聴こえてくるのも、この曲が最大の魅力を放つことができたひとつの理由だ。
歌詞のほか、サウンドにも共感性を持たせた「寝起きヤシの木」。考察の余地を残さないうえに、誰しもが懐かしいと感じる楽器を取り入れたサウンド構成など、どこまでもマイペースな響きが広がっている。今後ゆこぴが発表する新曲がネタ曲なのか、はたまた真面目な曲なのか、想像がつかないほどに今後の動向が楽しみなボカロPである。
寝起きヤシの木
1,000万回再生ありがとうございます pic.twitter.com/gFeoRB3hdj— ゆこぴ (@yukopipikku) August 14, 2023
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