「大森靖子はいいぞ」同じライブは二度とない『KILL MY DREAM』ツアー sugarbeansとの横浜BAY HALL公演
大森の弾き語りにセットリストはなく、その場で楽曲を決めていくのだが、ポップな前半から急転直下、セルフラブの対極にあるセルフネグレストギリギリな心象を歌うMAPAの「レディースコミック」と「パーティードレス」をマッシュアップして披露。何かを引き剥がすようにベリベリと弦を掻き鳴らす音はどんなパンクチューンより凶暴だ。幾人もの人格が変わるがわる登場するように声色を変える「hayatochiri」で孤独の色を深め、さらにオリジナルのポップな意匠から180度異なるニュアンスで「天国ランキング」が届けられる。さらにギターのボディを叩き、足を踏み鳴らしながら歌う様子は肉体を拡声装置に置換した、およそ“弾き語り”という概念からかけ離れた表現で届ける「VAIDOKU」に至るひとり舞台は、この日のクライマックスだったと言えるだろう。一人称の歌詞を異なる人物像を想起させる異なる声で届ける彼女の手法。もしかしたら手法というような意識はないのかもしれない。自分を救うサブカルを依存の対象である猛毒だと断じ、何者にもなれない自分自身を蕩尽し、それでもひりつくほどの生への欲望。そんなアンビバレンツが自ずと歌に現れているように思えるからだ。ヘヴィでありつつ、内面に向き合わせてくれる選曲を経て、出口のような「マジックミラー」で弾き語りパートを終えた。
「客席を明るくしてください」と告げて長めのMCに入ると、ここでもまたどこが話の発端で終わりなのかわからない、メビウスリングのような話芸が展開される。ただ、ところどころ微笑ましい日常のエピソードが挟まれていたりもする。オーディエンスとしては泣いたり笑ったり、非常に情緒が忙しい。
再びsugarbeansがピアノを弾き始め、アコギの音とピアノが優しく響く「呪いは水色」へ。そしてオリジナルもリリカルなピアノが美しい「君に届くな」が歳月を経たディープな表現で変化と不変を立ち上らせる。sugarbeansのピアノと大森の歌だけで作り出すライブの中でも、音像的な白眉と言える選曲だった。さらにロックンロールの名曲「ひらいて」が音数の少ない演奏になることで、投げ捨てるようなヤケクソめいた歌唱を際立たせる。〈さいあく〉と吐き捨てられた後の虚空が目に見えるような解像度の高い表現だった。
本編ラストは何度かライブで聴いても、〈猛れ 猛れ 猛れ〉の歌い出しが肩を揺さぶられて目が覚めるような「Rude」。滑り込んでくるsugarbeansのピアノが猛烈に郷愁を掻き立ててくる。獰猛なのに懐かしいという謎の感情はそれでいてとても温かいのだ。全身を使ってロングトーンを降下する「Rude」のメロディは圧巻だった。
ステージを去らずにそのままアンコールに突入。sugarbeansがその場で選曲した「愛してる.com」、そして、この日は「最後のTATTOO」で締めくくり。弾き語りに次いで自由度の高い選曲が可能であると思われるデュオ形式による初日だったが、新旧楽曲の組み立てがメンバー構成によってどう変わるのか。またシチュエーションとのケミストリーも大いに期待できる。初日のネタばらしをしたところで、同じライブは二度とない。Tシャツの「大森靖子はいいぞ」ではないけれど、今、まっさらな気持ちであらゆる音楽ファンに彼女のライブを観てほしい。
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