音楽原作プロジェクト『響界メトロ』、4人目のシンガー・カナタを迎えて新展開 5月配信曲から考察する“謎を呼ぶストーリー”
2023年2月に始動した音楽原作プロジェクト『響界メトロ』。「『声優』『歌い手』と『ボカロP』のタッグでおくる音楽でストーリーを紡ぐプロジェクト」と銘打ち、ボーカルとCVは声優の内田真礼と秋奈、歌い手のkonocoが担当。コンポーザー陣にはGiga & TeddyLoid、じん、Chinozoなどボカロ/ネット音楽シーンで活躍する作家が名を連ねている。
現在までに3つの楽曲が配信され、YouTube ショートには楽曲にまつわるストーリームービーも公開されている。
前回のコラムではプロジェクトの全体像、そして1曲目の楽曲「Tik[Q]et」の魅力や、4人目のシンガー・カナタ役のオーディションなどについて紹介した(※1)。今日までの間にオーディションは無事終了し、新たに2つの楽曲が配信された。
カナタ役オーディションはTikTokでの1次審査、オンライン面接での2次審査、最後にスタジオでの歌唱審査が行われ、優勝者は5月22日の「響界メトロ ミニ生放送」内にて発表された。700名超の参加者から見事カナタ役の“チケット”を獲得したのは、鹿児島県在住の歌い手・わかばやし。これまでの歌ってみた作品を視聴してみると、超有名曲からややニッチな曲まで選曲は幅広く、かつ曲ごとに歌い方を変えている印象だ。
たとえば「マーシャル・マキシマイザー」ではやや無機質でクールな歌声、「洗礼」ではダウナーな中にも力強いがなりでアクセントを入れるなど、曲に合わせて演じるような表現をしていて、すでに引き出しの多さが窺える。今回のオーディションに通過したことで、ソロ楽曲はもちろん、他のボーカル陣とのコラボ曲、さらには演技と、持ち前の高い表現力が様々な形で開花していくことが楽しみだ。
『響界メトロ』プロジェクトの要である、楽曲についても紹介していきたい。5月10日にリリースされた「誰かと似ている彼氏」は、内田真礼演じるリンネのソロ楽曲となっている。楽曲を手掛けたのは「帝国少女」「flos」などで知られるボカロPのR Sound Design。夜の都会を思わせる冷たい空気感と、小声でつぶやくような初音ミクの調声の不思議な調和が持ち味だ。
今回の「誰かと似ている彼氏」でもその味は健在で、内田真礼が「(リンネが)しゃべっているように歌えたら」と意識したことも相まって、揺蕩うような浮遊感に仕上がっている。サウンドプロデューサーの廣澤優也は、R Sound Designと内田真礼の共通点に「透明感」を挙げ、「R Sound Designの透き通ったサウンド感や切なく描き上げる楽曲のカラーと内田真礼の歌声は間違いなく合うだろうと思い、この組み合わせで物語音楽を紡ぐことを決めた」とコメントした(※2)。
一方、RUCCAが作詞した歌詞の内容は、実はリスナーの謎を深めるものとなっている。というのもこの曲の配信前に、「『Tik[Q]et』のリリースにまつわるおはなし」としてYouTube ショートに全8話のストーリームービーが公開されたのだが、リンネはしばしば育ての親・トキオに反抗的な態度を見せていた。かと思えば突然トキオを名前で呼んでまわりに怪しまれたほか、大災害発生後には「やらなきゃいけないことがわかった」など意味深なチャットを残している。
💬 「Tik[Q]et」のリリースにまつわるおはなし。
1話から8話まで、ぜひご覧ください。
▼checkhttps://t.co/45H4I40i9m#響界メトロ #kyoukaimetro pic.twitter.com/MctlPa88up
— 響界メトロ (@kyoukaimetro) May 9, 2023
その上で歌詞を紐解くと、繰り返される〈Loop deep inside〉というフレーズが気になるし、リンネが抱く違和感が徐々に強まっていく様子、そして何かに気づいて決心する過程が描かれているように思える。電車内を舞台とするMVでも、リンネだけでなくしばしばトキオが登場し、2人の姿が交錯する様子はもちろん、異なる時間を示すたくさんのアナログ時計など、細部まで謎のヒントになりそうな仕掛けが散りばめられている。
「誰かと似ている彼氏」の配信後、『響界メトロ』のYouTube ショートでは同楽曲にまつわるショートボイスストーリーの公開がスタート。こちらは全10話で、楽曲からさらに一歩ストーリーの核心に踏み込む内容となっているため、ぜひチェックしてみてほしい。