BUMP OF CHICKENの音楽が果たしてきたリスナーの力を引き出す手助け 『be there』ツアーで取り戻された多くのもの

BUMP『be there』たまアリレポ

 藤原基央という人は徹底して、現実を見続けた歌詞を綴る。例えば「HAPPY」は、生まれたことを祝う曲でありながら、〈どうせいつか終わる旅を〉と、必ず訪れる終末から目をそらさない。

 あるいは8曲目、藤原の語りかけるような自然な声色の優しさが光った「魔法の料理 ~君から君へ~」。子供時代を懐古するように温かみのある楽曲だけれど、〈楽しみにして でも覚悟して〉とただ優しいだけではない、ハッとさせられるフレーズが仕込まれている。「夜は明けるよ」「夢は叶うよ」なんて歌詞を書くのは簡単だ。けれど、生きていれば必ず繰り返し困難は訪れ、後悔しない人生はなく、努力が必ず報われるわけでもない。そういう残酷さを持つ現実を、藤原は都合よく無視しない。その最たる例が、「俺(藤原)は君(リスナー)のそばにはいられない」ということだろう。

 アンコール時のMCで藤原は語った。

「今日どうやって来たの。昨日までどうやって生きてきたの。明日からどんなふうに生きていくの。俺わかりようがないじゃん。それが歯痒いんです」

「俺は君の明日にお邪魔することはできないでしょ。こんなに2時間深く繋がったのに日常に戻っていく。僕はその日常についていくことができない。でも、僕ができないことが僕の曲にはできます。君が望んでくれさえすればね」

 藤原基央その人が、現実の私たちの隣にいてくれることはない。「そばにいるよ」、「俺が助けるよ」とひとたび歌ってしまえば嘘になる。けれど、BUMPの音楽を傍らに置くことはできる。だからBUMPの楽曲が歌うのはおしなべて「僕を救うのは僕自身」であり、「僕の音楽」だ。

 BUMPの音楽にはたしかに力があるけれど、それは私たちにそのまま渡されるものではなくて、私たちの中にある力を引き出す手助けなのだと、〈Happy Birthday〉と繰り返し歌いながら思った。だからきっと藤原は客席に歌うことを求めるのかもしれない。「生まれてきて幸せだ」と、あるいは「生きるのは最高だ」と、私たち自身の力で思えるように。そういう形での力の分け与え方が、この『be there』ツアーでようやく取り戻されたのだ。

 そんなMCを経てアンコールラストを飾ったのは「宇宙飛行士への手紙」。一旦他のメンバーがハケたあと、最後にステージに残った藤原が名残惜しそうに、「時間ある? もう一曲付き合ってくれる?」と呼びかけ、ギター一本で奏で始める。そこへ升、増川、直井が戻ってきて、少しずつ音楽を完成させてゆく。〈生きている君に/僕はこうして出会えたんだから/そしていつか星になって/また一人になるから/笑い合った 今はきっと/後ろから照らしてくれるから〉。伸びやかに、BUMPの誠意をもって綴られた言葉を歌う。増川のうねるギターソロと、それに向けて藤原が「いけ! 増川弘明!」と吠えるその瞬間が、稲妻のように鮮烈だった。

 時系列が逆転するが、最後にひとつだけ、アンコールでの合唱について触れたい。これもまたBUMPのライブのアンコール時によく見られる「supernova」の合唱。もちろんステージからハケたメンバーにアンコールを求める歌声なのだが、直前に披露された「HAPPY」から「ray」、そして「supernova」の流れを受けてその合唱を聴いた時、まるで音楽から受け取ったものがそのまま歌声として溢れ出ているような、音楽が人に何を与え、それがどう力になるのかを目の前で体現されているような思いにとらわれた。アリーナを歌声が満たすそのさまは何か象徴的で、思わずこの時がもっと続けばいいと願ってしまった。客席から上がるアンコールの合唱をもっと聴いていたい、なんて思わされたのは初めてだ。

 絶え間ない声に包まれながら、『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』は幕を閉じる。その空間は、ただ一方的に鑑賞するものではない、そこにいた全員で織り上げたものだった。

■セットリスト
1.アカシア
2.ダンデライオン
3.天体観測
4.なないろ
5.透明飛行船
6.クロノスタシス
7.Small world
8.魔法の料理 ~君から君へ~
9.プレゼント
10.新世界
11.SOUVENIR
12.Gravity
13.窓の中から
14.月虹
15.HAPPY
16.ray
17.supernova

En1.embrace
En2.ガラスのブルース
En3.宇宙飛行士への手紙

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