新人シンガー・ざきのすけ。が表現する普遍的な葛藤 『合理的にあり得ない』と重なった“信じる道を進む決意”

ざきのすけ。が歌う普遍的な葛藤

 4月17日からスタートしたドラマ『合理的にあり得ない〜探偵・上水流涼子の解明〜』(フジテレビ系)。現在3話まで放送されており、天海祐希と松下洸平が演じる、性格が正反対でありながら絶妙なコンビネーションを発揮する異色の探偵コンビが大きな話題を呼んでいる。そして、今作に別のアングルから光を当てることで、この物語のメッセージに奥行きと深みを与える役割を担っているのが、新人シンガー・ざきのすけ。が歌う主題歌「彼は誰どき」(読み:かわたれどき)である。

 ざきのすけ。は、北海道札幌市出身で現在21歳のシンガーだ。中学生時代にバンドを組みボーカルとして歌い始め、鎮座DOPENESSの楽曲との出会いをきっかけにラップや曲作りを始めたという経緯を持つ。これまでに計10枚のシングルとEPを配信リリースしており、各楽曲のジャンルは、R&B、ヒップホップ、ソウル、ジャズなど非常に多岐にわたる。また、一つの楽曲の中で異なるジャンルの要素が鮮やかに溶け合っている曲も多い。ざきのすけ。はフェイバリットの一つに東京事変を挙げており、それは彼のそうしたミクスチャー的な感性の原点と言えるかもしれない。

 今回、ドラマの主題歌に抜擢された「彼は誰どき」は、ざきのすけ。のディスコグラフィの中でも突出してロックのテイストが強い疾走感が溢れる楽曲で、改めて、複数のジャンルの楽曲を自在に歌いこなす彼の多彩さに驚かされる。なお、5月31日にCDでリリースされるメジャー1stシングル『彼は誰どき』のカップリングには、椎名林檎の代表曲「丸ノ内サディスティック」のカバーが収録される予定で、自身のルーツをどのように表現するのか楽しみだ。

 上述したように、今回の新曲「彼は誰どき」は、ドラマ『合理的にあり得ない』の主題歌であり、作詞はざきのすけ。自身が手掛けている。同曲の歌詞について迫っていく前に、まずは簡単にこのドラマの物語について記しておく。主役は、かつて多くの事件を担当する敏腕弁護士だった上水流涼子(天海祐希)。ある傷害事件をきっかけに弁護士資格を剥奪され、今は自身が設立した探偵事務所の代表を務めている。金になるのであれば、どのような無理難題の依頼でも引き受ける。そして手段は選ばない。そうした涼子の極めてグレーなスタンスは、例えば、1話における「法は強いやつには有利に、弱いやつには不利にできてるから」という言葉に表れていて、その言葉は、法律が必ずしも正義を全うするとは限らないという切実な現実を伝えている。「六法全書にとらわれず、自由に動ける探偵のほうが性に合ってるかもね」という言葉も涼子の性格をよく表していて、彼女はIQ140の相棒である貴山伸彦(松下洸平)を振り回しながら、自由奔放、かつ強引なやり方で次々と依頼をクリアしていく。過去の傷害事件の真相を巡る縦軸の物語もあるが、基本的には1話完結の痛快な探偵ストーリーである。

【第4話は5月8日(月)放送】主演・天海祐希ドラマ『合理的にあり得ない~探偵・上水流涼子の解明~』

 涼子の強引なやり方は、決して清廉潔白なものではなく、彼女は善と悪の狭間を、法の知識を武器としながら巧みに往来し続けていると言える。涼子と連携を取る警視庁相談センター勤務の丹波勝利(丸山智己)が、映画『ダーティハリー』に憧れてホットドッグを食べているシーンもあるが、涼子の姿は、まさに主人公の刑事・ダーティハリーと重なるもので、真っ当な正しさだけでは打破できない状況を豪快に突き抜けていく姿は、ドラマの視聴者に爽快なカタルシスをもたらしてくれる。しかし、依頼人から金さえ受け取れれば(かつ、ギリギリのところで法を守っていれば)何をしてもよい、というわけでもなくて、ドラマの視聴者であれば、今もなお彼女の中には熱い正義感が燃え盛っていることが分かるだろう。

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