BUCK-TICK、通算23枚目アルバム『異空 -IZORA-』がチャート上位 意地と貫禄を見せつける見事な最新作

 どんな曲であれBUCK-TICKになる。それはもちろんボーカル・櫻井敦司の力量によるところが大きいのでしょう。悪魔的な容姿やセクシーな歌声、パフォーマーとしての存在感など、彼を崇拝する声は昔から絶えることがありませんが、今回特に注目したいのは歌唱アプローチの多彩さ。物語の世界観をどこまでも高めようとする、執念にも近い努力が見えるのです。

 当たり前の話ですが、主旋律を型通りに歌って録音すれば、いわゆる「歌入れ」は成立します。ただ、それだけでは物足りないときに使うのがダブリングという手法。同じ人間が同じ旋律をまったく同じように歌い、それを重ねることで微妙な揺らぎや厚みのある聴き心地を生み出します。さらには二度や三度のハーモニーを加えれば響きはより豊かになる。この基本を頭に入れたうえで、5曲目「愛のハレム」を俎上に載せたいと思います。

 最初は単発の歌唱によるサビ。続く一番、〈迷い込んだCorridor〉では主旋律のほかにオクターブ上のメロディが聞こえ、〈etranger〉のところでは“歌う櫻井”と“囁く櫻井”が出てきます。イヤフォンで聴くとよくわかるのですが、まずRから聞こえるこの囁き声が、次はLから聞こえてくる。続く〈タナトスの花をどうぞ/ベールを翻し消えた〉のところはダブリングボーカルにオクターブ下のメロディが加わり、後半は幾重にも重なったハーモニーが響き渡る。このワンフレーズだけで何回歌入れを重ねたのでしょうか。全曲を通してこれくらい緻密なダブリング/コーラスが施されているので、集中した時間の長さを思うと気が遠くなってくるのです。

 同級生による仲良しバンドが続いただけなら、ここまでの境地には至らない。ワンフレーズに対してここまでやる。ここまでやりきってBUCK-TICKは成立する。そういう意地と貫禄を見せつけられる一枚でした。お見事。

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