KREVA、新曲に込めた“生涯学び続ける”姿勢 20年の歩みの中での葛藤や交流も振り返る

KREVA、“生涯学び続ける姿勢”

 今年の6月にソロ活動20周年を迎えたKREVA。新曲「Forever Student」は、アニバーサリーイヤーにふさわしい要素が満載の1曲だ。尽きることのない好奇心と学ぶことの喜びを描いたリリックが、粋なライミングを交えながら活き活きと躍動している。「ラップ」という音楽表現の醍醐味を幅広い層のリスナーが体感できる曲でもあると思う。込められている想い、制作エピソード、20周年を迎えた感慨、今後の活動について語ってもらった。(田中大)

“自分を掘っていく”作業から生まれた「Forever Student」

――「Forever Student」は、“KREVAさんの曲”という感じがすごくします。

KREVA:「Forever Student」というアルバムを作りたくて温めていた曲ではあったんですよ。だからこそ、より自分の本質に近いんじゃないかなと思います。2年くらい前から「Forever Student」は、「結構言えてるな」という感覚があって気に入ってました。

――ファンの皆さんは、タイトルを見た時点で「KREVAさんの本質が表れている曲だろうな」とわかったと思います。「これでよければいくらでも」のリリックの言葉を借りるなら、〈ミスター向上心〉ですから。

KREVA:「Forever Young」ってよく聞く言葉ですけど、「嘘だろ」と思うことがあるんです。“心はいつまでも若く”っていうことですけど、「いやいやいや~」と思う部分があるので。でも「Forever Student」はそういうのがないんですよね、何の習い事も年齢に関係なくいつでも生徒になれるわけですから。

――「Forever Young」は、「変わらないことが素晴らしい」みたいなニュアンスで捉えることもできるので、それが違和感に繋がる部分もあるのかも。

KREVA:そうですね。もちろんそうありたいと思うこともあるんだけど、どうやっても抗えない部分はありますから。歌詞でも書きましたけど、独立して会社を始めてから学ぶこともたくさんあったし、水泳をずっと習っているから実際に生徒だし(笑)。

――「何かをもっと知りたい」というのは、人間の本能みたいなものですからね。

KREVA:そうなんです。俺の場合は機材の使い方もそうです。独学なので常に学んでいないといけないと思っています。

KREVA(撮影=キセキミチコ)

――このテーマで1枚のアルバムを作る構想もあったとのことですが、1曲に集約した理由は何かあったんでしょうか?

KREVA:そんなこと言っていられなくなったというか、この1曲を作るのに必死だったんです。いろんな学びに関するメモを集めたんですけど、そのどれかひとつから話を広げていくのでは物足りなくなって、全部のメモを並べて歌詞を書いていくことにしました。「時間をかけて作った」という言い方が一番正しいのかなと思います。最初にサビを作ってみて、その歌詞を途中で半分以上変えちゃいましたし、その後にヴァース1、ヴァース2とか、展開していく部分のトラックを作って、しばらく置いておきました。そして、その後にサビの歌詞を書き直して、ラップを書いて……っていう感じで、順を追ってやっていったんです。

――気持ちのいい韻も満載ですね。

KREVA:そこら辺のハードルも上がってきているので、時間がかかるようになっているのかもしれない。

――押韻、ライミングも尽きることのない探求ですよね?

KREVA:はい。韻を踏まないと歌詞が書けなくなっていますね。

――〈新人クレバも新人社長 馬なら必要人参100本〉のリリックが好きです。かっこいいし、言いたいことがズバリと言えているのに、なんだかとぼけているじゃないですか。

KREVA:真面目で芯を食ったことを言ってるから、ちょっと「抜け」じゃないけど、「えっ?」っていうことを入れておかないと嫌だなあと思って入れました。

――ユーモアもKREVAさんの一面ですからね。

KREVA:あまりそういう部分は出していないから、もっと出していきたいですね。

KREVA - Forever Student

――この曲、今年上演された舞台『KREVA CLASS -新しいラップの教室-』と通ずるものも感じました。「透明の学校」が出てくるあの舞台も学びを描いていたじゃないですか。

KREVA:賢太郎さん(小林賢太郎)と話している時から、「Forever Student」という作品を作ろうと思ってるという話はしていたんです。「その作品と『KREVA CLASS』は続いていた方がいい?」って聞かれて、「そこまでは考えなくてもいいけど、繋がっていても嬉しいです」みたいな話はしていたかな。

――KREVAさんを〈ミスター向上心〉と最初に表現したのは小林さんでしたから、あの舞台と今回の曲に通ずるものがあるのは自然なのかもしれないです。

KREVA:「Forever Student」を作っている時は、『KREVA CLASS』のことを思い出している余裕はなかったですけどね。とにかく必死に作りました。今までだったら「これを書きたいけど思うように書けない」っていう時は追加のインプットをして、それに対する反応で出てきた言葉から歌詞を広げていたんです。でも、この曲に関しては長い期間考えていたので、「自分を掘っていく」という作業だったのかなと思います。

キャリアを重ねたからこその葛藤も

――曲作りに関しても、以前と比べて変化してきているところはあるんですか?

KREVA:最近、自分をしっかり掘っていく作業が多くなっている気がします。「そうじゃないと駄目かな?」っていう感じなんですよ。

――年々、作る曲のメッセージ性が深まってきていますよね。昔は衝動的な勢いで作った曲も多かったですけど。

KREVA:そうですね。去年「Expert」を出していろんな人からコメントをいただいて「聴いてくれる人は聴いてくれているんだなあ」と思いましたね。

KREVA 「Expert」 MUSIC VIDEO

――やはり韻は外せない要素ですよね?

KREVA:もちろん。俺としては「もっと韻を面白がっていきたいなあ」という気持ちも、「韻を面白がってもらいたい」という気持ちもある。メッセージと韻の両方を満たしていかないといけないなと思っているので、時間がかかっているんだと思います。そこが本当に難しい。そういう曲を作るために何かをどこかから持ってくるのではなくて、自分から出てくるものを掘り下げながら探すようになっているんですよね。

――ソロ活動を始めた20年前と較べると、ラップの韻を理解する人は増えましたよね。

KREVA:そうですね。韻について語る人も増えたと思いますし、語る場が出来上がってきたというのもあると思います。

――韻の面白さを感じさせてくれるラッパーもたくさん活躍していますからね。

KREVA:「Forever Student」を作る中で苦しい時があって、AKLOとZORNに話を聞いてもらったんですよ。ラッパーにしかわからない悩みってあるから。彼らと話をして楽になったところがあります。

KREVA(撮影=キセキミチコ)

――韻に関する悩みを話したんですか?

KREVA:いや、韻の悩みではないですね。「こういうキャリアで、こういう規模感で動いていて、今はこうで」というベース込みの、「じゃあ、どういうものを出していくのか?」という悩みです。あと、ステージにひとりで立つ者として、「世の中ではどういうものが流行っていて、何を求められているのか?」という話をした時に、すごく共感してもらえるし、自分としても共感できる部分が多いのがAKLOとZORNで。ふたりとの話は、いい息抜きと刺激になりました。

――ZORNさんと言えば、数年前の『908 FESTIVAL』(「908 FESTIVAL ONLINE 2020」)のアフタートークの配信だったと思うんですけど、「韻が導く」というようなことをふたりで話していたのが印象的だったんです。言語表現は意味を繋ぎ合わせて組み立てていくのが一般的ですけど、「韻」に導かれながら言葉を紡ぎつつ意味も刻んでいくのはラップの醍醐味だよなと感じました。

KREVA:「そんなこと思ってなかったんだけど」みたいな感じで、韻が話を決めていくところがあるんですよね。〈Forever Student〉に対する〈ほどけたシューレース〉もそうです。あまり「シューレースほどけた」とは言わないですけど、これは韻が導いてくれた言葉だし、「靴紐がほどけたけど、またすぐに結んで歩きだす」みたいなものはForever Student感がすごくあっていいなあと思います。ただ、それは「韻を踏む」という考えがなかったら出てこなかった表現であるのは、間違いないですね。

【ダイジェスト】2020.9.08「908 FESTIVAL ONLINE 2020」

――〈Forever Student〉と〈ほどけたシューレース〉は、韻と意味が絶妙に両立しているフレーズのわかりやすい一例ですね。

KREVA:クラブ、ストリートから自分が離れて、ダンスミュージックから少し距離を置いているからこその“意味重視”というか。ノリで「イエイ! 騒げ! 騒げ!」って言っていても歌としては成り立つけど、そういうのを今の自分は求めてないし、そういうのを流す場所にはあまりいないから、よりしっかりと聴かせるものになっていってるのかもしれないです。

ーー〈新人クレバも新人社長 馬なら必要人参100本〉も、韻が関係なかったから「なんで人参が100本必要なの?」ということになりますからね。

KREVA:ちょっと笑えるやつを入れようと思ったのは、もしかしたら『KREVA CLASS』の影響があったのかも(笑)。

――ユーモアから離れられない性分でもあるんだと思います。

KREVA:でも、「Expert」とかにはユーモアな感じはないですけどね。そういうのが結構世の中に届きがちというか。世の中の人って真面目なんだと思う。「あの人、人参好きなのかな?」みたいな(笑)。「これはたとえ話で」って言わないと通じないこともあるというか。そうなっちゃうのは真面目なことを言ってる曲ばかりをシングルカットしたり、MVを作ったりしてるからかも。

――ファンは、KREVAさんの曲に様々な面があるのをよく知っていますけどね。

KREVA:遊びがあるのとか、ハードな面とか、いろいろ出していけたらいいですね。「全部で俺だよ」って。

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