SIRUP「GAME OVER」はジャンルの先入観を飛び越えるラブソングに 2024年に再確認した自らの役割も語る
SIRUPが約6カ月ぶりのニューシングル「GAME OVER」をリリースした。「GO!!」に続いてTaka Perryをサウンドプロデュースに迎えた同曲は、SIRUPのルーツであるソウルやR&Bをモダンに解釈したユニークなナンバー。恋愛をゲームのようにコントロールしようとすることの不毛さや憂いを表現したリリックと相まってシュールな印象も残す。今回は「GAME OVER」の着想はもちろん、11月と12月にそれぞれ行われるタイと韓国での単独公演までの経緯、大きな振り幅を見せた2024年のフェス・イベント出演で得たもの、それらを前提にした来年のビジョンなどを語ってもらった。(石角友香)
恋愛において相手と合わないことは“勝ち負け”ではない
――「GO!!」のインタビューの際にTakaさんとセッションした曲がいくつかあると答えていましたが、この「GAME OVER」もその一つなんですか?
SIRUP:セッションした曲はめちゃくちゃあるのですが、この曲自体は「GO!!」の後ぐらいだった気がします。Takaから「こういう方向性の曲をSIRUPとやりたい」と提案してもらった曲なんです。自分のルーツにソウル、R&Bはあるけれど、いい塩梅でやっていないフレッシュなサウンド感があってお気に入りの曲になりました。
――バラードではないスローな曲というユニークさがあると思いました。
SIRUP:こういうサウンドの曲って従来だとストレートに「愛してるよ」みたいな曲になると思うんですよ。でもそれだと面白くないから真逆の中身の曲を作ろうということになって、そこのシュールさや面白さを意識して作りました。で、普通にコンパクトに終わっても自分っぽくないので、ラップっぽいバースを入れたり、セクションが変わるのもある種現代的で面白いかなと。往年の引き継ぐべきソウルやR&Bのパワーを持ちながら、どう新しく今の時代や今の自分に合わせて作っていくかということは常に考えているので、この曲だけが特別ということではないんですけどね。
――ジャンルの先入観を飛び越える曲になっているなと。歌詞は恋愛をゲームと重ね合わせて書こうとされたのか、それともゲームのイメージから全体像が浮かんだのか、どんなプロセスでしたか?
SIRUP:恋愛からですかね。もともとゲームっぽくしようとは思っていなくて。別れ話的な発想から、どうしても人間って恋愛において駆け引きをしようとしてしまったり無意識で勝ち負けにしようとしてしまう、その愚かさみたいなものがあるなと感じていたことをゲームに喩えてみました。お互い楽しんでいる分にはゲームみたいな駆け引きも勝手にやればいいんですけど、それで失敗している人たちが多いなという体感は自分も含めてあるし。そういうことを思いながら作りました。
そして、そもそもなぜ恋愛がゲームのようになってしまうのかというと、その中心には「自分が手に入れたい」しかないからだと思っていて。二人でベストを探っていくという考え方になれれば、ベストを探れなくてもそれは勝ち負けではないのに、と。この曲に関しては歌詞に登場する二人がそれをわかっていない前提なんですね。本来はベストを探し合って合わなければ仕方ないよね、ぐらいのテンションで、別に合わないことは勝ち負けではないし何かを失ったわけでもないはずなんです。
今回は恋愛を軸にしていますが、恋愛だけじゃないところにも当てはまるテーマにもなっているなと個人的には思っています。
――ライブのセットリストでどういう位置にくるかも興味深いです。
SIRUP:そうですね。ライブでやってみないと盛り上がる曲なのかどうかってわからないところがありますよね。歌として聴きたい要素もすごくある曲だと思うんですけど、ソウルのマナーでいうと超ダンスチューンでもある。だから意外に盛り上がるところに持っていってもいいような気もするし、ファンと一緒にどう育てていくのかがすごく楽しみな曲です。
――MVの内容も今までにない感じですね。
SIRUP:初めてMVで踊りました。ちょっとソウル的なテンションで踊りたくなってきたので、ダンサーも入れて。曲のシュールさも詰め込んだ映像になっているので、いろいろ言いながら楽しんでもらいたいMVでもあります。ぜひいろいろ言ってもらいたいです(笑)。
タイと韓国での単独ライブへのチャレンジ
――11月、12月にはタイと韓国で初めて単独ライブがありますが、開催の経緯を教えていただけますか。
SIRUP:純粋にやりたかったからというのが大きいですね。タイに関しては去年から割と高い頻度でライブをさせてもらっていて。シンガポールのbrbとタイのフェスに出たり、そのあともSIRUPとしてフェスに出るといういい流れがある中で、現地にファンがいるという実感を得たので、もっとファンとコミュニケーションを取りたいと思ったんですね。あとはタイのシーンっていろんな音楽があって面白いし、ライブシーンの盛り上がりも日本では見ないレベルの面白さを体感しました。もちろん、もう解散しちゃいましたけど、HYBSと「I’m Blessed」を出したことも大きいですし、タイのアーティストともっとコラボしたいと思っています。あと個人的にタイは食べ物や気候も好きで、いろんなことがハマった状態なので、さらに広げるために今回はチャレンジとしてこういったライブを企画しました。
タイのフェスに何度か出演して印象的だったんですけど、舞台監督的な人が女性だったことがよくあって。日本とはジェンダーバランスも違うように見えてフレッシュだし素晴らしいなと思いました。ただ、全体的にある種のゆるさもあるんですけどね(笑)。ある程度自分の仕事が終わったらハンモックで寝ている人がいたりするのも、働き方としては日本もあれでいいと思うんですよ。いい意味でカルチャーギャップがありました。
韓国に関してはずっと自分との親和性がある国で。韓国の音楽からも影響を受けたり、自分が尊敬するアーティストであるSUMINちゃんやSlomと曲を作ったりもしているのですが、もっといろんなことをやってみたいし、もっとコラボもしてみたいと思っています。韓国のファンもいつもSNSでコメントをくれたりするので、どの国でもそこにいてくれるファンの人達に会って直接届けたい、時間を作りたいというのが基本的にはありますね。
――今回のライブで共演するSUMINさんはもちろん、尊敬するアーティストとその理由は?
SIRUP:SUMINちゃんは初めて韓国のクラブで共演したときのライブで、曲にもパフォーマンスにも衝撃を受けたし、ブランディングも上手でずっと尊敬しています。あとはZion.TやDEANといったレジェンドも尊敬しているしすごく聴いてきました。挙げだしたらキリがないですね。最近だとBIGBANGのG-DRAGONがパレスチナのインディーズレーベルからシングルを出しましたよね。その選択をすることがカッコいいと思いました。さらに言えば、倫理観を自分たちでアップデートしていったBTSの影響もいまだにあると思いますし、日本の今の音楽に足りていないところ、先をいっているところがすごいなと。もちろん世界で勝負しないといけない背景もあったりするんだとは思うんですけど。