琴音
琴音、スランプの先で再認識した“音楽を作る喜び” 刺激的な環境がもたらす、シンガーとしての強みと広がり
シンガーソングライターの琴音から新作『君に EP』が届いた(4月19日発売)。今年1月にはアニメ映画『金の国 水の国』で劇中歌を担当したことも記憶に新しいが、約1年7カ月ぶりのCD作品となる今作には、琴音の伸びやかな歌声を活かしたバリエーション豊かな6曲を収録。『金の国 水の国』劇中歌3曲に加えて、優しくも力強いメッセージソング「君に」、琴音が作詞作曲を手がけた「ライト」、壮麗で神秘的なオーラに圧倒される「波と海」など、幅広い表情を見せる歌声を堪能することができるだろう。さまざまな新しい刺激を得ることで完成したという今作について、琴音に話を聞いた。(編集部)
「メロディが浮かんだときは久しぶりの感覚だった」
――琴音さんは昨年、スランプから曲が作れなくなってしまった時期があったそうですね。
琴音:そうなんです。私は2年制の専門学校に通っていたのですが、2年生の時は課題がとにかく多くて。本当に寝る暇もないくらいだったので、自分の音楽活動と合わせるとなかなか時間的に厳しいことが多かったんです。そんな状況だったので卒業したらちょっと休もうと思っていたんですけど、結果的にちょっと休みすぎちゃったみたいで……(笑)。
――昨年の3月に卒業されたんですよね。
琴音:はい。卒業後に1カ月くらい休み、そろそろ曲作りを再開しなきゃなと思ったところ、「あれ、何も思い浮かばない」「どうやって作っていたんだっけ?」みたいな感じになってしまって。焦りながらも、そこから半年以上、ほぼ何もできないまま過ぎ去っていってしまいました。ちょっと休んだことで創作にまつわるいろいろなことが抜けてしまったんだと思いますが、本当に理由は結局わからずじまいで。
――その状況はかなり怖かったんじゃないですか?
琴音:そうなんですよね。私は提供していただいた曲を歌うこともありますけど、基本はシンガーソングライターとして活動しているわけで。曲が自分で書けなくなったら、ソングライターではなくなっちゃうじゃないですか。自分の思いを注ぎ込み、自分で作ったものを評価していただける喜びを私は知っているので、それがなくなってしまうことが本当に怖かったです。その状況をなんとかするために色々な場所に行ってみたりもしたんですけど、頭の中にはずっと不安が存在しているから何をしても全然楽しくないんですよ。すごく綺麗な景色を見ても、「ここから何か拾えるかな?」みたいなことばかり考えてしまって、その美しさ自体を感じることができなくなっていましたし、振り返ると、かなり辛い時期でした。
――その状況から抜け出せたのには何かきっかけがあったんですか?
琴音:ある日、テレビを観ていたら急にメロディが浮かんできたんですよ。何かきっかけがあったわけではなく、気づいたらちょっとずつ戻っていったんだと思います。最近は制作活動やインスタライブなどをしている中で曲の種みたいなものが思い浮かぶことも増えたので、そういった「人との関わり」が何かしら影響していたのかなって今になって思います。去年はほとんど音楽活動もできず、人ともあまり出会えていなかったので。
――ひとつの要因としてコロナ禍も影響していたのかもしれないですね。
琴音:そうですね。人との関わりを含めた、いろいろなインプットがなくなってしまったことで、曲作りの感覚が薄くなってしまったのかもしれないです。
――そういった時期を経験したことで、音楽を作れる喜びを改めて噛みしめたところもあったんじゃないですか。
琴音:テレビを観ながらメロディが浮かんできたときは、本当に久しぶりの感覚だったのですがるような気持ちでした(笑)。確かに音楽を作れることには大きな喜びがあるし、本当にありがたいことだなとより強く思うようになりましたね。
――琴音さんは今年1月に公開された映画『金の国 水の国』の劇中歌3曲を歌われていましたが、その制作もスランプの時期に?
琴音:そうでしたね。本当にありがたいお話をいただけたことを喜びつつ、頭の片隅には「まだ自分で曲を作れていないんだよな……」という思いもあって。とはいえ、映画の劇伴や挿入歌を手掛けられたEvan Callさんとご一緒させていただけたことはすごく刺激的な経験でしたし、元の状態に戻った今、貴重なインプットとして自分の創作に影響を与えてくれている部分もあるなと感じています。
――琴音さんの動きが見えたことで安心したファンも多かったでしょうからね。
琴音:はい。去年はブログの更新ぐらいしか動きをお見せできていなかったので、やっぱり心配させてしまった部分はすごくあったと思います。『金の国 水の国』の情報が解禁されたときは「待ってましたよ」というコメントをたくさんいただくことができました。お待たせして申し訳なかったなという気持ちとともに、ここからの活動を楽しんでもらえたらなと今は思っています。
「年齢を重ねることで、違った響き方をするかもしれない」
――そんな琴音さんから約1年7カ月ぶりのCDリリースとなる『君に EP』が届けられました。映画『金の国 水の国』劇中歌の「優しい予感」「Brand New World」「Love Birds」に加え、3つの新曲が収録されています。今回は新曲にフォーカスして伺おうと思うのですが、最初に着手したのはリード曲となる「君に」ですか?
琴音:そうです。その後に「波と海」ができ、最後に「ライト」ができました。「ライト」はかなりギリギリ、3月の頭くらいに作り終えたので、(取材時点で)でき立てほやほやな感じですね(笑)。
――「君に」は「資生堂アネッサ ドラえもんデザインCM」楽曲になっていて。作詞・作曲は澤田かおりさんが手がけられています。
琴音:メロディラインが素敵ですよね。最初はCMサイズのものだけ上がってきて、あとからフルサイズとしてBメロがついたんですけど、それもすごく自分好みのメロディで心に刺さりました。CMの雰囲気にマッチしているのはもちろん、タイアップを抜きにしても本当に前向きな曲だと感じたので、それを自分なりに表現し、よりよい形にすることをいろいろと考えました。
――大切な人に寄り添う思いを綴った歌詞も素敵ですよね。恋人や家族、友達など、聴き手ごとに思い浮かべる対象が変わってきそう。
琴音:すごく共感できる詞だなと思いました。と同時に、澤田さんは私よりお姉さんなので、お姉さんに教わるかのような気持ちで歌詞を受け止めていた部分もありました。私自身が年齢を重ねることで、この歌詞はまた違った響き方をするのかもしれないです。
――レコーディングはどんな思いで臨みましたか。
琴音:この曲はまずCMサイズをレコーディングし、その後でフルサイズを録音しました。歌い込みという意味でも、曲の解釈を深めるという意味でも、時間をかけられたのはよかったです。最初にキーを決める段階から仮歌を何度も歌っていたりしたので、本番ではだいぶ慣れている感じが出ていたかもしれないです。
――ご自身としてはどんな歌声が刻めた実感がありますか?
琴音:『金の国 水の国』の劇中歌を歌わせていただいたとき、柔らかい歌い方の部分と歌い上げる部分での表現の差をEvanさんにすごく褒めていただけたんですよ。なので、改めてそこを自分の強みと認識し、より上手く使っていくことを意識しました。あとはボイストレーニングの先生に教わった、泣きの成分を入れる技をちょっと使った部分もありました。全体的に自分のやりたい表現はしっかりと出し切れた手応えはあります。
――歌詞で描かれているような大切な存在を思い浮かべながら歌ったところもありました?
琴音:今回は具体的な対象を思い浮かべる感じではなかったかもしれないです。爽やかな森の中に木漏れ日が差し込んでいるようなイメージを抱きながら歌いました。
――間奏のコーラスもすごくいい雰囲気ですよね。
琴音:ありがとうございます。間奏にコーラスを入れたいという話は、わりと早い段階からアレンジャーの中村圭作さんにお伝えしていました。これまでも声を重ねることで厚みを増していく手法は色々な曲でやっていたんですけど、それがこの曲にも合うんじゃないかなと思ったんですよね。コーラスのメロディは、現場で圭作さんと「こっちの方がいいかもね」みたいな話をしながら考えていきました。わりとアドリブな感じが出ているところかもしれないです。
――3曲目「波と海」の作曲・アレンジを手掛けた徳澤青弦さんが「君に」のストリングスアレンジもやられているんですよね。
琴音:今回は色々なタイプの曲が収録されているEPではあるんですけど、「君に」はしなやかなストリングスを青弦さんに入れていただいたことで、より素敵な仕上がりになったと思います。