Evan Call×琴音、映画『金の国 水の国』劇中歌を語り合う プロフェッショナルなアイデアを出し合いながら高めた表現性

Evan Call×琴音『金の国 水の国』対談

 1月27日公開のアニメ映画『金の国 水の国』にて、劇中歌を担当しているシンガーソングライターの琴音。「優しい予感」「Love Birds」の2曲では儚く優しい歌声を、1月11日に先行配信された「Brand New World」では壮麗で力強い歌声を披露している彼女だが、その作曲・編曲を担当しているのが、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』シリーズや『鎌倉殿の13人』など、話題の映画・ドラマ・アニメで劇伴を手がけたEvan Callである。そこで今回はEvan Callと琴音の対談を通して、公開を間近に控えた『金の国 水の国』の魅力を音楽面から紐解いていく。Evanが琴音の歌のどんなところに惹かれて作曲を進めたのか、琴音自身はどんな想いで初の劇中歌に臨んだのか。映画の内容にも思いを馳せながらじっくり読んでみてほしい。(編集部)

映画『金の国 水の国』本予告 2023年1月27日(金)公開

「琴音さんの歌い方を生かしてもらおうと思って作ったメロディ」(Evan Call)

ーー映画『金の国 水の国』劇中歌を琴音さんが歌唱するに至ったのはどんな経緯があったんですか?

Evan Call:今回、劇中歌が使われているシーンは元々、歌のない劇伴として音楽を当てていたのですが、映画のプロデューサーから「ここは歌にしたほうがより心を震わせられるんじゃないか」というアイデアをもらったんです。では誰に歌っていただこうかという流れになり、たくさんの候補の方の音源が僕の元にも届いたのですが、その中にあった琴音さんの曲を聴いた瞬間に「この方しかいない!」と思ったんですよね。それをスタッフの方々に伝えたところ、「やっぱりそうですよね」とみなさんおっしゃっていて。本当に満場一致でした。

琴音:お話をいただいたときは本当に嬉しかったです。Evanさんはもちろん、関係者のみなさんまでもが私の歌をいいと言ってくださったことがもうありがたすぎるなって。自分のことをそこまで求めていただける現場はなかなかないと思うので、とにかく真っ直ぐな気持ちで臨もうと決めました。お話をいただいた段階ではまだ曲の雰囲気もわからなかったし、どんな風に歌うかのイメージもできていなかったので不安はもちろんありましたけど、それ以上に期待の方が大きかったです。

ーー琴音さんを抜擢した決め手はどこにあったんでしょうか?

Evan Call:声自体の良さはもちろんなんですが、使い方がすごく多彩で、その一つひとつが聴いていて気持ちいいんですよ。グッと盛り上がった曲では情熱的な表情も見せてくれますし、逆にものすごく優しい声も使える。しかも単に優しいだけではなく、聴き手の心を動かす深みも感じさせてくれます。とにかく琴音さんの歌には魂がこもっていると感じたので、そういった素晴らしい魅力をぜひ今回の映画でも生かしてもらいたいなと思いました。

琴音:ありがとうございます。今回の現場はEvanさんを含め、私のモチベーションを上げてくださる方が本当にたくさんいらっしゃって。レコーディングで歌うたびにEvanさんは「素晴らしいです!」とおっしゃってくださるし、ブースから出ればスタッフの方も「すごくいいですね!」と言ってくださるし。「本当に大丈夫なのかな?」って変に勘繰りたくなってしまうくらい、ひたすらに持ち上げてくださるのがちょっとおもしろかったです(笑)。

Evan Call:あははは。でも本当のことしか言ってないですよ。みんなもちろん期待はしていましたが、実際レコーディングしてみたら期待以上の歌を披露してくれましたからね。私を含め、みんなが感動しすぎたんだと思います。

琴音:よかったです(笑)。あまり味わったことのない嬉しい体験になりました。

ーー今回、琴音さんが歌唱した劇中歌は「Love Birds」「優しい予感」「Brand New World」の3曲になります。

Evan Call

琴音:はい。「Love Birds」と「優しい予感」はあたたかくて優しい曲なんですけど、「Brand New World」は戦いのシーンで流れる情熱的な曲なので、その差を歌声でどう表現していくかっていうことを私はすごく意識しました。3曲とも自分が1人で歌うものなので、全部が一辺倒になってしまうとよくないですから。

Evan Call:「Love Birds」と「優しい予感」はシーンをサポートするための楽曲なので、歌が入るタイミングに関してもセリフとうまくバランスを取って作っているんです。逆に「Brand New World」は挿入歌としてのイメージなので、むしろシーンの中でもとても目立つことを想定しています。同じ劇中歌とは言え、そういう部分での役割の違いもありますからね。

琴音:なので私としてはレコーディングに臨む前に、事前準備はかなり徹底してやりました。各曲の歌い方についてのおおまかなイメージは伝えていただいていましたし、レコーディング現場ではディレクションをしていただける部分もあったんですけど、まずは自分自身に対してしっかりディレクションしておくことを大事にしたというか。フレーズやワード単位で歌い方を自分なりにきっちり詰めてからスタジオに入りましたね。

ーーそういったアプローチは普段の楽曲レコーディングとは違うものでしたか?

琴音:そうですね。今回は物語という軸があって、そこにより美しい形で寄り添うにはどうすればいいかという考え方だったので。事前に原作を読ませていただいたり、完成前の映像を観せていただき、キャラクターの動きやセリフをなんとなく把握することもできていたので、そこに関連づけて歌い方を考えることができたのもよかったかなと思います。私は普段から比較的、映像を記憶に残すことが得意だし、何かしらのイメージを持ちながら歌うことがあるので、そういう部分でのやりやすさもあったと思いますね。劇中歌を歌わせていただくのは初めてではありましたけど、迷路をかきわけていくような難しさはあまり感じなかったです。

Evan Call:劇中歌に関しては、琴音さんに歌っていただくことが決まってからメロディを作りましたからね。事前に聴いていたデモで印象に残った声質、歌い方を生かしてもらおうという狙いもあったんです。特に「Love Birds」と「優しい予感」で使ってもらったウィスパーボイスはどうしても入れたかった要素でした。

琴音

琴音:「この2曲はウィスパーで歌ってほしいです」ということは事前に伝えてもらっていました。曲の雰囲気的に私もウィスパーがピッタリだなと思ったので、基本的にはその通りに歌った感じです。ただ、劇中歌のデモをいただいたときに、自分的にキーがちょっと高いな/低いなと思う部分もあったので、そこはプリプロの段階で自分なりのキー調整を提案させてもらったりもしました。キーひとつとっても雰囲気は全然変わるものなので、そこもしっかり詰めた上でレコーディングに臨めたのはよかったなと思います。

Evan Call:どのキーが一番歌いやすいかという部分は私には判断できないですからね。そこをしっかり事前に提示してくれたのは本当に助かりました。その後にレコーディングをしたんですが、最初に軽く声出しみたいな感じで録ったテイクからもう素晴らしいんですよ。「これでもうOKなんじゃないかな」と思うくらい、最初からとても表現にこだわって歌っていることが伝わってきて。

琴音:とはいえ、現場では細かくディレクションをしていただいたんですけどね。

Evan Call:そうですね。映像に合わせる曲の場合、本当に微妙な表現の違いがプラスに作用することがあるので、そういう細かいことは言わせていただきました。単純に歌だけであればもう何も言うことはなかったのですが、劇中歌としてより素敵なものになるようなディレクションをさせてもらった感じです。

ーー「優しい予感」に入ってくる柔らかいハミングも印象的ですよね。

琴音:口の形を“あ”にするのか“お”にするのかで鳴り方が全然違ってくるので、ハミングはそこをすごく意識しました。楽譜には“ラララ”とか“ああ”とか書いてあったんですけど、自分なりに考えて、あえてちょっとそことは違う歌い方を提示してみたりもしました。結果、それが採用されたところもあるし、楽譜通りに歌ったところもあります。そういうやり取りを細かくできたことで、現場で一緒に作り上げている感覚を強く味わえたのも嬉しかったです。

Evan Call:琴音さんからは本当にいろんな部分に関して意見を言っていただきましたね。僕はその方が絶対にいいと思うんです。どう歌えばもっとも気持ちよく伝わるかは、琴音さん自身が一番理解しているはずですし、いろいろな提案をいただくことで私もまた知らなかったことを知ることができますから。作品によってはそういうやり方が合わない場合もありますが、今回は琴音さんのアイデアがたくさん加わったことで、作品の持つ優しさがより伝わる劇中歌になったのではないかと思います。

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