TOOBOE、原作純度100%の『往生際の意味を知れ!』主題歌 「錠剤」以降の制作における変化と挑戦

TOOBOE、原作純度100%の主題歌

 ビッグコミックスピリッツにて連載中の米代恭による人気漫画『往生際の意味を知れ!』がドラマ化され、3月7日からMBS・TBSドラマイズム枠で毎週放送されている。主人公・市松海路とその元カノ・日下部日和を中心に繰り広げられる「元カレ×元カノ狂気のやり直しラブストーリー」として話題沸騰中の本作。過激な描写も多く実写化は困難とされていただけに、今回のドラマ化には大きな注目が集まっている。このドラマの主題歌を担当しているのがTOOBOEだ。

 TOOBOEは昨年1stシングル『心臓』でメジャーデビューし、アニメ『チェンソーマン』(テレビ東京他)第4話エンディングテーマの「錠剤」が大ヒット中。最近では「チリソース」のMVにM-1王者マヂカルラブリーの野田クリスタルが出演し話題を呼んだのも記憶に新しい。

 今回TOOBOEが書き下ろした主題歌「往生際の意味を知れ!」は、タイトルをそのまま使い、作品のエッセンスをふんだんに歌詞に盛り込んだ「原作の純度100%」な曲だという。制作においては新しい試みも多く、TOOBOEとしては挑戦的な一曲だと言える。TOOBOEが作品をどのように楽曲に昇華したのか、原作の魅力や曲作りについて聞いた。(荻原梓)

原作の純度100%で書かせてもらった

TOOBOEインタビュー写真

――原作漫画は攻めた表現が魅力かと思いますが、TOOBOEさんは読んだ時にどんなことを感じましたか?

TOOBOE:最初に読んだ時はこんなにエグくなるとは思ってなくて。ぱっと見は繊細なタッチで描かれた美しい少女漫画なんですけど、中身はエグみがあるというそのギャップにまず惹かれました。それと僕はずっと“渇愛”というテーマが好きで「愛されてぇ」みたいな歌詞の曲をよく書いてるんですけど、この漫画も読み進めていくと、主人公だけじゃなく全員が誰かに「愛されたい」と渇望してるんですよね。そこにシンパシーを感じました。市松くんや日和さんだけでなく、市松くんの大学時代の後輩の榊田も市松くんを先輩として好きだし、日和さんの叔母の美智もそう。全員誰かに片想いしている。そのみんなが振り回されてる構造が好きで。そういう人間の感情が複雑に交差して、この作品の愛憎劇を生んでいるなと思いました。

――特に印象に残ってるシーンはありますか?

TOOBOE:日和さんの父親が実は監禁されてたんじゃないのかというのが少しずつ明らかになっていく話が好きで、何回も読んだ記憶があります。家の間取りに一つだけ不自然な空間があって、そこに隠し部屋があるんじゃないかと解き明かしてくんですけど、元々ああいう謎解き系のミステリー作品が大好きで、個人的にはあの辺りからぐいぐいと物語に引き込まれていきました。

――最初は純愛もののラブストーリーなのかと思って読み進めていくと、徐々にサスペンス色が濃くなってハラハラさせられるんですよね。日和を単純に可愛いなと思っていたのが、途中から目の前に現れただけでドキッとさせられるという……。

TOOBOE:怖いですよね。日和さんが出てくると本当に怖いんですよ。それがいいですよね。主人公の市松くんも別の方と結婚間近までいくじゃないですか。でもまた日和さんが現れて、それで市松くんは結婚も破棄して、結局日和さんの言いなりになってしまう。あの市松くんのみっともなさと言ったらないですよね。作中の登場人物も「もうやめといた方がいいんじゃないの?」って言ってますからね。でもやめない(笑)。だからこそ読者は彼に惹かれるのかなと。

――その主人公のみっともなさというのは、TOOBOEさんの作品に描かれる人物像にも通じるものがありますよね。

TOOBOE:そうですね。去年の「心臓」以降に作ってる曲はすべてそういったエッセンスが入ってるので、今回はすごく曲作りがしやすかったです。

――ドラマ化するにあたって、一番実写で観たいと思う場面はどこでしょうか?

TOOBOE:やっぱり一回目の市松くんの精子を提供するシーンは痺れましたね。ドラマのトレーラーでも一瞬映ってますけど、あの場面は早くドラマで観たいなと思ってます(取材日は放送開始前)。あとは日和さんの母親(日下部由紀)のあの恐ろしさをどれだけ再現できてるのかも気になります。トレーラーを観た感じだと日和さんのミステリアスさは再現されていると思ったので、母親(由紀)にも注目したいですね。

――さて、それではそんな期待のドラマの主題歌となった今回の新曲「往生際の意味を知れ!」について伺います。曲作りはどのようにアプローチしていったのでしょうか?

TOOBOE:大枠としては主人公の市松くんから日和さんに対する視点で書いていこうと思ってたんですけど、さっきも言ったように読んでいくと全員が同じように誰かに片想いしている作品だと思ったので、もっと総合的に原作の世界観を表現する楽曲にしたいなと思ったんです。それで原作から〈呪い〉とか〈復讐〉といったワードを拾っていって、曲もなるべく転調だったり、コンパクトで疾走感のある構成にして、次の展開が読めないように組みました。

TOOBOEインタビュー写真

――確かにこの曲は一見すると主人公の市松目線のようでいて、母親を恨む日和の視点で歌っているようにも思えますし、様々な立場で読むことができます。

TOOBOE:由紀のことが好きな美智も好きで、彼女の視点も裏テーマで入れたくて、2番に忍ばせたりもしてます。

――他にも歌詞には〈ドキュメンタリー〉や〈フィルム〉といった原作の要素がたくさん盛り込まれてますよね。

TOOBOE:お話をいただいた当初はスケジュール的にもタイトで、すでにあるストックから使えるものはないかなんて考えてたんですけど、原作のエネルギーが物凄かったので、やっぱり書き下ろさなきゃと思い直しました。でもそうしなければ拾えなかったワードがたくさんあったし、今となっては時間をかけて書き下ろしてよかったと思います。あと、この曲に原作タイトルをつけることを許可してくださったみなさんにも大感謝ですね。例えば仮タイトルで「復讐」とかも考えたんですよ。でも、この曲はもう原作の純度100%で書かせてもらったので、TOOBOEチーム的にもこれしかないとなりました。

TOOBOEインタビュー写真

――サウンド面はバンド然としつつ、ホーンセクションがいい味を出してますね。

TOOBOE:ホーンは曲がゴージャスになりますよね。それってシングル曲には絶対に必要な要素だと思うし、ホーンの音色は群像劇やお芝居のテーマに合うなと思っていたので、アニメや恋愛バラエティとかとはまた違った、僕なりのドラマ観をアウトプットしたくて。あとは単純に僕がファンクが好きっていうのもあります。

――冒頭のソリッドなギターも印象的です。

TOOBOE:あのギターは自分で弾いてます。曲によってはプロの方に弾いてもらったりもするんですけど、今回は家で録ったテイクのグルーヴ感が良かったので、それをそのまま使いました。音色については結構模索しましたね。あの特徴的なジャキジャキした音は、テクニカルな面を明かすと2つの音を重ねてるんですよ。

――同じギターを2本重ねたということですか?

TOOBOE:いえ、一つのギターの録音を同じ波形のままコピーして、一方を別の音色で差し替えるんです。そうすることで音に広がりが生まれつつ、尖ったところもちゃんと聴こえるようなバランスになって、音がここらへんで鳴るんですよ(眉間の前あたりを指す)。

――特有の刺すような鋭い音ですよね。今までそうしたテクニックは使ってましたか?

TOOBOE:使ったことないですね。ひずんではいるものの、そもそもここまでクリーンな音のギターを使ったこともなかったですし。今までは左右でギターをひずませて鳴らしてたんですけど、今回は新しくチャレンジしてみました。

――サウンド面以外でも今作はTOOBOEさんの新しい一面が多く表れてる気がします。例えば英語のフレーズがあるのは珍しいですよね。

TOOBOE:はじめてやりました。コーラスでイントロを埋める、みたいなのをやってみたかったんですよ。それで原作からエッセンスを引っ張ってきて、雰囲気が近い英語の一文を作ってみました。簡単に訳すと「蛾の香りがするあなたに恋をしました」という意味になります。なんとなく日和さんに“蛾”みたいな印象を持ってたんです。蝶に似てるんだけど、実は違う。

――そういえば原作には虫が所々で登場しますし、「蠱惑的」なんてセリフも出てきます。日和が喪服に着替えるシーンのあの描き方には個人的にゾクゾクとさせられましたが、確かにあれを見ると“蛾”のイメージにぴったりかもしれないですね。

TOOBOE:ですよね。美しさと不気味さが同居している、それが僕が日和さんに対して抱いてる印象なんです。

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