「紡ぐ」が話題のアーティスト・とた、ユニークな発想の秘密に迫る imase、なとり……同世代から受ける刺激も
とたの新たな挑戦、インスト曲がアルバムで果たした役割
――「薔薇の花」は、4曲目ではベッドルーム、そして12曲目ではバスルームとして、2つの表現でアルバム内で展開されています。やはりいずれも、とたさんの内面をさらけ出せる場所なのかなと思いました。バラを漢字表記にしていることにも意図がありそうですね。
とた:漢字表記は視覚的に感じるものが強いじゃないですか。ひらがなだったら優しいというか幼い感じにも見えるし、漢字の薔薇は綺麗なんだけど刺々しいということを意識しましたね。
――内面という意味では、ベッドルームアーティストらしさを曲で表現した「あしたてんき」は、とたさんにとってとても大事な曲ではないですか?
とた:サウンドもけっこうこだわって作っています。USインディーといいますか、浮遊感があるけど、ちょっと倦怠感もあるような。全部、ベッドルームで完結して制作した曲なんです。
――歌詞の〈小さなお城が唯一のテリトリー〉では、とたさんらしさが込められていますよね。
とた:私の昔の状況からさらに一部分を切り取って、この曲はできたかなと思っています。けっこうリアルなんですよ。
――自分の気持ちをさらけ出すのって、とてもセンシティブなことだと思うんですけど、音楽という表現の場を持ったことで成長した側面もあるんじゃないですか?
とた:今も完全にさらけ出せているかと聞かれたら、そうじゃない部分もあるのかもしれないですけど、やっぱり曲の中だったら自由に言いたいことを言えてしまうので。それに、自分がちょっと思っていたことでも、新しく主人公を立てることで、言いたい放題言えるので、吐き出す場所にはなっているかなと思います。
――インストの「通り雨」には、どのような想いがこめられていますか?
とた:「あしたてんき」の主人公がすごくネガティブで内に入ってしまっている感じだったので、アルバム自体の展開を考えたときに「もう少し希望を見れても良いんじゃないか」と思って。外に開けていけるようなサウンドを使って、爽やかなイメージにしました。
――そして、お話は少し前後しましたが7曲目は「一弦」。後半の導入となる位置に、この曲を置いたことは、大きな意味がありそうです。
とた:「一弦」から次の曲「せーかいせかい」へ、サウンドとしても曲のニュアンスとしても繋げられたらいいなと思っていました。
――「一弦」はギターという、とたさんにとって大切にしたいことを精神性を含めて重ね合わせて表現されました。
とた:そうですね。この曲を作ったとき、実際に弦が切れたんですよ。でも、弦が切れたからこそこの曲を手に入れることができたんだなと(笑)。
――続く、自問自答を繰り返す「せーかいせかい」も、ダブルミーニングを感じさせる曲となりました。とたさんの、エモーショナルなロックな側面を堪能できます。
とた:この曲は「こうかいのさき」と同時に制作していて。それぞれの曲の主人公の関係をさらっと歌えたらいいなと。歌詞の〈線がひとつ多いだけで〉というのは、「せーかいせかい」のタイトルもそうなんですけど、“せーかい”と“せかい”って線が一本多いだけでまったく違う意味になるじゃないですか。
――なるほどね。歌詞では、線を一本引くことで道が変わる、あみだくじにもなぞらえてました。
とた:いろんな意味を歌詞の“この線がひとつ多いだけで”に込めています。人生ってあみだくじみたいだなと思っていて。戻ることはできないんですけど、なにかきっかけがひとつあって、線が1本あるだけで、また元に戻れるというか、別の道に戻ってくることはできるなと。あみだくじのように道を変えることはいくらでもできるという、誰かの背中を押せる歌なんじゃないかなと思っています。
――正解か不正解かで決められないようなことでも、〈実を結ぶ日はくる〉という言葉もあり、悩んでいるときにパワーをくれる1曲なんですよね。これ、人生3周目ぐらいの人が持つ発想ですよ。すごいなあ。
とた:決断を迫られているときに聴いてくれたらいいなと思います。
――最初は「紡ぐ」という作品のイメージが強い、いわゆるギター弾き語りタイプのシンガーソングライターかと思っていたんですけど、飽き性がゆえかどんどん音楽的な幅の広がりを見せていますよね。
とた:ありがとうございます(笑)。そうなんですよね。すごく興味が分散しているので、いろんなことを体験、そして表現できる面で「飽き性でよかったのかも!」と思うことも増えました。どんな想いもクリエイティブに反映できるからいいのかなって。
――初期衝動と焦燥感を込めた「こうかいのさき」は、ギターロックとして疾走感あるナンバーで。
とた:サビの歌詞から書きはじめました。悔しいというネガティブな感情は「もっとこうしたい!」という向上心があるからこそ生まれるものだと思っていて。ネガティブな感情をポジティブに歌えたらいいなと思ったことがきっかけで、この曲の主人公は生まれました。
――明快だなあ。ここからサウンド面で「紡ぐ」へと見事に帰結していきますね。そしてインストの「ぬるくなったら」もアルバム『oidaki』の世界観として重要なキーワードを持つ、とたさんらしい1曲ですよね。「紡ぐ」の後に差し込まれていることに、意味を強く感じます。
とた:「ぬるくなったら」は、それこそ『oidaki』というアルバムのタイトルの説明でもお話させていただいたように、自分の音楽に対する熱量がいつか冷めても、もう1回このアルバムを聴いて追い炊きできたらいいな、という希望をこの1曲で表したいと考えて。そんな意味で「紡ぐ」の次に置いています。実は同じメロディが最初と最後にあるんですけど、最初が長調、明るい感じのイメージ、温かいイメージで。後ろは、マイナー調になって、ちょっと冷めちゃった感じを表現しました。そこから“追い炊き”して、また新しく一歩踏み出せるというイメージ。ラストの12曲目「薔薇の花 (in the bathroom)」へ繋がるコード進行にしてます。
――そうやって簡潔に語っていただけると作品への発見が半端なくありますね。見事、ご自分で最高の批評をしてくださいました。
とた:嬉しいです。やっぱりインストって、サウンドだけで伝えたいことがあるんです。これまで私は歌詞に頼ってきたので、それをサウンドでどうやって表現しようかと思ったときに、長調と短調の使い分けはわかりやすいなと。でも、それだけでは表現しきれないとも思ったので、歌詞カードではインスト曲にも詩を書き下ろして、意味を込めて言い表しています。
――とたさんのアルバム世界にハマった方は、ストリーミングでは詩は読めないのでCDを購入してブックレットに掲載された詩を大切に読んでほしいですね。そして、インストで作品を生み出すことも、とたさんのなかで大事な要素になってきているということですね。
とた:歌詞を大事にしたい、言葉を大事にしたいからこそ、言葉の意味を考える時間として、このアルバムにはインストをあえて入れました。自分はもともと歌詞を先に作ることが多かったので、新しい挑戦ではありました。
――実際にアルバムが完成して、通して聴いてみていかがでしたか?
とた:今回初めてCDアルバムを制作したので、どんな過程で作っているのか、実はまったく知らなかったんです。でも、紙ジャケや写真の使い方、ブックレットの編集、CD盤へのプリントなど、自由に作れるんだということが驚きでした。パッケージも紙ジャケでこだわりましたし、ジャケ写も『oidaki』というタイトルに合わせて、温度感を意識していて。サーモグラフィーみたいな色合いだったり、紙のジャケットの肌触りを大事にしたくて、紙ジャケならではのデザインになっています。あと、CD盤自体をレコードっぽいプリントにしていて。「こんなところもこだわって作れるんだ!」みたいな遊び心を加えて制作できたことは楽しかったですね。
――写真がまたいいですよね。
とた:そうなんですよ。垂水佳菜さんという方に撮影していただいて。私が好きな詩集があるんですけど、その詩集にも詩の横に合わせた写真が添えてあって。その影響を受けて、自分なりに表現できたことが嬉しかったですね。
料理は自分と向き合う新たな手段に
――こうやって、アーティスト活動をスタートして2年、初めてCDアルバム作品『oidaki』を完成させたことで、新しくやりたいことも広がったのではないですか?
とた:実際に見て楽しめる、聴いても楽しめる、読んでも楽しめるなんて、作ることって楽しいなとあらためて思いました。
――ちなみに最近、音楽以外だとどんなことに興味をお持ちですか? 以前お話した時は、サウナにハマったとおっしゃられていました。
とた:今日も「サウナ行きたいな!」とちょっと考えてました(笑)。考え事にもぴったりなんですよ。あと、最近は料理を始めました。料理をしている時間って無意識にもいろいろなことを考えられるんですよね。なので、自分と向き合う時間を作る新たな手段をもうひとつ見つけたなって。今後、もっと上達したいですね。
――料理は、音楽を作る手順に近いところもありますよね。
とた:調味料など、何で味付けするかで全然変わってきますもんね。普段の生活や制作するときもそうなんですけど、何気ない日常生活からの発見を大切にしたいですね。
――以前「ジブリ飯」の再現がバズったように、とたさんの作るごはんレシピも、もしかしたら音楽と結びつきそうで興味が湧きますね。
とた:最近は中華とカレーがめっちゃ好きで。去年くらいから、ナスがすごく好きになっちゃって。ナスを中華っぽい味付けで食べています。あ、そのうち「ナス」っていうタイトルの曲を作るかも(笑)。なにかやりたいですね。
――ははは(笑)。2023年、とたさんにとっての本格的なアーティスト活動がスタートしましたが、今年はどんな年にしていきたいですか?
とた:まだ1回もちゃんとライブをやったことがないので、実際に人前で歌うことを新しくやってみたいです。ライブやツアーはその次のステップだと思っていて。まだ先だと思いますが、実現したいですね。