imase、春野、なとり……ウィスパーボイスの歌声はなぜ人気? 現代に支持される傾向を考察
人の心を掴んで離さない歌声とは、どういったものだろうか。YouTube、Instagram、TikTok……誰でも手軽にコンテンツを発表できるプラットフォームが存在する現代では、日々様々なコンテンツが生まれている。音楽も同様に溢れかえる現代において、ここ数年で目覚ましい変化を遂げているものの一つが男性シンガーソングライターだ。
平成初期以前から活躍していたシンガーソングライターといえば尾崎豊、長渕剛、矢沢永吉などが思い浮かぶ。いずれも熱くソウルフルに、心の叫びを音楽に乗せたかのように歌い上げるのが特徴だ。そこから山崎まさよし、福山雅治などの柔らかくゆったりとした歌声を持つシンガーソングライターが登場した。
近年で言えば、藤井 風や優里などが挙げられるだろう。彼らはその類い稀なる歌声と才能でシーンを牽引する存在となった。キャッチーでポップな曲を、芯のある歌声で優しく歌い上げるのが特徴だ。
このように、時代によって人を魅了する歌声の特徴は異なっており、時々の流行や、時代にあった歌声がリスナーに選ばれていると言って良い。
そして今、とりわけTikTokから流行する楽曲における男性シンガーソングライターの歌声には新たな変化が起こっている。King Gnu、Official髭男dismなどのロックバンドと同様に、曲のキーがハイトーンになってきているのに加え、ウィスパーボイスが多用されるようになった。こういった変化が起こったのはどういう理由なのだろうか。今回はそんなウィスパーボイスを武器としている、今注目の男性シンガーソングライターを紹介しながら、その背景について考察したい。
このジャンルで外せないのが、imaseである。ハイトーンとウィスパーボイスを駆使した歌声は、まさに流行の最先端と言っても過言ではない。「NIGHT DANCER」は、正式に音源がリリースされていないにも関わらず、TikTokではあらゆるインフルエンサーに使用され、YouTubeのショート動画も7月現在で21万回再生を記録。その活躍はネット上のみに留まらず、PUNPEE、Toby Foxと制作した「Pale Rain」がポカリスエットのCMに起用されるなど、メインストリームへの階段を順調に駆け登っている。
続いて紹介するのは、独特な世界観を持つシンガーソングライター・春野。今年2月にリリースしたEP『25』では、yamaやシンガーポールのR&Bバンド・brb.とコラボを遂げ、存在感を示しつつある。自身の死生観や人生観と向き合って作られた音楽は、エモーショナルな気分にさせられる。力強く芯のある歌声を持つyamaも、春野とのコラボでは比較的ウィスパー寄りのボーカルで歌い上げているのが印象的だ。
「エモい」というよりは「ロマンチック」と評したくなるようなシンガーソングライター・なとりの、独特な色気を持つ低音ウィスパーボイスは一度聴いたら忘れられない。まだフル音源が公開されていない「猿芝居」のデモバージョンは、彼の才能が遺憾なく発揮されている。言葉遊びを含んだ歌詞、和風だが心地よいビート感のある曲調など、非常に中毒性のある楽曲である。TikTokではその歌声と才能を活かして確実にバズを狙いにきており、今後の活躍が非常に楽しみな一人だ。