the brilliant green、Superfly、竹内まりや……元TBS制作局長と振り返る、ドラマ主題歌から生まれた数々のヒット曲【評伝:伝説のA&Rマン 吉田敬 第1回】
そして、ワーナーミュージック・ジャパンに電撃移籍し、社長になってからも、敬さんと高田氏の友情は続く。ワーナーミュージック・ジャパン社長時代は、高田氏は制作局長に就任していた。本人曰く、あくまでも“サジェスチョン”という言い方をされていたが、僕の目には友情関係からの蜜月時代だったように見えた。外注ものから局制もののドラマ主題歌獲得が目立つようになっていく。
・金曜ドラマ『Around40~注文の多いオンナたち~』(2008年)…TBSテレビ制作、天海祐希主演/主題歌:竹内まりや「幸せのものさし」
・金曜ドラマ『エジソンの母』(2008年)… ドリマックス・テレビジョン、TBS制作、伊東美咲主演/主題歌:Superfly「愛をこめて花束を」
・日曜劇場『官僚たちの夏』 (2009年)…TBS制作、佐藤浩市主演/主題歌:コブクロ「STAY」
特にSuperflyはブレイク前、1stアルバム発売直前のこれ以上ない絶好のタイミングで、「愛をこめて花束を」が主題歌に起用される。この曲は今でも、結婚式に歌われるエバーグリーンな楽曲としてSuperflyの代名詞となっている。
そして、高田制作局長時代にユニークかつ斬新な試みが行われた。
・『恋うたドラマSP』 (2008年)
第1夜「カムフラージュ」(加藤ローサ主演)
第2夜「元気を出して」(伊東美咲主演)
第3夜「純愛ラプソディ」(財前直見主演)
「レコード会社をスポンサーとした営業案件として、(制作と営業の)間をつなぎました。制作体制を整えてからのつなぎだったのでスムーズに事は進んだようです」
竹内まりやのデビュー30周年を記念した初のコンプリートベストアルバム『Expressions』の盛り上げ施策として、同作に収録される3曲をモチーフとしたドラマを三夜連続でオンエアするという取り組みだ。深夜帯にも関わらず、大きな反響を得た。
映画『涙そうそう』(2006年)や『ハナミズキ』(2010年)、Netflixドラマ『First Love 初恋』(2022年)など楽曲をモチーフにしたドラマ作品は、これまでもいくつか作られてきているが、レコード会社主体でベスト盤の発売タイミングで意図的に局と組んでドラマを制作する試みはドラマタイアップを多数獲得してきた敬さんならではの発想であり独壇場だったと思う。この企画に手応えを感じた敬さんは、コブクロや絢香のリリースタイミングでも発展させ、実践していく。
・『夏うたドラマSP 幸せの贈り物』(2009年)
主題歌:「時の足音」コブクロ(榮倉奈々主演)
・『恋うたドラマSP』(2009年)
第1夜 絢香「三日月」×成海璃子
第2夜 絢香「三日月」×谷村美月
しかし、そんな日々もやがて終わりを告げることになる。
「いろんな葛藤があったんだろうけど、やっぱりワーナーのトップになってからのプレッシャーは大きかったんじゃないかな。この頃よく愚痴をこぼすようになっていた。弱音を吐かない彼としては珍しいことだった。病気の件は、直接は聞いていなかったが、共通の友人からそれとなく情報が入っていたので心配していた。プレッシャーには強いタイプだと思っていたのだが……」
敬さんが亡くなる前に、高田氏から「様子がおかしいから、気をつけるように」と言われたことを思い出す。直属で一番近かったはずの僕がなぜ気づけなかったのか、悔やんでも悔やみきれない。
亡くなった報告は僕から高田氏に連絡した。
「訃報を聞いて、気がついたら、会社近くの日枝神社に行っていた。そこでただひたすら呆然と立ち尽くしていたよ」
最後に、高田氏はこう語った。
「彼が活躍していた時代、テレビは大きな影響力を持っていて、色んなことにチャレンジできていた。今は家にテレビはなく、TVerなどのアプリで自分が見たいものを積極視聴しているような人も多い。そんな今だからこそ、彼ならどう動くのか。世間を見ながら、常に最短の道を模索していた彼だったら……今のテレビを使って、どう動き、どんなヒット曲作りに取り組んでいたかを見てみたかったな」
続く