藤巻亮太、出会いを通して実感した“音楽を作る意味” 曇り空の先にある光を歌う、前向きな心境を明かす

藤巻亮太が語る“音楽を作る意味”

 約5年ぶりとなるオリジナルアルバム『Sunshine』を1月25日にリリースした藤巻亮太。昨年迎えたソロ活動10周年という記念すべきタイミングで、音楽を始めた19歳の頃からレミオロメン時代、そしてソロとして歩んだ歳月における様々な変化を肯定して明るい未来へと導くような、そんな祝福のメロディがバンドサウンドで鳴らされた作品である。さらに2月26日には配信シングル「朝焼けの向こう」もリリースされ、節目を迎えての新たな幕開けを感じさせる壮大かつ力強い1曲に仕上がっている。「3月9日」や「粉雪」などバンド時代の曲も今もなお愛され続けている中、ソロでもキャリアを重ねて精力的な活動を続ける彼の、音楽と向き合う際の変わらない想いや、環境が変わったからこそ生まれた新たな想いなど、真摯に語ってもらった。(上野三樹)

藤巻亮太 - 4th Album『Sunshine』-Trailer

「異なる価値観に触れる“揺れ幅”こそが尊い」

――4枚目のオリジナルアルバム『Sunshine』はソロ活動10周年を記念する作品としてリリースされたということですが、この10年の活動をどのように振り返りますか。

藤巻亮太(以下、藤巻):やっぱり応援してくださった方がいて続いた10年かなと思っています。レミオロメンの頃から数えるともうデビュー20年になるんですけど、10年、20年経つと人って変わりますよね。昔から応援してくれていた方が家庭を持ったり、学生だった方も働いていたり。なので今回、僕も含めてなんですけど、変わっていく部分をしっかりと前向きに肯定できる、そんな元気なアルバムになったらいいなという気持ちはありました。

――藤巻さんも音楽と向き合いながら、自分自身の変化を感じてきたということですか。

藤巻:そうですね。最初に曲を作った19歳の頃は10代特有の混沌とした気持ちがあって、自分で自分のこともわからないし、世界とどう接していいかもわからなくて不器用でした。だけど僕は音楽と出会って、音楽と向き合うことで、「あ、こういうことなのかな」って自分が世界と向き合う大事なヒントをもらったことがレミオロメンを始めるきっかけにもなりましたし、今は43歳になりましたけど、今でもそういうところはあると思っているんです。大人になるほどいろんな価値観に出会って得られるものもある反面、複雑化してくる部分もあって。この歳になって最終的に何が一番大事なんだろうって考えた時に、その価値観に惑わされて自分で自分を曇らせてしまっていた部分もあって、その向こうに19歳の頃と変わらない「音楽って楽しいな」「あいつのこと好きだな」とか、そういうシンプルで大事なものを見つけられた。それを「Sunshine」という曲で歌えたし、そういうアルバムになったなと思います。

――「Sunshine」は特にサビのフレーズがキャッチーで非常に藤巻さんらしいなと思うんですけど、そのメロディにご自身が励まされたりすることもありますか。

藤巻:ありますね。特に「Sunshine」はあまり自分では使ったことのないコード進行を発見できて。まあ、もともとあるものなんだと思いますけど(笑)。このメロディから見えてくる景色は初めてだなとか、経験値が上がってくる中で驚きや感動が薄れがちになっちゃうところもあるけど、それでも変わらない喜びってあるんだと信じられたんですよね。だから今、自分の中ですごく大事にしているのは人との出会いです。出会いによって異なる価値観に触れて、揺れる。その揺れ幅こそが尊いなと思っているんです。制作においてもタイアップのお話をいただいて、そこで出会った人やテーマとの間で揺れたりすることもそうですね。

藤巻亮太 - 「Sunshine」 MUSIC VIDEO

――今回のアルバムには「この道どんな道」「僕らの街」「まほろば」といったタイアップ曲も多数収録されていますが、制作で印象に残っている曲はどれですか。

藤巻:「まほろば」は「サントリー天然水 北アルプス」のテーマソングとして依頼をいただいたので、長野県の大町市に行って実際にお水を飲んで、水田を見て、お米を食べて書いていきましたし、その経験が水というものを考えるきっかけにもなりました。自分自身もそうなんですけど、この時代の中で便利で効率のいいものを求めがちじゃないですか。でもそれだけで幸せになっているとも言えなくて、実はその便利さや効率のよさに、追い立てられるように生きている人も多いかもしれない。だけど自然という自分がコントロールできない状況に身を置いた時に救われる部分ってあるんじゃないかなと思ったんです。どんなに便利さや効率を追い求めても、自然は自然のままそこにあるわけで。そこで謙虚な気持ちになってみた時に、日常の見え方が変わったり、追い立てられるような生き方を違う角度から見つめられたりしたので。そういう意味で「まほろば」の制作は印象に残っています。

藤巻亮太 - 「まほろば」 MUSIC VIDEO

――藤巻さんが生まれ育った山梨の自然が原風景としてあるからこそ、いろんな土地を訪れた時に自然に対するありがたみも感じられるのかもしれないですね。

藤巻:そうですね、やっぱり僕は山梨県の田舎で生まれたので、都会に憧れる気持ちもあったんですけど、自然の中で伸び伸び育ててもらった部分が自分の感性を強く作ってくれたんだと思います。何かを追い求めて、追い立てられるように生きることも時には大事かもしれないですけど、両手を広げて空気を深く吸い込んで生きていく部分もすごく大事な気がして。そういうことはたまに地元に帰ったりすると実感することがあります。

より深みを持って歌えるようになった“レミオロメン時代の1曲”

――「僕らの街」では、故郷へのノスタルジーではなく、そこで生きる人たちの気持ちが力強く描かれていますよね。

藤巻:この曲は「NEXCO中日本 中部横断道 新清水JCT〜富沢IC 開通」CMソングとして書かせていただいたんですけど、その関係者の方が「もし災害があって国道が通行止めになることがあっても、この道ができることでより安心してこの街で暮らせるんですよ」とおっしゃっていて、その言葉がすごくいいなと思って。この街に暮らして、この街を大事に想うってことから見えてくる人生ってある気がしたんです。例えば、そこで育んでもらった思い出とか、仲間との日々とか。そこから自分が未来へと繋いでいく縦の時間軸や、人々との横の繋がりだとか、そういうものが人生をかけがえのないものにしていく。その象徴が街であり、街に対して愛情を持てたら、人生がより尊いものになるのかなって思いながら書かせていただいた曲です。

藤巻亮太 「僕らの街」(Music Video Short.)

――「裸のOh Summer」は〈建前の笑顔の奥で冷めてる自分が嫌さ/本当はもっと熱く生きてたいのに〉〈もう一度行こう〉といった歌詞が印象的ですが、これは最近書かれた曲なんですか。

藤巻:この曲は実は10年くらい前、レミオロメンの活動休止前にデモテープとしてあった曲です。なのでアルバム収録曲の中では一番古いですね。当時書いた歌詞ですけど、今現在の自分も、新たな夢や希望に向かって歩き出して音を鳴らして行きたいと思っていて、今も共感している自分がいたので、歌いたいなと思ってアルバムに入れました。その歌詞の部分も、20代から30代にかけての感性かなと思うんですけど、そういう時期を経たからこそ、もう一度、音楽自体や、音楽で人と繋がれることの素晴らしさが自分の活力になっているということを、10年越しに信じられているんです。今の自分にも当てはまる歌詞だなと思いました。レミオロメンの頃は本当に周りの人に支えてもらっていたんだなっていうこと、それが全然当たり前じゃないんだってことがソロになってからわかったので、そういう意味では今の方がより深みを持ってこの曲を歌えるんじゃないかと感じています。

――今回のアルバム、初回限定盤DISC2には『ソロ10周年記念BEST』も収録されているということで節目の作品だと思いますが、ご自身にとって『Sunshine』はどんな1枚になりましたか。

藤巻:今は「どういうふうに生きたらいいんだろう」という想いを曇らせるような要素が多い時代だと思うんです。だけど曇った空の向こうには必ず太陽の光が降り注いでいるという希望は捨てたくないし、それを見つける努力は音楽でしていきたいなと思っていて。そういうものを自分なりに見つけられた12曲のアルバムだと思うので、そういう意味で前向きな作品ができたなと思っています。

――ちなみに最近でも『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS系)で「粉雪」を歌われたり、ドラマ『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)でも「粉雪」が使用されていたりと、時代を越える名曲を作ってこられたんだなと改めて思う機会が多いんですけど、ご自身ではいかがですか。

藤巻:ドラマで使っていただいているっていう話はたくさん聞きます(笑)。バカリズムさんが脚本を書かれてるんですよね、本当にありがたいです。「粉雪」はもう18年も前の曲なんですけど、「雪が降ってくると必ず歌いたくなります」と今も言ってくださる方がたくさんいたりして。曲を作った当時とは、僕も聴いてくださってる方も変わって、それぞれの人生を生きているけど、今こうして同じ時代を生きているという繋がりは忘れちゃいけないし、これからもそれを大事にしながら音楽を作っていきたいと思います。

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