藤巻亮太がライブに込めた濃密な音楽世界 ソロ活動5年間の集大成見せたツアー最終公演
藤巻亮太が最新アルバム『北極星』(2017年9月リリース)を伴った全国ツアー『藤巻亮太 Polestar Tour 2017』の最終公演を11月18日に東京・昭和女子大学 人見記念講堂で開催。2012年にソロ活動をスタートさせた藤巻はこの日、ソロアーティストとしての5年間を総括するようなステージを展開した。
オープニングはアルバム『北極星』の収録曲「go my way」。穏やかなギターのアルペジオと〈遠回りもしたけど 回り道もしたけど/ここまでの道のりが今の僕を作ってる〉という歌詞が広がり、会場はおおらかな空気で包まれる。
「ツアーファイナルへようこそ! 『北極星』というアルバムのツアーです。初めて生で聴く曲が多いと思いますが、音楽に身を委ねて。そして今日はソロになって初めてDVD収録が入ってます。楽しんでください!」という丁寧な挨拶の後は、心地よい高揚感に溢れた楽曲を次々と披露。レミオロメンのシングル曲「南風」が演奏されるとひときわ大きな歓声が上がり、観客は手を左右に振りながら盛り上がる。ニューアルバムの収録曲「紙飛行機」も印象に残った。“紙飛行機”という小さい存在と壮大なメロディを組み合わせ、〈夏の太陽 飛んでたいよ〉というフレーズにつなげるこの曲は、藤巻亮太のソングライティングの特徴が強く表れていると思う。
「レミオロメンからソロになって5年目ですが、いまがいちばん充実していると思ってます。始めた頃っていうのは上手くいかないことや大変なこともあって、ひたすらスタジオに通って曲作りをしていたんですけど全然曲もできなくて。それでも通っているといろんな発見があって、その時期にちょっとずつ積み上げたものが、いまの自分を助けてくれているような気がします」というMCのあとは、藤巻の色彩豊かな音楽性が感じられる楽曲が続く。ロマンティックな旋律とともに〈あの頃はバカすぎて/人の痛みも分からなかったよ〉という赤裸々な歌詞が広がる「優しい星」、オルタナティブなバンドサウンドが炸裂する「ハロー流星群」「かすみ草」。日常の何気ない風景と生々しいな感情を共存させた歌、そして、意外性に溢れたアイデアが反映されたアレンジ。ソロになってからの5年間で培ってきた藤巻の音楽世界がまっすぐに伝わってくる。
その後に演奏された「マスターキー」は、この日のライブの最初のハイライトだった。レミオロメンとして駆け抜けた20代を経て、ソロアーティストとして歩み始めた藤巻。そのなかで彼は、多くの人々と出会い、様々な価値観に触れたという。「上手くいかないことを誰かのせいにするのではなく、自分が変わることが大事。自分自身が目の前にある鍵穴のマスターキーになれたら、鍵を開けて次の世界に行ける」という言葉とともに披露された「マスターキー」は、この5年間の意識の変化を如実に示した楽曲と言えるだろう。
バンドメンバー(河野圭/Key、設楽博臣/Gt、御供信弘/Ba、玉田豊夢/Dr)を紹介、さらにアルバム『北極星』に参加したタブゾンビ(トランペット/SOIL&"PIMP"SESSIONS)と滝本尚志(トロンボーン/ザ・ショッキング)を呼び込むとライブは後半へ。解放感に溢れたホーンセクションが何気ない日々の素晴らしさを描いた「Have a nice day」を鮮やかに彩り、2ndアルバムのタイトル曲「日日是好日」につなぐ。さらに「魂をゆらせ」「心を繋げ」というラインを力強く響かせたアッパーチューン「ゆらせ」、“求めている人がいる限り歌いたい”という意思を込めた「花になれたら」を披露した後、レミオロメンのアンセムのひとつ「雨上がり」へ。日常と普遍をナチュラルに結びつける藤巻の楽曲が次々と放たれ、会場全体が大きな感動に包み込まれた。
本編終盤、アルバム『北極星』の中心とも言える「北極星」「Blue Jet」を残し、ここで藤巻は、改めてオーディエンスに向かって語りかける。2年前の夏に地元(山梨)に帰って、実家の近くの公民館に楽器を持ち込んで曲作りをしていたこと。窓を開けるとブドウ畑とモモ畑、甲府盆地、南アルプスなど、18年間育った景色があったこと。その街で起こったいちばん出来事はレミオロメンの2人に出会ったことで、二人の顔を思い出しながら曲を作ったことーー。「原点の景色を見た時に沸いてくる思いがありました。そんな思いを大事にしながら、また曲を作っていきたいと思います」という言葉とともに演奏された「北極星」には、藤巻亮太のこれまでの人生、そして、ソングライターとしての根源が濃密に込められていた。
レコーディングに前田啓介(Ba/レミオロメン)が参加した「Blue Jet」で本編は終了。アンコールでは「ツール・ド・東北」のために制作された「LIFE」、アルバム『北極星』の収録曲「Life is Wonderful」、さらにレミオロメンの代表曲「3月9日」を弾き語りで披露し、ライブはエンディングを迎えた。
5年間のソロ活動の集大成ともいえるステージを体現した藤巻亮太。30代後半を迎え、楽曲、ボーカルの両面でさらに深みを増している藤巻はこの後、どんな音楽を鳴らすのか?
その動向をしっかり注視したいと思う。
(文=森朋之/写真=高田 梓)