玉置浩二や秦 基博をルーツに持つSSW 小林柊矢、王道ポップスの次なる担い手に アルバム『柊』に感じる可能性
ブレイクのきっかけになった「ドライフラワー」のストリーミング累計回数が7億回を突破した優里、2年連続で『NHK紅白歌合戦』(NHK総合)に出場し話題を集めた藤井風、『王様ランキング』(フジテレビ“ノイタミナ” ほか)や『チェンソーマン』(テレビ東京系)など人気アニメをはじめ、放送中のドラマ『女神の教室〜リーガル青春白書〜』(フジテレビ系)主題歌「まぶた」など、多くのドラマ、CMの楽曲を手がけるVaundyと、近年の音楽シーンでは男性シンガーソングライターの躍進が目立つ。それぞれ歌声や音楽性などオリジナリティを発揮し、特に10代を中心にした若い世代から支持を集めているが、そうした中で待ち望まれているのが、世代を問わず楽しめる王道ポップスを歌うシンガーの登場である。
小林柊矢は、玉置浩二や秦 基博といったシンガーソングライターをルーツに持つ。聴く人を選ばないポップな音楽性、すっと耳に滑り込んでくる歌声。幼少期から16歳まで野球に取り組んできた真面目な性格ゆえか、彼の音楽はルーツに忠実、真っ直ぐに思いをぶつけてくる印象だ。
その歌声と音楽性は、人気音楽プロデューサーやアーティストの目にも止まり、メジャーデビュー曲「君のいない初めての冬」をはじめ、2ndシングル曲「レンズ」、1st EP『あの頃の自分に会えるなら』収録曲などの編曲とプロデュースをトオミヨウが手がけた。トオミヨウといえば、前述の玉置浩二や秦 基博をはじめ、ゆず、あいみょん、石崎ひゅーい、中島美嘉、YUKI、菅田将暉などの編曲・プロデュースで知られる。そのプロデュースワークで、アコースティックギター1本でも成立する小林柊矢の楽曲の魅力を最大限まで引き出した。
2月15日にリリースされた小林柊矢の1stアルバム『柊』にはトオミヨウのほか、シャ乱Qの編曲・プロデュースや松田聖子の代表曲「あなたに逢いたくて〜Missing You〜」の編曲、テレビ番組『世界遺産』(TBS系)のオープニングテーマ曲などを手がけた鳥山雄司。ポルノグラフィティをはじめ、いきものがかり、槇原敬之、平井堅など多くのアーティストをヒットに導いた立役者である本間昭光。JUJUやEXILE、湘南乃風、ナオト・インティライミ、CHEMISTRYなどのプロデュースを手がけるsoundbreakers。さらにKing & Princeの「I promise」を手がけたGRPといった、現在のポップスシーンを牽引する音楽プロデューサーたちが参加した。
アルバム『柊』は、鳥山雄司の作曲・編曲によるインストゥルメンタル曲で、春を待ち望む冬の朝を彷彿とさせる「はじまり」で始まる。リード曲で、ドラマ『今野敏サスペンス 機捜235×強行犯係 樋口顕』(テレビ東京)の主題歌でもある「愛がなきゃ」も同様に鳥山雄司が編曲・プロデュースを務めた。アルバム全体のテーマでもある、“愛”という根源的なテーマを歌った同曲は、軽快なドラムで始まり、それに続く〈WOW WOW〉というシンプルなコーラスが、楽曲へと一気に引きつける。多くの人が様々な不安を抱える現代。その不安に寄り添いながら、愛だけは忘れないでほしいとメッセージを伝える。スッと自然に耳に飛び込んでくるサビは、優しさと力強さを携えた歌声が、聴く者の胸の奥に何か沸々としたものを沸き立たせてくれるようだ。
本間昭光は、ドラマ『なにわの晩さん!~美味しい美味しい走り飯~』(ABCテレビ)主題歌「笑おう」などの編曲・プロデュースを手がけた。「笑おう」は〈「ねぇほら笑ってよ」〉という一節で始まる、優しく温かい楽曲。悲しいニュースばかりが流れる世の中だが、みんなが笑顔を忘れなければ、いつか一つになれる日が来る。だから笑おうと、スピーカーから呼びかけて来る。どこか民族的な音色で大陸的な雄大さを感じさせるイントロや、曲のラストで〈LaLaLa...〉と歌う子供たちの合唱は、楽曲の根底に込められた“世界平和”という願いに呼応した、粋な計らいだ。
年代もののバンドサウンドで大瀧詠一やナイアガラサウンドを彷彿とさせた、3rdシングル曲「白いワンピース」を手がけたsoundbreakersは、アルバムでは「Fm yokohama 84.7 Winter Campaign 2022『Hot Winter Magic』」キャンペーンソングの「スペシャル」や「矛盾」の編曲・プロデュースを担当。日常こそが特別であると歌い、寒い冬にこたつで二人、ぬくぬくしている幸せな情景が目に浮かぶ「スペシャル」。バラードの「矛盾」は、そんな二人の別れの悲しみを切なく歌い上げた。日に日に大きくなっていく喪失感、また戻って来てくれるんじゃないかとつい期待してしまう虚しさ。ふと我に返った時、押し寄せてくるのは絶望ばかり。