伊藤美来が今、リスナーに届けたい全肯定のメッセージ 6年間の歌手活動で芽生えた強い意志
私が作詞家になったら、歌い手さんに嫌われてしまうかも
ーーそこから2曲目「ユニットバス」へと続く構成で、このアルバムの世界観にスッと入っていくことができました。
伊藤:この頭2曲の流れは、私もとてもお気に入りです。「ユニットバス」は、「laid back」とはまた違う淡々とした感じといいますか。ゆったりとした2曲ではあるけど、歌い方も内容も全然違うところを楽しんでもらえたらと思います。
ーー今気付いたんですが、このアルバムって2曲ごとに楽曲のテイストが変化していきますよね。
伊藤:ああ、そうですね。きっとそれは、楽曲を集める前に既存曲のみで曲順をある程度組んで、そこから例えば「気づかない?気づきたくない?」の後ろにくる、良い流れを作る楽曲を発注したので、それも大きいのかなと思います。
ーー曲が進むにつれて熱量が少しずつ上がっていく流れですが、その熱が高すぎないのが心地よさにもつながっているんですよね。
伊藤:そうですね、基本的には無理強いはしない感じで(笑)。無理に上げはせず、サラッと聴いても心地よいぐらいの空気は大切にしました。
ーーアルバムは3曲目「気づかない?気づきたくない?」、4曲目「Oh my heart」とギアが少しずつ上がります。2曲ともダンサブルな作風ですが、特に「Oh my heart」は大人の雰囲気が強いのかなと。
伊藤:「Oh my heart」は芯が強い人間の歌で、客観的に見えるけど実は燃えている主人公がカッコいいなと思います。「気づかない?気づきたくない?」の次に来る曲と決まっていたからなのか、歌詞に英語も多いです(笑)。
ーー確かに言葉数の多い楽曲ですものね。「Oh my heart」は声を張り気味で歌っている印象が強いですが、レコーディングはいかがですか?
伊藤:強さとか引っ張っていく感じ、歌詞のイメージと音のカッコよさを意識して歌ってほしいとディレクションがありました。それと英詞の語尾の収め方とか、センスよく歌ってと(笑)。テンポの速い曲で言葉が詰まっているけど、歌が走るとカッコ悪くなるので、気持ちは後ろ気味に歌ってほしいとリクエストがあったので、地に足が着いた感じを最初から最後まで意識しました。
ーーそれもあって、曲から大人の余裕が伝わるのでしょうか。
伊藤:かもしれません。実際、歌詞も〈負けない〉とか〈どうしようもない時は笑ったら?〉とかカッコいいですし、〈世間のセオリーなんかいらない〉なんて自己肯定感満載ですから。憧れます(笑)。
ーーこういうダンスナンバーも、これまでなかったタイプですよね。
伊藤:ダンサブルな楽曲が欲しいと、スタッフの皆さんもずっとおっしゃっていて。それはおそらくライブを見据えてだと思うんですけど、「こういう挑戦をそろそろしてみてもいいのでは?」と作っていただいた楽曲でもあったので、ライブで歌うまでハラハラですね(笑)。
ーーそこから、このアルバムの肝になるであろう5曲目「Gift」、6曲目「100年前に会いましょう」へと続きます。まずは「Gift」について。この曲では伊藤さんが作詞を手がけています。
伊藤:「アルバムのリード曲を伊藤さんに作詞してもらいます」という話を楽曲が届く前から告げられていて、どんな曲が届くのか私も楽しみに待っていたんですけど、私がテーマとして挙げた“贈り物”や“ギフト”というキーワードを、スタッフさんがそのまま作家さんに伝えてくださって。そうしたらすごくポジティブでハッピーで、しかもストレートなジャズが届いたので、「わっ、これは頑張らなきゃ。いい曲だから歌うのが楽しみ。でも、歌詞を書くのは私だ!」といろんな感情が入り混じりました(笑)。歌詞を書くのはこれで6曲目なんですけど、ジャズ系の曲調に歌詞を書くのは初めてなので、すごく苦戦しました。
今回は書いては書き直し、また書いては「いや、違うなぁ」みたいなことを繰り返したので、フッと降りてきたというよりは頑張って生み出した感が強いです。せっかく書くんだったら私らしさや私が書く意味をもちろん出したいし、ネガティブな表現はひとつも出したくないし。聴いているだけで本当にハッピーになれて、曲が流れてきたら自然と体が動いちゃうみたいな楽しいサウンドに合うように、私が届けたい気持ちや私が貰えたらうれしい言葉、傷ついたときにどういう考えで次を頑張ろうとしているか、ということを思い出しながら書きました。
ーーポジティブなメッセージと、どこか夢見心地感を与えてくれるサウンドとの相性も抜群です。
伊藤:本当に楽曲の力が大きいです。だからこそ生まれた言葉たちでもあるので、ちょっと自己肯定感が下がっているときに聴いてもらったら、気持ちが軽くなるんじゃないかと思います。
ーーレコーディングはいかがでしたか?
伊藤:リズムとかアクセントの付け方も難しかったし、「なんでこの音符の中に私はこの文字を入れたんだろう」と歌いにくくて(笑)。書くことに必死で、あとで自分が歌うことを忘れてしまうんでしょうね。もし私が作詞家になったら、歌い手さんに嫌われてしまうかも(笑)。
ーー「Gift」はMVも制作されましたが、こちらもミュージカルを思わせる仕上がりですね。
伊藤:沼津にある結婚式場で撮ったんですけど、結婚式の見学に来た方も何組かいらっしゃったりして、終始幸せな雰囲気が漂っている場所でした。あの1カ所で撮影を終えたんですけど、どこを切り取っても映えスポットだったので、いろんなパターンが撮れたと思います。
ーー最後の最後、伊藤さんがひとり踊っている姿をカメラが遠くから捉える映像に、思わずクスッとしてしまいました。
伊藤:あれは〈好きなように 踊って〉のところを撮る予定で、文字どおり好きなように踊ってみたんです。私、エガちゃん(江頭2:50)が好きなんですけど、あれはエガちゃんダンスを全力で真似しているんです。なぜか本編では使われなかったという。
ーーああ、そう言われて今気付きました(笑)。
伊藤:まさか最後の最後に使われるとは思ってもみませんでした(笑)。