アイドルシーンで加速する人材の流動化 “前世持ち”メンバー加入のメリットとデメリット

経験者のメリットはライブや特典会でのノウハウが分かっていること

 「前世持ち」をグループに迎え入れるメリットはなんなのか。大阪を拠点に全国で活動しているアイドルグループ、The Patti、GREAT MONKEYSの2組のプロデュース担当者に取材をしたところ、「ファンがすでにいる点がまず大きいと思います」という答えが返ってきた。

 「前世持ち」は、これまでの活動のなかで自分を好いてくれたファンが多かれ、少なかれ存在する。ファン側からすれば「無条件に」というわけではないだろうが、それでも自分の推しが、再びアイドルとしてステージで輝こうとする姿は放っておけないはず。また、新しいグループの楽曲と方針、新しいプロデューサー、そしてなにより新しいメンバーのおかげもあって、それまで見たことがなかったような魅力が発揮される可能性もある。ファンとしてはやはりそういう姿を見逃すことはできないだろう。もちろんアイドルグループの運営的にも「すでにファンがいる」という部分は、集客、グッズ販売などの面において一定の売上が見込めることもあって、大きな強みとなる。

 次に同担当者が挙げるのが「ダンス、歌などパフォーマンス面もある程度はできる」ということ。これは前述した指原のコメントもあらわしているように、「前世持ち」は事前にその実力が把握できるため、現在のグループに足りないもの、もしくは新しいグループに必要なピースに当てはめることができる。ステージ上だけではなく、レッスンなどパフォーマンス面のほとんどにおいて慣れていることが多く、たとえば「アイドル未経験者」であれば本格的な活動までに半年以上かかるところも、2、3カ月でステージに立てる状態へ持って行けたりもする。「アイドル未経験者」が多い新規グループであれば、「前世持ち」が牽引役にもなれる。

 そしてなにより重要なのが、特典会などのノウハウが分かっているということ。同担当者も「アイドルは、ファンの方など人と接することが非常に多い仕事です。ライブだけではなく、グッズ販売、握手会ほかさまざまな特典会、イベントがあります。そこでの対応こそ、経験者、未経験者で大きな違いが出ます」と口にする。たしかに、アイドルのグッズ販売の定番であるチェキ撮影とそこでの短時間の会話などはテクニックが必要かもしれない(少なくとも筆者は、たった数十秒から1分ほどのなかで楽しい空間を成立させたり、人を引きつけたりするようなことなんて到底できない)。もちろん「アイドル未経験者」の不慣れさに新鮮味を感じるファンもいるが、「前世持ち」はやはり自分を好いてもらうようアピールするのが特段上手いのではないか。

デメリットもあるが、それでも重宝したくなる「前世持ち」

 メリットばかりだと思われる「前世持ち」。しかし、もちろんデメリットもある。

 なかでも、かつて所属していたグループの辞め方に何らかの問題があったケース。これは、新天地へ行ったとしてもファンに推し続けてもらうのは難しいだろう。またアイドル業界は決して広い世界ではないため、別のグループで活動を再開させたとき、「メンバー引き抜き」のあらぬ噂が立つなど、前所属事務所やグループとの関係性になんらかの影響が出ることもある。

 メリット、デメリットは当然ある。それでも運営側が「前世持ち」を重宝したくなるのは、グループに迎え入れたときに話題性が一定期間生まれるなど、いろいろな効果が見込めるからだ。なによりアイドル本人も心機一転、自分の夢や目標に向かっていけるのではないか。長く活動を続けるアイドルが増えている昨今、人材の流動化はシーンにおいて興味深い風潮だと言える。

※1:https://natalie.mu/music/news/483052

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