手嶌葵、初のライブ音源で総括する15年間の歩み 繊細さと強さが美しく共存したもう1つのベストアルバムに

手嶌葵、初のライブ盤で総括する15年

 手嶌葵のキャリア初となるライブアルバム『LIVE 2022 “Simple is best”』が2月22日にリリースされた。

 タイトルが示す通り本作は、2021年にデビュー15周年を迎えた彼女が同年リリースしたベストアルバム『Simple is best』を携え、その翌年まで1年にわたって開催したツアーの特別公演の模様を収録したもの。2枚組仕様で、Disc 1は2022年6月4日に東京オペラシティ コンサートホールで行われたピアノ&弦楽四重奏、Disc 2は1月14日に同会場で行われたピアノ、ギター、ベース、バイオリン、サックス、パーカッションという異なる編成のライブを収録している。

 なお、ミックスとマスタリングのエンジニアを務めているのは、マドンナやジャネット・ジャクソン、初期の宇多田ヒカル作品などを手掛け、グラミー賞受賞経験もあるGOH HOTODA。東京オペラシティという特別な空間に響き渡る、オーガニックな楽曲のアンサンブルや手嶌の歌声のアーティキュレーション、客席のリアクションなどを臨場感たっぷりに再現している。

 ベストアルバムを携えてのツアーということもあり、デビュー曲「テルーの唄」(2006年)はもちろん、「さよならの夏 〜コクリコ坂から〜」(2011年)や「明日への手紙」(2016年)、「ただいま」(2021年)などのシングル曲や、「瑠璃色の地球」(松田聖子のカバー/3度にわたって異なるCMで歌唱)、「風の谷のナウシカ」(安田成美のカバー/『Simple is best』収録)といったカバー曲まで満遍なく網羅。しかもDisc 1とDisc 2で楽曲がかぶらないよう配慮されており、それぞれ10曲ずつ、合計20の代表曲を堪能できる“もう一つのベストアルバム”的な内容にパッケージされているのも特徴だ。

 2008年にリリースされた3rdシングル曲「虹」で幕を開けるDisc 1は、前述したようにピアノ&弦楽四重奏というクラシカルな編成でアレンジされた楽曲が並ぶ。ピアノの伴奏に導かれ、手嶌の歌が流れ出すとその倍音をたっぷりと含んだ声質や、フレーズの一部のようにアンサンブルに溶け込むブレスが驚くほどクリアに再現されている。やがてゆっくりと滑り出すチェロのフレーズが、天から降り注ぐようなバイオリンとともに美しいメロディを引き立てると、「ここではないどこか」へと連れ出されるような感覚に誘われた。

 坂本龍一の「Merry Christmas Mr.Lawrence」を彷彿とさせるピアノのイントロから始まるのは、ヘンリー・マンシーニ作曲による名曲「Moon River」(映画『ティファニーで朝食を』劇中歌)。その珠玉のメロディを、1音ずつ確かめるように歌う手嶌のボーカルが胸を打つ。かと思えば「朝ごはんの歌」(2011年『コクリコ坂から歌集』収録)では、ほのぼのとした可愛らしいメロディを、リズミカルなピアノのバッキングに合わせて楽しそうに歌い、客席からは自然発生的なハンドクラップが鳴り響いた。

 『天国と地獄 〜サイコな2人〜』(TBS系)の主題歌となった7thシングル 「ただいま」をドラマティックに、大貫妙子が楽曲提供したボサノヴァ調の「ちょっとしたもの」(2014年『Ren'dez-vous』収録)をコケティッシュに歌うなど、楽曲ごとに表情を変えていく手嶌のボーカルも、音数を絞り込んだこの編成だからこそより近くに感じられるのが嬉しい。岡崎体育が提供したノスタルジックかつ幻想的なバラード曲「星明かりのトロイメライ」を経て、ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ系)の主題歌であり、彼女の代表曲の一つ「明日への手紙」でDisc 1は幕を閉じる。

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