ミームトーキョーの音楽にこれから出会う人へ グループの“MEME”が世代も国境も超えて支持される可能性

ミームトーキョーの音楽にこれから出会う人へ

 私は日本のアイドル/ガールズグループをほとんど知らない。十数年前にPerfumeをかじったあと、すぐK-POPへ行ってしまった。その後、長らくアイドルを「音楽ジャンルの一つ」と捉えていた。だがその程度の認識では理解できないことが多すぎる。「これはなんなんだ?」と思っていた時、友人が乃木坂46と櫻坂46を教えてくれた。恐る恐る踏み込んだそこには「推す尊さ」があった。まず人なんだ、と気づいた時、アイドルカルチャーの本質が見えてきた。

 とはいえ、日本のアイドルシーンはすでに成熟しきっていて、ニワカはどこから入っていいかわからない。そんな時に、ミームトーキョーというでんぱ組.incの妹分ユニットの1stアルバム『MEME TOKYO.』を聴いてみてほしいという、今回のオファーをいただいた。「俺なんかでいいのか?」という気持ちもあったが、それ以上に日本のグループについても知りたい好奇心が勝った。

 まず、ミームトーキョーのプロフィールを簡単に紹介したい。メンバーはMEW、RITO、SAE、 MITSUKI、NENEと韓国在住のSOLIの6人。2021年8月25日にトイズファクトリー内レーベルMEME TOKYOからメジャーデビューした。2月8日にリリースされる1stアルバムには、インディーズ時代も含めた全シングル曲に加え、新録2曲を含む15曲が収録される。

ミームトーキョーMEWソロカット
ミームトーキョーRITOソロカット
ミームトーキョーSAEソロカット
ミームトーキョーMITSUKIソロカット
ミームトーキョーNENEソロカット
ミームトーキョーSOLIソロカット
MEW
RITO
SAE
MITSUKI
NENE
SOLI
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MEW
RITO
SAE
MITSUKI
NENE
SOLI
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 個人的に特に印象的だったのは、ウ山あまねが作詞作曲し、phritzがアレンジした「メテオ蜃気楼」。この曲はかなりかっこいい。曲の頭はサルソウル的なピアノにBLACKPINKの「WHISTLE」を彷彿とさせるホイッスル音を織り交ぜ、生っぽく展開するのかと思わせるが、すぐにデジタルなビートが鳴り始める。そこから徐々にEDMっぽいカラフルなシンセが入り、テンションが上がると、一気にウワモノではなくビットクラッシュの効いたハイパーポップ的ビートで引っ張る。非常に複雑だが、パッと聴く分にはシンプルでまとまりがある。それこそPerfumeが好きな人、aespaが好きな人なんかにも引っかかるような気がする。

ミームトーキョー「メテオ蜃気楼」LIVE MOVIE (2023.1.20)

 サウンドもかっこいいし、個人的にはミームトーキョーというグループ名もヤバいと思った。私が「MEME(ミーム)」という単語を知ったのは、『メタルギア』シリーズを生み出したゲームクリエイター・小島秀夫の著書『創作する遺伝子―僕が愛したMEMEたち―』からだ。ちょうどリアルサウンドにも「MEME」に言及した記事があったので参照する。

 “MEMEとは、生物学的な遺伝子情報(GENE)に対して、文化を形成する情報の単位として提唱された。肉体の進化は遺伝子情報に組み込まれているが、文化のつながりや発展を刻むのが文化的遺伝子(MEME)という概念だ。”(※1)

ミームトーキョー「リバーズ・エンド」Music Video

 ミームトーキョーには文脈がある。例えば「リバーズ・エンド」を聴いて、私はすぐに岡崎京子の名作『リバーズ・エッジ』を連想した。おそらく神奈川、東京あたりの私立高校を舞台にしたこのマンガは、90年代のブルータルな空気感をナイーブな視点から描いた作品だ。あの頃、少なくともそのあたりの地域では中流階級の“普通の”家庭で育った10代が狂っていた。最近Netflixで公開された『池袋ウエストゲートパーク』も、あのノリは半分くらいノンフィクションである。

 別にレトリックで青春時代を美化したいのではない。おそらく現代のミームトーキョーのメンバーたちも、90年代に自分が感じていたような居心地の悪さを感じているのではないだろうか。鈍感さと無知が生み出す不寛容。だからあえて90年代の『リバーズ・エッジ』を参照したのではないかと感じた。これがミーム=文化的遺伝子である。

 ちなみにアイドルといえば、楽曲を作ってもらって、メンバーはただ歌っているだけという認識の人もいるようだが、私はそう考えてはいない。楽譜は音楽ではない。歌い、踊り、演奏する人間がいて、そこから鳴りはじめる。テーマやコンセプトを理解しないと聴き手の感情に訴えかける表現にはならない。私は『MEME TOKYO.』から作り手が音楽と真摯に向き合っていると感じた。

[字幕]meme tokyo.「アンチサジェスト」Music Video/meme tokyo.「안티 서제스트」MV/meme tokyo.「ANTISUGGEST」MV

 もうひとつのミームは、『リバーズ・エッジ』の世界線の延長線上にいる椎名林檎だ。意図的に椎名林檎に寄せた歌い上げがある。彼女は1999年に発表したシングル『本能』のジャケットで、ナース衣装で透明なガラスを殴り割った。世にはびこる無理解こそが透明なガラスで、あらゆる人々の“本能”を抑圧していたもの。それをぶち壊す姿勢を明示したから彼女はアイコンになった。

 ミームトーキョーには『リバーズ・エッジ』のナイーブさと同時に、マイノリティを包摂する椎名林檎の力強さも感じる。おそらくミームトーキョーは若い世代と同時に大人世代にも刺さるように思う。見え方は違っても、根本にある気持ちはいつの時代もそこまで変わらないからだ。また、その感覚は海をも越えるかもしれない。ミームトーキョーというコンテンツが世代や国境間の対話を促し、互いに感情を共有しあうきっかけになったら面白い。こうして文化の遺伝子が伝わり繋がっていく。

 このようにアイドルカルチャーはとにかくハイコンテクストで面白い。でも結局は人(メンバー)の魅力には敵わない。どんなに高尚なコンセプトを掲げたところで、人が人を好きになるというシンプルな感情が最強だ。この矛盾した構造に巻き込まれるのが楽しくて同時にツラい。これが「推す尊さ」だ。今のところNENEが気になっている。ライブ観てみたいな。きっと観たら全員好きになっちゃうんだろうな。

※1:https://realsound.jp/movie/2019/07/post-390400_3.html

ミームトーキョー「ブルーレター」LIVE MOVIE (2023.1.20)

■リリース情報
『MEME TOKYO.』
2023年2月8日(水)発売

初回生産限定盤
品番:TFCC-86891~86892
価格:¥3,300(税込)

通常盤
品番:TFCC-86893
価格:¥2,750(税込)

<Disc1>
01.メランコリックサーカス
02.レトロフューチャー
03.モラトリアムアクアリウム
04.リアリティ・ウォー
05.スーサイド ボーダレス
06.アンチサジェスト
07.THE STRUGGLE IS REAL
08.ROAR
09.ニュー・ポスト
10.アニモア
11.OVERNIGHT
12.Sweet Dream
13.リバーズ・エンド
14.メテオ蜃気楼
15.ブルーレター

<Disc2>
※初回限定豪華盤のみ付属
2022.7.31 結成3周年記念単独公演「三六東京」LIVE音源
01.メランコリックサーカス
02.レトロフューチャー
03.モラトリアムアクアリウム
04.リアリティ・ウォー
05.スーサイド ボーダレス
06.アンチサジェスト
07.THE STRUGGLE IS REAL
08.ROAR
09.ニュー・ポスト
10.アニモア
11.OVERNIGHT
12.Sweet Dream
13.リバーズ・エンド

https://tf.lnk.to/MEMETOKYO_AL
https://tf.lnk.to/MEMETOKYO

■リリースイベント
2月11日(土)17:30〜でんぱ組.inc&ミームトーキョー合同リリースイベント@カメイドクロック カメクロコート1F 屋内吹き抜けホール
2月12日(日)12:30〜@タワーレコード渋谷店 B1 CUTUP STUDIO
2月12日(日)18:00〜@ヴィレッジヴァンガード渋谷本店 B2F

公式HP:https://www.toysfactory.co.jp/artist/memetokyo/news/detail/5525

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