Homecomings 福富優樹&畳野彩加に聞く、新たな名曲「光の庭と魚の夢」の誕生 1年に渡り“花束”の言葉とともに届けた思い

 2021年に『Moving Days』でメジャーデビューした京都出身の4人組バンド、Homecomings。時期を同じくしてメンバー全員が東京へ引っ越して新しい生活が始まった。2022年は精力的にライブをこなしながら新曲も発表。バンドは常に動き続けてきたが、今年1月27日に発表された新曲「光の庭と魚の夢」は最近のライブの定番曲だ。初めてライブで披露してから1年間かけて育ててきたこの曲は、できた時から「バンドにとって大切な曲になる」という予感がしていたとか。今年でデビュー10周年という節目を迎えるなか、ようやく自分たちらしいサウンドが見えてきたと語る彼らが生み出した新たな名曲。その舞台裏を、メンバーの福富優樹(Gt)と畳野彩加(Vo/Gt)に聞いた。(村尾泰郎)

「ずっと残っていく曲を作りたい」という気持ちで作り始めた

ーー2022年は久しぶりのツアーがあったり、季節ごとにシングル(「アルペジオ」「i care」「Shadow Boxer」)を発表したりとHomecomingsは活発に活動してきました。振り返ってみて、バンドにとって去年はどんな1年でした?

福富優樹(以下、福富):季節ごとにシングルを出していくというのは、2021年の段階で計画していたことだったんです。あえて違ったタイプの曲を出していくことで、Homecomingsの真ん中にあるものが何かを考えるきっかけになりました。シングルのモードがどんどん変わっていったので、ライブも変わっていく。春のツアーは『Moving Days』の雰囲気を引きずっていたけど、1年かけて変化していったライブが年末の東名阪を回ったクアトロツアー『US / アス』で実を結びました。1年かけてバンドを見つめ直した感じがしますね。

畳野彩加(以下、畳野):季節ごとに新曲を配信で出すというのは今までやったことがなかったことで、その都度ライブをやることでお客さんから新たなリアクションを得ることができたのは新鮮でしたね。音楽制作とライブを交えながら活動できたので、すごく充実した1年でした。

Homecomings - アルペジオ(Official Music Video)
Homecomings - i care(Official Music Video)
Homecomings - Shadow Boxer(Official Music Video)

——音楽制作とライブを通じて改めてHomecomingsらしさを探求した?

福富:そうですね。Homecomingsって手札をいっぱい持っている気がして。いろんなタイプの曲を出すことで、自分たちにとっても、お客さんにとっても良いものは何だろうって考えたんです。ライブでお客さんの反応を見ていると、どの曲を聴きたいと思ってくれているのか、どんな演奏をするとびっくりするのかがわかりますからね。

——そんななか、新曲の「光の庭と魚の夢」は、ライブで披露されてからリリースされるまで1年という時間をかけました。何か特別な想いがあったのでしょうか。

福富:この曲は『Moving Days』のツアーが終わった時に作り始めたんですけど、その段階で自分たちにとって大切な曲になる、と思っていました。一昨年のクリスマスライブで初めてやった時も、お客さんの反応に手応えを感じたんです。なので、一昨年出すこともできたんですけど、リリースするタイミングを考えながら、じっくり作り上げていこうと。

畳野彩加

——「自分たちにとって大切な曲になる」と感じたのは直感的にそう思った?

福富:この曲は「ずっと残っていく曲を作りたい」という気持ちで作り始めたんです。例えばキリンジの「スウィートソウル」とか七尾旅人さんの「サーカスナイト」みたいに、後の時代にも聴き継がれていく曲。2030年代に入っても、20年代を代表する曲として残る曲を作りたい、と思ったんです。

——それはかなりの決意ですね! そう思うきっかけが何かあったのでしょうか?

福富:なんでやろ。「2000年代名曲ランキング」とか、そういうのを見てたのかな(笑)。『Moving Days』の制作中、「Here」という曲ができた時に手応えを感じて、その手応えを、ひとつの形にしておきたい、と思ったのは覚えています。

畳野:シンプルにメロディが良い曲、何気なく口ずさめるような曲を作りたいね、ということを当時2人で話していた気がしますね。シンプルでも曲が良ければ心に残るんじゃないかって。

福富:あと、『Moving Days』でソウルミュージックをやってみようと思っていたんです。それは、「Here」ができたことで良くも悪くも途中で終わってしまって。「Here」はHomecomingsがいちばん得意なこと、Homecomingsらしい要素が詰まった曲。エモやUSインディーの要素がギュッと詰まっている。そんな曲がレコーディングの途中で生まれたことでアルバム全体の方向性が変わっていって、最終的に『Moving Days』はソウルにそういった要素が混ざったアルバムになったんです。『Moving Days』を発表した後、アルバムで得たものを形にしたいと思って。ソウルに手を出しただけ、みたいな感じで次に行くよりは、アルバムで得た温度感とかコード感とかを、ちゃんと形にしておきたかったんですよね。

イメージした曲に近づけていく 普段とは異なる制作方法

福富優樹

——なるほど。「光の庭と魚の夢」は『Moving Days』で新たに得たものを結晶化させた曲でもあるんですね。どんな風に作っていったのでしょうか。

福富:これがいつもとはちょっと変わっていて。いつもは僕が歌詞を書いて、「こういう曲にしたいと思います」という青写真みたいなものを彩加さんに投げて、彩加さんが形にしてくれるんです。この曲に関しては、断片的な歌詞と僕が弾き語りしたものを彩加さんに送って、それをもとにして彩加さんが作ってくれた曲に、僕が歌詞を書くというやり方でした。いつもと違ったやり方にしたのは、自分の中にある程度、完成した曲のイメージがあったからだと思います。そのイメージを、彩加さんがさらに良い感じで返してくれたんです。

畳野:コード進行とかはほとんど変えていないんですけどね。

福富:メロディを付け加えたぐらい?

畳野:私はメロディを付けて、リズムと曲の雰囲気を作っていきました。歌詞の前半部分はもらった時にできていたので、そこにメロディを付けていったんです。いつもは、曲のイメージをもとにゼロから作ることが多いんですけど、今回は最初にしっかりした曲のビジョンがあって、そこに向けて曲を作っていく作業だったのでやりやすかったですね。

福富:いつも頭の中では「こういう曲になってほしい」というイメージがあるんですけど、歌詞を彩加さんに投げたら彩加さんの解釈で曲の雰囲気が変わる。それを修正する時もあれば、このままでいいじゃん、となる時もあるんです。今回は「こういう感じでいきたい!」というはっきりしたイメージがあったので、そこからブレないようにしたいと思っていました。だから、最初に弾き語りを送ったんだと思います。

——福富くんのビジョンが、畳野さんにしっかりと伝わったわけですね。

福富:彩加さんから最初に曲が戻ってきた段階で、すごく良かった。イメージにぴったりでした。

畳野:私が作曲する時って、コード進行を分析してイメージに合う曲に作っていくのではなく感覚的なんです。今回は最初からコード進行が明確だったことも大きいと思いますね。

福富:メンバーに曲を投げて、スタジオで初めて曲をやった時もすごく良くて、自然に曲の温度感や雰囲気を共有できていました。曲を作り上げていく過程で大きく変わったのはキーですね。

——どんな風に変えたのでしょう。

福富:最初の頃、ライブでは今より3つぐらいキーが下のバージョンでやっていたんです。でも、ライブでいろいろやったり、ライブ音源を聴き直したりするなかで、彩加さんの歌をもっと活かしたい、と思うようになってキーを上げました。もし、この曲を去年リリースしていたら、低いままで出していたと思います。最初のバージョンも良いんですけど、キーを上げたことでさらに外に向けて広がるような曲になりました。この曲を寝かしておいたのは、客観的に曲を見る時間が欲しかったからでもあるんですけど、それがうまくいったと思います。ここ1年くらいの間に彩加さんの歌や声というものをちゃんと考えようという思いが浮かんできて。その結果でもあるかと。

——福田穂那美さん(Ba)と石田成美さん(Dr)が生み出す心地良いグルーヴも曲にぴったりですね。

福富:なるちゃんが得意の曲調だったので、どんな風に叩くかはイメージできていました。ほなちゃんも彼女らしいベースで歌うところは歌っていて。2人が好きなものを知っているからこそ、2人に任せて大丈夫だと思っていました。

畳野:いつも大体、この2人(畳野と福富)が「こういうリズムを試しに入れてみよう」とか、思いついたアイデアをリズム隊の2人にやってもらったりするんですけど、この曲に関しては2人もアイデアを出してくれました。曲のなかでリズム隊がちょっと変わるところがあると思うんですけど、その辺は2人がスタジオで話し合って作っていたんだと思います。

——曲に4人のアイデアが反映されているんですね。「Shadow Boxer」ではヘヴィなギターが鳴り響いていましたが、今回のギターは繊細ですね。間奏部のギターソロも叙情的で美しい。

福富:ギターソロのところで転調する感じとかは最初からイメージにあって、そこに乗るギターも頭に浮かんでいました。普段はサンプリング的に曲を作ることが多いんですよ。こういうギターにこういうドラムを入れたら新しいんじゃないかってみんなに話をして、それぞれのパートをバラバラにやって後で組み合わせる。だから、メンバーに出来上がった曲のイメージが伝わらないままレコーディングすることもあるんですけど、この曲に関しては、そういうサンプリング的な作り方はせず、最初のイメージを膨らませていったので、レコーディングの時に悩んだりすることはなかったですね。

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