篠原涼子のイメージを変えた「恋しさと せつなさと 心強さと」のヒット 28年ぶり『紅白』を経て再び歌手活動にも意欲?

『みんなが聴いた平成ヒット曲』第9回
篠原涼子 with t.komuro『恋しさと せつなさと 心強さと』

篠原涼子は1990年代前半、アイドル&バラエティタレントだった

「うちの現場におるときはアホの涼子なんですよ。でも僕らの現場から一歩出たらすごいじゃないですか」

 1994年10月31日に放送された音楽番組『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ系)でMCの浜田雅功(ダウンタウン)は、ゲストの篠原涼子と小室哲哉にこのように話した。

 当時の篠原涼子はたしかにバラエティ色が非常に強かった。それはお笑い番組『ダウンタウンのごっつええ感じ』(フジテレビ系)での印象があまりに強すぎたからだ。番組内でのコントではとにかく体を張っていた。板尾創路をYOUと取り合う浮気コントでは下ネタまじりのセリフを言い放ったり、松本人志(ダウンタウン)演じる狂気的な料理家・キャシィ塚本から強烈な暴言を浴びせられ続けたり。

 2022年3月6日放送『行列のできる相談所』(日本テレビ系)に出演した際、同番組について「たくさんの方々にキスはされました。東野(幸治)さんもキスしましたし。数が多くてちょっと覚えていない」と振り返り、共演のフワちゃんも「ガンバレルーヤより体を張っていたんだね」と驚くほどだった。

 そういったバラエティタレントというイメージの一方で、アイドルグループの東京パフォーマンスドールのメンバーとしての顔もあった。正確に言うと『ダウンタウンのごっつええ感じ』は1991年12月スタートなので、1990年4月にデビューした東京パフォーマンスドールの方が篠原にとって「本業」だったのだ。東京パフォーマンスドールは1993年8月に日本武道館の2デイズ公演を成功させるなど、アイドルにとって「冬の時代」だったこの時期にサクセスストーリーを歩んだ。アイドルに詳しくない人でも「名前は聞いたことがある」と言われるほどだった。

楽曲ヒットの背景は『ストII』とのタイアップ

 人気アイドル、もしくはバラエティタレント。そんな篠原涼子像が一変したのが1994年7月、小室哲哉プロデュースでリリースした、篠原涼子 with t.komuro名義のシングル曲「恋しさと せつなさと 心強さと」である。

 同曲がなければ、極端な話だが篠原はその後、『アンフェア』シリーズ(フジテレビ系)の雪平夏見にも、『ハケンの品格』シリーズ(日本テレビ系)の大前春子にもなることはなかっただろう。篠原はあたらしい「篠原涼子」をそこで築きあげることができた(実際に東京パフォーマンスドールは1994年9月に卒業している)。

 「恋しさと せつなさと 心強さと」で篠原涼子像が変わった大きな理由は、ミュージックビデオである。暗めなトーンの映像のなか、青、赤、緑の幕の前で歌う篠原は、それまでテレビで見せていた笑った顔やかわいい表情を封印。大人っぽくてクールな部分を全面に出していた。当時の彼女の活動を知る者にとっては、その変貌ぶりに驚かされた……というより「持ち味が失われたんじゃないか」と戸惑いを覚えるほど。ちなみに筆者も「明るい篠原涼子」のファンだったので結構、ショックだった。オリコンチャートも1994年8月1日付の初登場は28位で出遅れ気味となった。

 ただ徐々に売り上げを伸ばし、最終的に200万枚超えの大ヒットを記録。大きな要因は、1994年8月公開のアニメーション映画『ストリートファイターII MOVIE』のタイアップ曲になったこと。実際に映画の封切りと足並みを揃えるように曲が売れ、8月22日付オリコンチャートで8位にランクイン、そして9月26日付で首位に躍りでた。

 映画のもとになった1991年発売の対戦格闘ゲーム『ストリートファイターII』(カプコン)は子どもから大人まで世代を問わず熱狂させ、爆発的なヒットを記録するなど社会現象に。その影響力は日本国内のみならず世界にまで及んだ。多くの少年たちは「昇龍拳」「波動拳」とゲーム内の技の真似をして遊んでいたし、友だちとの会話の多くも『ストII』のことだった。学校帰りや部活終わり、誰かの家に集まって夕飯の時間になるまでずっと『ストII』をしていた。授業中、机の下で技のコンボの指の動きをする同級生を見かけることもあった。

 映画『ストリートファイターII MOVIE』はスマッシュヒットを記録。しかも監督をつとめたのが、テレビアニメ『鉄腕アトム』の演出や作画監督などをつとめたほか、映画『銀河鉄道の夜』(1985年)やアニメ『タッチ』シリーズでもメガホンをとった杉井ギサブロー。筆者自身、鑑賞当時は中学生だったこともあって杉井監督のことを知らず、気に留めていなかった。のちのちになりそれが映画的に非常に意義深い作品であることを知った。

 篠原のタレントとしての話題性だけではなく、『ストII』効果もあって曲は大ヒットした。

篠原涼子 with t.komuro - 恋しさと せつなさと 心強さと

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