ももいろクローバーZやYOASOBIのサポートでも活躍 やまもとひかるが目指す、理想のベーシスト/アーティスト像
【連載:個として輝くサポートミュージシャン】やまもとひかる
ももいろクローバーZやYOASOBIのサポートとして活躍し、ソロアーティストとしては1月20日に初のワンマンライブを控えるベーシストのやまもとひかる。ももクロでは凄腕のミュージシャンに混ざって安定感のあるプレイで土台を支え、YOASOBIではエレキベースとシンセベースを駆使して打ち込みの音源を生演奏に変換する、その存在感は若手ベーシストの中でも際立ったものがある。また、ソロでは自ら歌も担当し、これまでキタニタツヤや眩暈SIRENから曲提供を受けつつ、ソロアーティストとしての個性を徐々に磨き上げつつある。これまでのキャリア、影響を受けたベーシスト、ソロとサポートの違いなど、幅広いテーマでのインタビューから、彼女のミュージシャンシップの高さが確かに伝わってきた。(金子厚武)
バンドメンバーを探すために始めた「弾いてみた」動画の投稿
――ひかるさんはもともとベースではなくピアノを5歳から中学までやられていたそうですね。やまもと:はい、10年くらい習っていたので、まだベース歴が追いついてないんです(笑)。いろんなコンクールに出たとかではないんですけど、小学校を卒業するまではずっとクラシックをやっていて、中学からはポピュラーピアノに転向して、コードネームを見て弾いたり、歌ものの伴奏をやったりしていました。
――お父さんがドラマーだったそうで、小さいころから音楽に触れることの多い環境だったわけですよね。
やまもと:そうですね。でもピアノを始めたきっかけは、お風呂のクルクル巻く蓋が鍵盤に似てると思って、それでピアノを弾く真似をずっとしていたらしくて(笑)。それを見た親が「ピアノやりたいなら習う?」って言ってくれたんです。
――ベースを弾き始めたのは中学生からだったということですが、どんなきっかけだったんですか?
やまもと:幼稚園の年長さんのときにサンタさんからベースをもらって(笑)、それでちょっと触ったことはあったんです。でもその後はずっとピアノがメインで、ベースはほとんど弾いてなかったんですけど、SCANDALのTOMOMIさんを見て、「ベーシストになりたいかも」と思って、そこから本格的にやり始めました。SCANDALは全員が主役というか、前3人が歌っていて、その絵がすごくかっこいいなと思って。バンドはボーカルが主役になりがちだけど、主役の一人としてベースを弾きながら歌うTOMOMIさんに惹かれたんです。
――ピアノからベースへの転向はスムーズに行きましたか?
やまもと:鍵盤を指板に置き換えれば「こういうことか」ってすぐにわかったので、わりとスムーズではあったと思います。
――最近だとギタリストのichikaくんももともとピアノをやっていたらしくて。
やまもと:へー、それであの自由自在なプレイが(笑)。
――あの両手でタッピングするプレイはピアノから来ているらしいです。TOMOMIさんきっかけだと最初から指弾きだったと思うんですけど、ピアノ出身だとピックより指の方が合ってたのかもしれないですね。
やまもと:たしかに、そうかもしれないですね。
――バンド活動もされていたんですか?
やまもと:はい。中2の8月くらいにベースを始めて、最初に組んだのはSCANDALのコピーバンドでした。その後に高校の軽音部で出会った子とバンドを組んで、それが解散しちゃったあとは「当方プロ志向」みたいな子たちと組んで、ガールズバンドをやってました。でも高校の卒業直前でそのバンドも解散しちゃって、専門に通おうかとも思ったんですけど、もう受験も終わっているタイミングで、急に宙ぶらりんになっちゃって……。
――そこから「弾いてみた」のカバー動画を投稿するようになった?
やまもと:そうですね。当時はまたバンドがやりたかったんですけど、とりあえず一人でも何かやらなきゃと思ってたときに、バンドでお世話になっていた事務所の方から「今は動画でメンバーを探す人も多いよ」と教えてもらったことがきっかけでした。
――動画はよく見ていたんですか?
やまもと:見たことはあったんですけど、基本的にはライブハウスに身を置いていたので、自分が上げるようになるとは思っていませんでした。当時はボーカルを探すために弾き語りのライブを観に行ったりしていたので、「弾いてみた」の動画は誰かを見つけたときに「こういう者です」って、自己紹介をするためのものというか、あくまでバンドをやるために始めた感じでしたね。
憧れるベーシストは、遊ぶように楽しみながら弾いてる人たち
――TOMOMIさんきっかけで本格的にベースを始めて、それ以降はどんなベーシストやジャンルから影響を受けましたか?
やまもと:自分の今のスタイルと直接関係あるかは置いておいて、ずっと好きで観たり聴いたりしてたのはUVERworldで。
――Twitterのアカウント名からも好きなのが伝わってきます(笑)。
やまもと:そうなんです。オタ活アカウントみたいな名前にしちゃって(笑)。でも本当にUVERworldはずっと大好きで、ライブを観に行っては、帰り道で「やっぱりバンドやりたいな」って思ってました。ベーシストで言うと……ウィル・リーとか。Incognitoのライブは来日したら観に行ったりしていました。
――そのあたりはお父さんの影響?
やまもと:そうですね。最近の人だとVulfpeckのジョー・ダートが大好きで、海外の人は日本のバンドマンともまた違うというか、暴れてパフォーマンスしながら弾くというよりも、遊ぶように、楽しみながら弾いてる人たちに惹かれるタイプですね。
――TOMOMIさんがリスペクトしているフリー(Red Hot Chili Peppers)はどうですか?
やまもと:ベーシストはみんなほぼほぼ通っていると思うし、私もコピーはしたことあるんですけど、ルーツかと言われるとそこまでではないかもしれないです。あ、でもチャド(・スミス)はかっこいいですよね(笑)。私ドラマーを観るのが好きなんです。「このベーシストが観たいからライブを観に行く」みたいなのはジョー・ダートくらいで、好きなドラマーを観に行くことの方が多かったりして。
――「この人とリズム隊を組むなら」みたいな目線で見るわけですか?
やまもと:そうなんですかね……ドラムっていう楽器を観るのがすごく好きなんです。その話を一回お父さんにしたら、お父さんはベースばっかり観てるらしくて。「ドラマーは全然興味ない」って言ってました(笑)。
――そこは親譲りなのかもしれないですね(笑)。「弾いてみた」で言うと、バカテクなベーシストとかもいると思うんですけど、そういう人を観たりもしてましたか?
やまもと:コンテンツとして面白いというか、ベース単体で映える曲を選んで、すごいことをしてる人を観るのも面白いんですけど、むしろバカテクなことをやりつつ「この人リズム感いい」みたいな人を観たときに「すげえ!」と思ったりします。良くも悪くも、バカテクって埋もれちゃうところがあるじゃないですか。
――基本的な技術の高さとは別だったりもしますよね。
やまもと:それはそれでひとつの面白い文化だなと思いつつ、私としては普通のバッキングでもかっこいいと思ってもらえるような人になりたいと思います。あ、「バカテク」で思い出したんですけど、私、日向秀和さんにはすごく影響を受けていて、ピック弾きを始めたのはひなっちさんがきっかけだし、自分の「弾いてみた」用の音作りのプリセットの名前は「ひかっち」です(笑)。ただ、ひなっちさんはいわゆる「バカテク」とも違うというか、いろんな難しいことをやったり、弾きまくったりもするけど、あくまでベーシストとしての基本的な技量の上でやられている印象があって、そこをすごくリスペクトしています。