香取慎吾に聞く、“新しい地図”を広げてからの5年 稲垣吾郎・草彅剛との心地よい距離感、この先に向けて芽生えた思い

香取慎吾、“新しい地図”を広げてからの5年

“香取慎吾プロデューサー”として見せたい、“香取慎吾の今”

香取慎吾(写真=梁瀬玉実)

――香取さん個人についてもお聞きしたくて。今回の個展ではおよそ200点の展示があって、初出展が約100点。これだけの作品をいつどうやって制作しているのだろうと思いました。

香取:実はそんなにたくさん描いている実感はないんですよ。最近は『週刊文春WOMAN』の表紙が季刊誌なので年4枚、「ヤンチェ_オンテンバール(JANTJE_ONTEMBAAR)」の絵が春夏・秋冬で年4枚、あとは「fukuske-chan(福助)」とか渋谷ヒカリエのロゴとかを合わせても10枚ぐらいか。そういうお仕事としての絵を描いてるときに、余った絵の具で自分の作品を描いているんです。仕事の休憩中にスマホゲームをやる、みたいな感覚。

――それは楽しいですね(笑)。

香取:ね、そういうの楽しいでしょ? そういう感じで描いているから、どんどん増えていく。お仕事で描くときに、本当は段ボールなんて敷かなくていいんだけど、最近はあえて周りにいっぱい敷いていて。その上に垂れた絵の具の感じがいいなと思ったら、そこに描き足していったり。一つの表紙を描くタイミングで、4枚ぐらい別の作品ができる感じ。

――本当に心のままに描かれているんですね。今回の個展では、その心の闇の部分も惜しみなく出されていますが、反響はいかがですか?

香取:SNSを見ていると「ズシンと来る」みたいに重く受け止めてくれている方が結構いましたね。きっと感想を書くのも重い感じがあったのか、闇を抜けた光の部分について書いてくれている人のほうが多かったかも。でも『スッキリ』(日本テレビ系)で加藤(浩次)さんが「闇を見せられるんだからアーティストだよ」と言ってくれたのはすごく嬉しかった。でも、自分の中では闇の部分を見せるってそんなに重い決断ではなかったんですよね。“香取慎吾の今”にはこれだった、という感覚で。

――必然的な流れだったと。

香取:はい。僕はいつも自分で“香取慎吾”をプロデュースしてきているんだけど、「これでいこう」といったものが大きく崩れてまたゼロから考える……ということはほとんどないんですよね。今回の『WHO AM I』についても、いろんな顔を持つ自分に対して“俺って誰なんだ? WHO AM I……”という感じでワードが浮かんできて。気になった言葉はいつもスマホに書き溜めてるんですけど、そんなふうに常に頭の片隅で練っているアイデアを「これでいきたい」って出したら、周りも「いいんじゃない?」ってトントン拍子に決まっていくことばかりで。あまり迷ったりはしないんです。ただ、あの“くろうさぎ”が生まれた、最初のスケッチブックは最後の最後まで展示するかどうかは迷いましたけど(苦笑)。

――スケッチブックの展示に至るまで、どんな経緯があったのかお聞きしてもいいですか?

香取:僕の絵を管理してくれているというか、一番把握してくれている人たちがいるんですよ。彼らが倉庫から見つけてきちゃったの。「これどうしますか?」って。“ほぉ! それを持ってきたか!”と思って「そうだねぇ。ちょっと見てみる?」って1回ページをめくってみたんだけど、「これ、どう!?」って自分でもちょっと迷って(笑)。そのときにはもう、闇と光でエリア分けをして、くろうさぎをフィーチャーしたいから立体を作って、闇のエリアにもポツポツ置いたらかわいいだろうって話も進んでいたんですよ。でも、このスケッチブックに描かれているくろうさぎは闇すぎるかな、とも思って。他の人たちにも見せたら「やめたほうがいい」とは言わないけれど、若干揺れているような空気もちょっと感じながら、「よし、これをみなさんに見てもらおう!」と。

――あのスケッチブックが、最初に描いたくろうさぎですか?

香取:そのへんの時系列は、ちょっと曖昧で。でも、闇のエリアに入ってすぐにある細長い絵とスケッチブック、それから光のエリアに出るときに見える木に開けられた穴からくろうさぎが覗いている作品は、だいたい同じ時期に生まれたものです。

――その時期に、くろうさぎが“見えた”のが描き始めたきっかけでしたよね?

香取:そう。家でテレビを見ていたら気配を感じて。虫がいるときのような違和感というか。パッと視線を移したら、40センチくらいのくろうさぎがいて。今回、闇のエリアに配置してあるオブジェは僕が見たくろうさぎの実際の大きさです。見ようとするとソファの裏にササッと隠れるみたいなことを繰り返していて。

――見えるようになった心当たりはあるんですか?

香取:全くなく。あまりにも見える機会が増えていったからちょっと怖くもなっていて。でも、そのうち「また見たら隠れるんでしょう?」「はい、隠れたー!」「もうなんなの?」って感じで見えることにも慣れていったんですよね。

――そして描いたら見えなくなったと?

香取:スケッチブックを見ていただけたらわかると思うんですけど、そのころはネガティブな言葉と一緒にくろうさぎが描かれているんですよ。“くろうさぎをキャラクターにしちゃおう!”なんていう気分じゃなくて。気分が落ちてて、下を向いているときに、見えていた目の前のくろうさぎを自然に描いた、そんな感じだったと思います。

――その書き添えられたネガティブなワードたちを見ていて「そういえば香取さんがそういう言葉を言うところを見たことがないな」と改めて思いました。くろうさぎが代わりに言ってくれている、ということでしょうか。

香取:きっとそうなんだと思います。自分で、あのスケッチブックを見返したときに「上なんか向いていられない」っていう言葉が一番引っかかるというか、刺さって。“香取慎吾プロデューサー”としては、香取慎吾が絶対に言わない言葉だと思って。

――そういう言葉は、“香取慎吾”には言わせたくないですか?

香取:言わせたくないですね。影響力があるから……影響力があるんです、彼(笑)。

――ご自身を客観視しているこの状況が、まさに『WHO AM I』ですね(笑)。

香取:本当にそうですね(笑)。でも、厳密には“香取慎吾”の中にも細かく分類があって。その大きな部分に“慎吾ちゃん”があるんですよね。もう40年近く知っている、みなさんの中の“慎吾ちゃん”という歴史があるからこそ、きっといろんなことを受け止めてもらえるし、僕もぶつけられている。この個展は、そういう意味で“香取慎吾の今”だったんじゃないかと思うんです。

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