SZA&リトル・シムズ、ヒップホップ/R&Bを代表する2人の新作を考察 メンタルヘルスなどの真実を吐露した共通項も
12月9日に5年ぶりのアルバム『SOS』をリリースしたSZAと、12月12日にアルバム『NO THANK YOU』をリリースしたリトル・シムズ。グラミー受賞アーティストであるSZAと、マーキュリー賞とブリット・アワード受賞アーティストであるリトル・シムズは現代を代表するヒップホップ/R&Bアーティストと言えるだろう。シーンを代表するアーティストたちであるが、境遇が全く異なる2人の作品が近いタイミングでリリースされたので、今回はその2作品を取り上げたい。
人生の醜い部分も形にしたSZA
2017年にリリースされた1stアルバム『Ctrl』が高い評価を獲得し、ケンドリック・ラマーとコラボした映画『ブラックパンサー』主題歌「All The Stars」はアカデミー賞最優秀オリジナル曲賞にノミネート。ドージャ・キャットとのコラボ「Kiss Me More feat.SZA」ではグラミー賞の最優秀ポップ・グループ/デュオ・パフォーマンス賞を受賞し、5年間アルバムをリリースしていない間も第一線で活躍していたSZA。彼女はTwitterにて、所属レーベル<TOP DAWG ENTERTAINMENT>によってアルバムのリリースを妨げられていると今までに何度か投稿してきたが、12月9日についに待望の新アルバム『SOS』がリリースされた。
同作のアルバムジャケットは、亡くなる1週間前に撮影されたダイアナ妃の写真にオマージュを捧げており、SZAはその写真から伝わる「孤立」を表現したかったと明かしている(※1)。R&B、ポップス、フォーク、インディーロック、そして『Ctrl』以前のエクスペリメンタルなエレクトロニカをパレットの上で混ぜ合わせたようなサウンドのアルバムであるが、前作以上にパーソナルな内容となっている。
タイトルトラック「SOS」で「けちな文句を置いておいて、くだらないことは置いておいて、私が得るべきものが欲しいだけ」(※2)と歌うように、このアルバムは人生、人間関係、そして愛の綺麗な部分だけではなく、醜い部分も赤裸々に語っている。心のなかで渦巻く様々な感情や、メンタルに悪影響を及ぼしてしまうような考えを多くの人が共感できる形でアウトプットしている作品である。
「Kill Bill」では“良くない考え”だとわかっていながらも、「私は不機嫌だったけど、私はまだあなたのファン/他の女と幸せになっているあなたを見たくない」「私は大人になった/他にも男がいるって言ってくれるセラピストを雇った/他の男なんていらない、あなたが欲しいだけ」「元カレを殺害するかもしれない/悪いアイデアなのはわかっている/その次は彼の新しい彼女、どうしてこうなってしまったんだろう/元カレを殺害するかもしれない、まだ愛しているけど/独りでいるより刑務所にいたほうがマシ」(※3)といった欲望を歌っている。
ポップパンクのようなサウンドの「F2F」では、「あなたがいなくて寂しいから浮気をする」という旨を歌っており、驚くほど赤裸々に感情を吐露していることが伝わってくる。「Gone Girl」では、自身のパートナーに「あなたのタッチが必要であって、監視されたいわけじゃない」「強く掴みすぎるとあなたは私を失うことになる」と警告している。
リリックのインパクトだけではなく、トラックもクオリティが非常に高く、メロディも今まで以上にキャッチーになった『SOS』は、リリース初週で31万枚相当のセールスを達成し、Billboard 200で1位に輝いた(※4)。レーベルメイトであったケンドリック・ラマーの『Mr. Morale and The Big Steppers』の初週セールス(29万枚)を超しており、前作『Ctrl』の初週6万枚を考えると、いかに新アルバムが期待されていたかがわかる。