MUCC ミヤに聞く、16thアルバムから続編『新世界 別巻』が生まれるまで 結成25周年を経ても変わらぬ音楽への欲求

 今年、結成25周年を迎えたMUCC。それを記念し、2023年もアルバム再現ツアーや声出し解禁ライブなど様々な企画が予定されているが、今回リアルサウンドでは12月21日にリリースされたミニアルバム『新世界 別巻』についてミヤ(Gt)に話を聞いた。6月にリリースされた16thアルバム『新世界』の続編的作品となる同作が生まれた経緯はもちろん、結成25周年を経た現在の音楽との向き合い方なども語ってくれた。(編集部)

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変わらないのは、そのときに思っていることしか歌っていないこと

ーー取材している12月上旬現在、過去アルバム再現ツアー第一弾『MUCC 25th Anniversary TOUR「Timeless」〜是空・朽木の灯〜』の真っ最中です。25周年記念企画として始まったツアーですが、今回の軸となる『是空』と『朽木の灯』の楽曲たちと改めて対峙して、どんなことを感じていますか?

ミヤ:20周年のときも企画で過去の曲を演奏したりしたんですけど、今回初めてアルバム単位でしっかりツアーをやるということで、当時のほとんどの楽曲をやるぐらいの勢いで。今までの中で一番、当時の楽曲とちゃんと向き合っている感じではありますね。

ーー向き合ったとき、20年近く前の楽曲たちはどういうふうに映りました?

ミヤ:当時を完全再現しようってコンセプトでもないんですよ。むしろ、今のMUCCでどう表現できるか。思っている以上に当時の楽曲や歌詞の世界観が強くて、最初はじゃじゃ馬な感じでしたね。扱いづらいなって感じもあって(笑)。

ーーインディーズのころからMUCCは曲の世界観も含めて、相当、アクの強いバンドでしたからね(笑)。若い頃の自分たちにある種のパワーも感じたんじゃないかと。

ミヤ:はい。あと当時はよく分からなかったけど、こういう表現をしたかったんだなとか、こんな音楽を作り出したかったんだろうなって、今になって分かる部分もあって。ライブの本数を重ねて、自分の身体にバランス良く馴染んできたぐらいから、より楽しめるようになってきましたね。

ーーライブ後にメンバーと当時の話をする機会なども?

ミヤ:当時の解釈だとよく分からなかったけど、こういうことだったんだね、みたいな。そんな会話はありましたね。あと当時はバンドを長くやっている幼馴染同士で、何となく演奏できちゃう部分も多かったんです。今はメンバーも代わっているので、ツアーが始まるまでが本当に大変でしたね。「ここってどういう解釈のフレーズですか?」って質問も投げかけられて。

ーー冷静かつ客観的な質問が?

ミヤ:そう。解析していかないと、よく分からないところが自分的にもけっこうあって。そこを構築し直していきました。テンポも激しく上がったり下がったりする時代だったんで。サポートドラマーとそういった部分のすり合わせもして、ツアーをしながらアップデートしていった部分もあります。

ーー改めて曲の細部まで咀嚼する感じだったんですね。

ミヤ:最初はそうでした。あと入り込みすぎちゃって、ツアーの最初のうちは、客席をしっかり見た記憶もなくて。でも振り返ってみれば、当時もそうだったかなって。

ーー約20年前の自分たちの音楽の世界を再訪するのは、自分たちの軸足を再確認する意味でも大事なことではないかと思うんですよ。

ミヤ:当時は何も考えないでやっていたけど、これはこれでカッコいいよねって。ある意味、リフレッシュするいい機会にもなったかな。バンドの体制が変わって走り始めたばかりだし、そのタイミングで過去を振り返るのは良かったなと思います。ボーカルの逹瑯は、自分の今の気分で当時の曲を歌ったらどういう表情になるのかを、模索しながらやっていたみたいで。メンバーそれぞれ向き合い方は違ったと思うんですよ。ツアー後半に差し掛かった今は、メンバーそれぞれ、すごく楽しんでますね。ただ多感な時期に聴いていた音楽を、大人になってまた聴く。やる側も成長していれば、聴く側も成長している。似ている部分もあれば、違う部分もあるっていう。音楽の楽しみ方としては、けっこう究極かなと。

ーーそんな最中に制作したのがミニアルバム『新世界 別巻』です。今年6月にリリースした『新世界』の続編的な作品ということですが、まず『新世界』におけるポイントがいくつかありましたね。バンドが新体制になったことで、作曲で自分自身のリミッターを外したと。一気に15曲ぐらいできて、当初は2枚組にすることも考えていたということでした。あのときに使われなかった楽曲が『新世界 別巻』の軸になっているんですか?

MUCC『新世界 別巻』Trailer映像

ミヤ:ミニアルバムとしてアウトテイク集みたいな感じで出そうってアイデアから始まったんですよ。でもミニアルバムといってもひとつの作品と捉えたとき、『新世界』のツアーが終わった後、この作品を改めてイメージして、曲を作ったらいいんじゃないかとなりまして。だから半分は『新世界』のアウトテイクで、半分は書き下ろし曲です。書き下ろしたのは「猿轡」と「別世界」と「I wanna kiss」。「空-ku-」は『新世界』とほぼ同じタイミングで作っていたので、アウトテイクと書き下ろしの中間のタイミングに位置する曲。もともと「空-ku-」は、再現ツアーを始めるとき、今のMUCCが20年前当時の曲調をイメージして曲を作って、会場限定シングルでリリースしたらおもしろいんじゃないかって企画だったんで。

ーー『新世界 別巻』の「空-ku-」はミヤさんのミックスで収録されていますが、確かにメロディは初期をイメージさせますね。

MUCC『空 -ku- (Mixed by Miya)』MUSIC VIDEO

ミヤ:ああ、やっぱりそうなんですね。新しいものと当時のものをミックスするというコンセプトで作っていたので、どちらの匂いも感じるものになればいいなと思ってましたけど。コード感やメロディは当時をイメージして、あと楽器とかも当時のものを使ってますが、演奏に向き合うベクトルは最新の自分たちという感じで。やっている側としては当時の楽曲をやっている感がそんなにない状態でしたね。ただ、今の自分が当時の歌詞は書けない。当時と今の自分を見比べたとき、両者を俯瞰している自分の気持ちを歌詞にしたんですね。あまりイメージしたことのない領域だったので、それが良かったと思います。

ーー〈雨の中〉というのが、当時の自分で?

ミヤ:うん。〈少年〉と言ってたりもするし。今は大人になったというのかな。そんなに鬼気迫らなくても大丈夫だよって投げかけの意味合いもあるし、つらいのも分かるけどね、みたいな感じというか。

ーー『新世界』を作るとき、自分の描きたいメッセージ性も変わってきたと言っていましたね。だから「空-ku-」も、ネガティブな方向だけでなく、前向きさも抱かせるような感じですか。

ミヤ:当時はネガティブなものがあったら、ネガティブな表現をすることによって、結果的にポジティブな方向に向かっていった感じだと思うんです。今は、ポジティブな方向に行けるだろっていう気持ちの素が、ネガティブな表現をしている感じで。当時はそこにあるものだけを表現していたんですよ。25年もやっていると気分もずいぶん変わってくるし。ただ変わらないこととして、そのときに思っていることしか歌っていないという。

ーー人としての成長や、時間を重ねる中で身につけた広い考え方が、歌詞が映す情景から見えてきます。

ミヤ:例えば当時がダメだったと仮定したとき、今と当時を比べることができている時点で、比較できるという行為自体がちょっとハッピーだなと思うんですよ。長くやっていて良かったなと思うところがそういう部分でもあって。

ーー2曲目「猿轡」から書き下ろしの曲が続きます。『新世界』のツアーを廻ってみて、新たな制作への欲求もすぐに生まれたんですか?

ミヤ:ツアーをやっていく中で世間の情勢も変わっていったし、『新世界』を作ったときと作り終えたときでもずいぶん変わっていたので、やっぱり違うベクトルの考えも生まれてきますよね。「猿轡」を書いたときは、この世界で生きていく中で別の歯がゆさも生まれてきて。なにが正義でなにが正義ではないのか分からないな、判断しづらいなっていう歯がゆさ。そういうことを歌っている曲なんです。分かりやすく言うと、例えば飲食店の衝立があるじゃないですか。すごく細かく設置している店もあって、それはクレームが来ないようにするためという店も、なかにはあると思うんです。だから“人間対コロナ”じゃなくて、“人間対人間”になっているというか。とくに日本は他の国と違う部分もあるし、なんかおかしいよねって思うことが、最近はボンボン出てくるんですよね。「猿轡」はそういう、『新世界』のときには生まれてこなかった別の感情が入っている曲だと思います。

ーーサウンド的には攻撃性もあって、ライブの次なるキラーチューン的な考えで作っていたところも?

ミヤ:『新世界』をもう1回やるならこういう曲もやりたいよね、というイメージでした。最新のMUCCとしてやっていく曲ではあるかなって気はしてますよ。

ーー3曲目「I wanna kiss」は、このリズムアプローチが今のMUCCだなと感じました。

ミヤ:歌っている内容としては「猿轡」に近いな、と俺は思っていて。

ーーいわゆるハレンチナンバー的な表現の曲ですけど。

ミヤ:ああ、そうですね。表面的なイメージや歌い方などで、そういうイメージがある曲ですけど、表現の仕方が違うだけで、俺の中では立ち位置的に「猿轡」と「I wanna kiss」は一緒です。「I wanna kiss」で逹瑯はコミュニケーションの取りづらさを歌っているんじゃないかなと思って。

ーー倒錯感を表したようなギターサウンドやメロディからは、今のMUCCの匂いがプンプンですよ。

ミヤ:そこはわりと『新世界』の世界観に近いかなって感じはあったんですけど、俺が歌詞まで書いちゃうと、『壊れたピアノとリビングデッド』(2019年)に入っている曲っぽくなっちゃう気がしたんですよ。だから俺はあえて書きたくないから、逹瑯に「書いてくれ」って話をしたんです。歯がゆさをストレートにぶつけるんじゃなくて、もうちょっと濁してほしくて。実際、かなり良かった。

ーーもうひとつの書き下ろし4曲目「別世界」は、逹瑯さんが作詞と作曲をしてますが、まず原曲をどう受け止めました?

ミヤ:珍しくサイケデリックな曲を作ってきたなって印象だったんです、最初。ここまでサイケデリックな曲は『新世界』にはなかったのと、浮遊感があるけど暗くて、陶酔感もある曲で。明るいのか暗いのか分からないみたいな部分が強くて好きな曲だし、一種の新しさを感じて。

ーー空間系エフェクトとシーケンス感覚のフレーズは、けっこうドラッギーで。

ミヤ:そうですね。演奏面でも自由に表現できるし、あと遊べる。コンガをsakuraさん(ZIGZO、Rayflower、THE MADCAP LAUGHS、gibkiy gibkiy gibkiy)に叩いてほしくてオファーしたんですよ。12月22、23日のライブにも参加してもらいます。

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