the band apart 木暮栄一「HIPHOP Memories to Go」第15回 ユーモアに惹かれたYoung Hastle&『Scent of August』全曲解説も

バンアパ木暮、Young Hastleとの出会い

『Scent of August』全曲解説

「photograph」

 わかりやすいサビはないけどキャッチー、という洋楽によくある構造を目指して(荒井談)作られた曲。「この部分は“フォトグラフ”って連呼したいんすよね……」という彼の呟きをもとに歌詞を書いていった。冒頭のエフェクティブなギターの音色は「K. and his bike」のアウトロに続くThe Bugglesオマージュではないかと思っているが、そういえばこのことを荒井に確認したことは一度もないなー。

「Game, Mom, Erase, Fuck, Sleep」

 「photograph」がThe Bugglesなら、こちらはKing Crimson「Sex Sleep Eat Drink Dream」のタイトルオマージュだが、曲調は原昌和オリジナル。ギターやベースのフレーズはもちろん、フィルインを除いたドラムパターンも彼が考えたものをそのまま踏襲している。我々特有の綱渡りレコーディングが招いた混乱により、当初予定していたテンポよりBPM“+6”ほど速めに録音。なので近年のライブでは音源よりもゆっくり演奏することが多い。整合感の伴った変拍子ならではの演奏的快感があります。

「AG (skit)」

 当初はアルバムのイントロとして作ったショートトラックだったが、マネージャー Kが「頼むから『photograph』を1曲目にしてくれ、お願い」とあまりにもしつこかったため現在の曲順になった。「light in the city」のギターフレーズをループした上で歌う女性ボーカルは、本屋のネット注文を捌くのが本業(当時)のchannyさん。現在はハンドメイドアクセサリー製作者として不定期に活動している。通奏されるノイジーなドローンギターは僕の自宅で録音したもの。

「light in the city」

 とにかくエネルギーのある曲を作りたくて作った曲。普段から余計なギミックを入れがちなので、シンプルなアレンジにするのに苦労した。何かのツアー中の福岡のホテルで、大半の歌詞を書いたことを覚えている。このアルバムが出た時はまだ30歳そこそこだったが、10~20代の頃のような勢いに任せた日々が終わりに近づいていることをなんとなく感じていたのだろう。そうした日々の記憶や感触、そこから得たものを自分なりの言葉で記録しているなーと思う。

「Azure」

 「light in the city」のアウトロからつなぐことだけを念頭に作り始めた曲。そして、アルバムだし多少地味でも趣味に走っちまえ、と自分なりのUSインディ/エモ方面にアレンジしていった結果、この形になった。イントロ~Aメロ以外のベースは原に考えてもらい、1番Bメロのリードギターは荒井につけてもらったりと、所々に各メンバーのアイデアが入りこんでいる。善人の皮を被ったクソ野郎が起こしたある出来事が歌詞のモチーフ。

「FUCK THEM ALL」

 曲調とタイトルのギャップがウケる。原はドラムマシンの達人でもあり、この曲のドラムパターンを最初に聴かされた時にはもちろん「こんな感じ」「え?」という会話があった。ドラムソロに関しても「そこはちょっとトリッキー過ぎるね」といった原監督の監修が入っている。歌詞は「SOMETIMES」や「Circle and Lines」の世界観に近いイメージ。喜怒哀楽でわかりやすく色づけできない曲調の時はこういう感じになりやすいのかもしれない。

「Source K (skit)」

 次曲「Taipei」のアウトロをループして作ったトラック上でchannyさんが「July」を歌唱している……って聴けばわかることだけど。この頃は自宅のPCでこういったループトラックをよく作っていたので、そうした僕の個人的趣味をそのままアルバムの構成に反映させたもの。タイトルは友達の子どもの名前。そういうタイトルが僕たちの制作物には多い。のちにそれを振り返って、ああ、この頃に生まれたんだっけ、みたいな。

「Taipei」

 初めてライブで訪れた台湾、台北の街の表通りと裏通り、日本と似ているようで大いに異なる街の風景にものすごく感動して、皆とタクシーに乗らずに深夜の街を一人だらだら歩くうちに、この曲の曲想を得た。サビの歌詞もその時に思いついた言葉をそのまま使っているので、歌詞だけ読むと自分でも何の話かよくわからないのだけど、気に入っています。曲構成がシンプルかつ演奏的自由度の高いアウトロがついていることもあって、比較的ライブでの演奏頻度が高い。

「bind」

 川崎らしいギターフレーズが散りばめられた曲。イントロ~Aメロのタムを使った特徴的なドラムパターンも川崎と相当時間をかけて作った記憶がある。この曲と「Game, Mom~」の歌詞はサビの部分だけ僕が書いて、残りの部分はジョージ(・ボッドマン)が書くといった方式で作った。曲のデモを聴いたジョージが『闇金ウシジマくん』みたいな世界観にしよう、と言っていた気がする。ハードに展開するアウトロ部分の尺を僕が間違えて録音してしまったため、ギター、ベースをそれに合わせるといったイレギュラーな工程を経て現在の終わり方になっている。

「Rays of Gravity」

 荒井らしいメロディアスな曲。リードギターのフレーズもほぼ荒井自身が考えたもの。最初に録音したドラムトラックを聴いた荒井が「ちょっとスネアがカンカンしすぎている気がしますね」と呟いたので、少しミュートしたスネアに替えて録り直した(余談だが、ちょうどこのアルバムくらいからライブでも徐々にスネアのチューニングが下がっていきます)。歌詞でメロディのキャッチーさが損なわれないようにわかりやすい単語を使うように心がけたと思う。歌い出しの〈Gravity~〉は荒井の当初の音のイメージをそのまま使った。

「Karma Picnic」

 コードワークやリズム、キメ、曲展開など原さん印がはっきり刻印された1曲。こうして昔の曲をじっくり聴き直すのはこのコラムを書く時くらいで、ライブでやっている曲以外はもはや他人の曲に聴こえることもしばしばなのだけど、そうしたある種の客観性をもって聴いても、この曲はなかなかカッコ良いなと思う。現在の耳年齢に合っているのかもしれない。実際に夜逃げを体験した友人の話が歌詞の元ネタになっているので、興味が向いた方は夜逃げの歌だと思って聴いてもらえると、新たな魅力が発見できるかもしれません。カルマ・ピクニック→宿業的お出かけ→ 夜逃げ。

「WHITE」

 この時期はまだ酒を飲むなら朝まで、というのが当たり前の生活をしていたので、帰宅する道すがら夜がだんだんと白んでいく姿をよく目にしていた。そんな明け方の街の風景と酔いどれた時に訪れがちな謎の感傷を、我々にしては珍しいドラマティックなバックトラックとメロディに乗せた曲。生活がすっかり昼型になった今からすれば懐かしい話。荒削りだけど『Adze of penguin』の頃よりは、やりたいことは伝わる。引越しの時に見つけた昔の写真のような。

「1000 light years」

 「Karma Picnic」と同じく、聴くのが久しぶり過ぎて、以前とは違った良さを感じる曲。荒井のボーカルのキーが低めなのも良い。川崎の作った曲は僕では到底思いつかないギターリフが満載なので、そうした意味でも聴き応えがある。アグレッシブな曲調に対して、僕が当時ハマっていた少女漫画『君に届け』に触発された恋する少年の歌になっている。京都のライブハウスの楽屋で川崎に「こんな感じの歌詞になっちゃったんだけど」と内容を説明したところ「いいんじゃない」と端的な答えが返ってきたことを覚えている。アウトロがウケる。

「Stay Up Late」

 アルバムのラストトラックだが、録音したのは最初だったと思う。この時期の荒井の作曲におけるテーマとして「大袈裟なサビを作らない」というのがあったようで、この曲もいわゆる“サビ”というよりは洋楽における“フック”程度に抑えられている印象。全体に抑制されたムードの中、録音エンジニア 速水直樹氏と局地的に盛り上がっていた「クエストラブ的なサブスネア」が一部採用されている。歌詞はJ・D・サリンジャーの名著『ライ麦畑でつかまえて』的な世界観インスパイア系であります。

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