にしな、春ワンマンや夏フェス出演で拡張する表現の幅 堂々のステージングで閉幕した最新ツアー『1999』レポ

にしな、ワンマンツアー『1999』レポ

 盛んに「緊張している」と言いながら、モニターに座ったり、自由に動き回りながら歌う「centi」や、空間系のシンセが心地よい揺れを演出する「夜間飛行」の甘くセンシャルなムード。密室かつ刹那的な夢心地からグッと現実の苦味に移行する、語りを交えた「ワンルーム」へ。ミニマムなバンドアレンジが本心に気づく主人公の決心を際立たせているようだった。一つの別れを経験した女性側の物語として、続く「透明な黒と鉄分のある赤」に繋がるようで、舞台か映画を見ているような感覚を持ってしまった。ライブアレンジではギターが前面に出た印象で、ダンサブルでありつつささくれ立った印象も残したのは見事。

にしなライブ評(サブ)

 1曲1曲の世界を丁寧に作り上げるタイプのライブだが、ファンが参加してくれている様子をもっと見たいと思ったのか、フェスでレキシの稲穂を振る恒例のアクションを参考に「ケダモノのフレンズ」にちなんだ“ケダモノのしっぽ”をグッズで販売。全体的に没入感の高い彼女のライブでは唐突感は否めないが、それぐらい楽しめる曲としてファンの間では浸透しているということでもあるのだろう。孤独な生き物としての一人ひとりも、個のままでここに集まり、ひととき一緒に踊りしっぽをぶん回す(!)ことで仲間意識を持てたりするのだろう。一体感を強要される部分は一切ない彼女のライブらしい絶妙な“おもしろムーブ”だ。

 ラップ調から素朴なメロディに接続するユニークな歌い出しにひらめきを感じずにいられない「U+」。〈今世紀最悪の嘘を、この時代に暴きたい〉と同時にこの時代は終わりだと歌う、実は誰もが感じている欺瞞をポップに昇華する曲に にしな の強さを感じるし、作家、アーティストとして今後もっと大きなフィールドへ出ていく際にも戦えるマインドがあると感じた。そんな曲が自然界を思わせる星に見立てた電飾の中で歌われたことも印象深かった。さらにさりげなく「ヘビースモーク」へ移り、堂々たるミュージシャンの佇まいを見せ、長く大きな拍手が贈られた。鼓動のようなドラムのキックも効果的な「青藍遊泳」へ。心の奥に世界に抗う子どもの心を持って生きていく、生きて行ってもいいと思わせてくれるメロディと大きな演奏だ。

にしなライブ評(サブ)

 「じゃあ最後、ツアータイトルになっている曲をやって終わります」と、終わりの始まりを告げるような「1999」を歌い始めるのだが、曲の半ばからステージが見えないばかりか、フロアにも流れ込む大量のスモークで、演者の姿よりオーディエンス各々にどんな感情が生まれるのか? もしくは地球最後の日を表現する演出なのか? いずれにしても盛り上がるライブのラストという予定調和とはかけ離れた演出に大いに感銘を受けてしまった。

 アンコールでは新曲「ホットミルク」と、バンド時代のシンプルなポップパンク「アイニコイ」を披露して、最新と原点を聴かせてくれた彼女。R&Bやヒップホップというバックグラウンドと、思いを言葉として表出させるソングライターという異なる資質をどちらも強く持っている にしな 。その自然な表出は大袈裟な演出や盛り上がりを必要としなかった。エンタメに向かうのか、どこまでも曲で多くのリスナーを吸引するのか、さらに今後が楽しみになったツアーファイナルだった。

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