常田自身がわざわざ引き合いに出して述懐していることからもわかるとおり、「Stardom」は「飛行艇」以降のKing Gnuの物語に対するアンサー、あるいは落とし前である。いや、“King Gnuの”というよりも“常田の物語”といったほうがいいかもしれない。おそらく上のコメントにある「気づき」は、King Gnuの躍進と並行するように勃発したmillennium paradeの本格始動とも無縁ではなかったはずだからだ。証拠はある。「Stardom」の歌詞には常田自身の心象風景や「飛行艇」とのつながりとともにミレパとのリンクが明確に提示されているのだ。

　果てしない自問自答から語り起こされる「Stardom」の歌詞が描くのは、打ちひしがれ、砂を噛むような道程を歩みながらも未来の栄光に向かって挑み続ける主人公の姿である。〈あの日の悪夢を／断ち切ったならば／スポットライトに何度でも／手を伸ばし続けるから〉ーーそうした歌詞の中に〈さあ命揺らせよBlow Life〉という、「飛行艇」の〈命揺らせ〉という名文句を髣髴とさせるフレーズも飛び込んでくる。この曲の始まりが他ならぬあの曲であったことを示すキーワードである。しかしそれ以上に重要なのは1コーラス目の同じ箇所に登場する〈Honey make the world get down〉、そして〈It’s time to get fly with me〉というフレーズである。いうまでもなく前者はmillennium paradeの「Fly with me」の歌詞そのまま、そして後者も同曲の〈It’s time to get down with me〉をもじったものだ。サウンド的にもリズムチェンジをしながら風景を塗り重ねていくようなこの曲はKing Gnu的王道とミレパ的王道のハイブリッドといえるものになっているし、その中で「ミレパ的」ともいえる常田ボーカルのパートでこうした歌詞の引用が行われているのも当然意図的だろう。

　なぜこのタイミングで、常田はこのような歌詞とサウンドを生み出したのか。あくまで想像だが、それは「Stardom」が、他のどの曲にも増して常田にとって自伝的な要素を孕んでいる、というよりもそれを目指したものだからなのではないかと思う。ここに刻まれているのはKing Gnuとミレパの2つが重なる場所にある常田自身の物語なのだ。そういう意味ではこの曲はそれこそ「壇上」のような、あるいはmillennium paradeの「FAMILIA」のような赤裸々な告白なのであり、そんな告白を彼はこの大舞台でやってのけてしまっている、ということなのだ。

　「Fly with me」はアニメ『攻殻機動隊 SAC_2045』のオープニングテーマとして作品に寄り添いながら、millennium paradeとしての根本姿勢を示すような宣言の曲だったと思っている。であるならばその歌詞を引用しながら紡ぎ上げたこの「Stardom」もまた、King Gnuというバンドの根本姿勢を今一度問い直す1曲だとはいえないだろうか。〈生に涯があったって／名前に涯など無いね／栄光の輝きに毒されて／限界の少し先へ〉ーー――今や名実ともに日本のトップバンドの仲間入りを果たし、2019年当時とはまったく違う地点に立っているKing Gnuだが、その渇きは少しも癒えてはいないし、情熱の火はいっそう燃え上がっている。「全ての人々の、今日を生き抜くエネルギーになるような」音楽という真の「スターダム」に向かってまだまだもがき続ける覚悟と決意を、この曲は確かに掲げているのだ。

※1：https://kinggnu.jp/news/2022/10/stardom-221006/

■リリース情報
『Stardom』（2022 NHKサッカーテーマ）
配信：2022年11月17日（木）先行配信

発売：2022年11月30日（水）発売
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◎Blu-ray Disc付き初回生産限定盤
5,500円（税込）
◎通常盤：1,100円（税込）

＜CD収録曲＞
01. Stardom (2022 NHKサッカーテーマ)
02. 雨燦々 (TBS系 日曜劇場「オールドルーキー」主題歌)
03. Stardom -Instrumental-

【初回生産限定盤特典Blu-ray】
King Gnu Live Tour 2021 AW Tour Final
December 15th, 2021 at YOYOGI NATIONAL STADIUM FIRST GYMNASIUM

01. 飛行艇
02. 千両役者
03. Vinyl
04. Sorrows
05. ユーモア
06. 白日
07. 破裂
08. Prayer X
09. The hole
10. 泡
11. Hitman
12. 三文小説
13. Slumberland
14. Tokyo Rendez-Vous
15. 傘
16. どろん
17. Flash!!!
18. Teenager Forever
Encore
19. BOY
20. 一途
21. サマーレイン・ダイバー

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