Wienners、“日本”をコンセプトにしたツアー『春雷行脚』千秋楽 声出しOK公演で守られる秩序と誇り

Wienners『春雷行脚』千秋楽レポ

 街がハロウィンムードで溢れかえる10月最後の土曜日。新宿・歌舞伎町のど真ん中にある新宿BLAZE。浮かれた仮装の人々をすり抜けた、地下のライブハウスで待っていたのは、“研いだ鋭利な楽器を持った4人組”Wiennersだ。“日本”をコンセプトにしたツアー『春雷行脚』の振替公演千秋楽が行われていたのだった。

 開演前から場内には落語が流れ、ステージ上には提灯や和傘、だるまなどが並ぶ。開演時刻を迎え場内が暗転すると、拍子木を合図に神楽音楽が鳴り始める。厳かな雰囲気の中、最初にステージに登場したのは、和服の羽織を着たKOZO(Dr)。彼の叩く太鼓の音に乗せて、いずれも和服の羽織を着た、∴560∵(Ba/Cho)、アサミサエ(Vo/Key/Sampler)、玉屋2060%(Vo/Gt)が順に登場。玉屋の「『春雷行脚』、参ろうか!」という挨拶を皮切りに、バンドは「おおるないとじゃっぷせっしょん」でライブの口火を切った。日本人の侍ファンクバンドがアメリカのダンス番組に出演し、勝ちに行くイメージで作られたという同曲。まさに“日本”コンセプトのライブの幕開けにぴったりだ。

 今回のツアーはマスク着用の上、通常の会話時の声量を上回らない範囲であればライブ中の声出しはOKとアナウンスされていた。玉屋も「今日はあなたたちの声を少し聴けるのを、めっちゃ楽しみにしてきたんですけど!」と声を弾ませていたが、1曲目から合いの手や合唱などが、少しだが確かに聴こえる状態に。その様子はまさにライブハウスをSAVEしようという願いの結晶。そんなWiennersが提案した状況の中で演奏される「GOD SAVE THE MUSIC」はとてつもなく美しかった。

 MCではメンバーが各地で“どこまでつづくか”と始めた若干の江戸言葉で話す場面もあり、和アレンジされた「Japan holi(春雷ver.)」なども合わせて、隅々までコンセプトに沿ったライブを展開していた彼らだったが、中でもその手腕が光ったのが中盤。インストナンバー「龍宮城」から「さよなら浦島太郎」、そして「極楽浄土のあなたへ」とまさに“日本”をテーマやコンセプトにした楽曲が続けられる。さらに玉屋が「え〜、火事と喧嘩は江戸の華なんて言葉がございますけども」とのマクラから落語を始めれば、「よっ、玉屋!」と掛け声がかかり、さらに玉屋がラップを聞かせる「MUSASHINO CITY(remix ver.)」へ繋げる流れは、すべてがこのアレンジで披露するために作られたかのよう。ちなみに「MUSASHINO CITY」の最後のセリフは〈御後が宜しいようで〉に替えられていた。とはいえ、まだまだ『春雷行脚』は終わらない。玉屋の落語から捌けていたメンバーが「粋であった」「良き宴じゃった」と絶賛しながら戻ってきたあとには、全編マイナースケールのゴーストパーティーチューン「FACTION」から、「南無阿弥陀仏のリズムに乗って」。そしてアサミサエが『竹取物語』の冒頭を朗読してから、かぐや姫をモチーフにした「姫」へとなだれ込む。〈あなたはまるで今宵の月のよう〉〈ああ姫よ さよならの意味を教えてくれないか〉と歌う同曲から、玉屋が宙を見上げて「姫、そこにいるのか?」と語りかけて「十五夜サテライト」を続ける流れには感嘆した。正確には十五夜は9月ではあるが、『春雷行脚』が振替で秋の開催になったことすら偶然ながら運命めいたものを感じてしまう。

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